第百十八話 Aランクへの道
筆が進まず更新が遅くなってすみません。
ブラッドベアーを倒した俺達は王都へ戻るべく馬車を走らせていた。帰りは特に急ぐ事も無いので比較的ゆっくりとした歩みだ。俺は御者台で馬を操りながら周囲を警戒しているが、何事も無く穏やかな空気が流れている。
「復帰の初戦としてどうだった?Bランクならトーヤ一人で行けそうよね」
昼に近づいた頃、後ろの荷台から姉があくびを噛み殺しながら声を掛けて来た。何もなくて暇だったのだろう、アリスも話に混じろうと近づいてくる。
「そうだな。ヒュドラに比べるとやっぱり見劣りするからなぁ、威圧感を感じなくて負ける気がしなかったな」
俺は素直に感じたことを言った、決してブラッドベアーが弱いわけでは無い。Bランクともなれば村の二つや三つが簡単に滅ぶ強さだ。だけど、ヒュドラと相対した経験とこの一年の修行を経てBランクと余裕で戦える強さを手に入れたのだと実感できた。
「腕はどうでした?特に違和感とかなかったんです?」
そう言ってアリスが俺の腕をつんつんと突っついた。俺はそんな行為をかわいいなと思いながら微笑む。
「ああ、腕も特に問題は無いよ。今回も左腕だけの能力使っただけで倒せたし、時間さえかければ腕の能力なしでもいけそうだった」
実際、今回のブラッドベアーは怪力と突進には注意が必要だったが特に問題なく倒せた。以前苦戦したリザードマンが来ても今なら余裕で倒せるだろう。
王都へと戻った俺達はギルドで依頼達成の報告をすると、Aランクへの昇級試験を受けたいとギルドへ申し出た。すると受付の子はとても驚いた顔で直ぐにサブマスターのマリナさんに取り次いでくれた。
少し待っていると奥からマリナさんがやってきて俺達に笑顔を向けた。
「お待たせしました。お話は奥で伺いますのでこちらへお越しください」
マリナさんに案内されてギルドの奥にある部屋へと通される。俺達が部屋へと入ると応接室のようなソファーが置いてあったのでマリナさんへ向かい合い座る。
「それで、やっとAランクの昇級試験を受ける決心をしてくれたんですって?」
マリナさんは嬉しそうな顔で俺達に話しかけて来た。俺は頷いて返事を返す。
「はい、ヒュドラをバトラさん達と倒してから一年経ちましたけど、俺の腕も今回のブラッドベアー討伐で前以上になったのが確認できました。他の皆も俺が一年休んでる間に三人で依頼を受けて自信を持ってAランクと遜色ない実力が身に着いたんじゃないかなって」
俺はチームメンバーと顔を見合わせて最終的な意思を確認した。マリナさんは頷くと手元の書類へ視線を落としながら話をつづけた。
「チーム『侍』のAランク申請を受理します。最初に皆さんが登録した際に説明したと思いますが、Aランクへは相応の魔物の討伐が認められる事、礼儀作法などで100時間の講習があります。
メンバーのフラウさんは既にAランクなのでトーヤさん、チアキさん、アリスさんの三名が今回の対象となりますが・・・」
マリナさんはそこで一旦言葉を切り、俺達三人を順に見つめた。
「Aランクの魔物の討伐は既に一年前にヒュドラを『片翼』と共同で倒していますが、今回は皆様のみで倒して頂くことになります。とはいえ、Aランクの魔物は現在報告されていないので同ランクのチーム『片翼』との模擬戦という形式を取りたいと思います」
俺は驚いてマリナさんの顔を見た。Aランクの魔物を討伐するものとばかり思っていたのに、バトラさん達との模擬戦というのは予想外の展開だった。
「バトラさん達とですか?」
俺は確認の為にマリナさんに尋ねると、マリナさんは頷いて説明をしてくれた。
「本来はAランクの魔物を倒して貰うんです。でも今現在この国にはAランクの魔物は確認されておりません、残るは他国で報告された魔物の討伐に向かって貰うんですが最近は他国でもAランクの情報は聞こえてきていないのです。そこでAランクのチームと模擬戦を行い、実力的に問題なしと認められれば合格という事にします」
俺は腕を組み考え混む。確かにAランクを探してあちこち旅して回るよりは早いだろう。それに現状で害をなしていない魔物を探し出して無駄に刺激をして、そいつが怒って暴れても困るわけだ。
「わかりました。では模擬戦で俺達は問題ありません」
俺が頷くのを見てマリナさんも笑顔に戻る。
「助かります、我が国でもAランクは以前のヒュドラ討伐でご一緒だった三チームしか居ません。トーヤさん達がAランクへなって貰うのは私たちとしても助かるんです。
それと、礼儀作法の100時間講習ですが。アリスさんは貴族の出なので不要ですよね?それにトーヤさんとチアキさんは先王様と魔法学院の院長様の元、礼儀作法は学んでいるとお聞きしています。ですから模擬戦が終わりましたら最終確認だけとさせていただきますね」
これは嬉しい誤算だ、礼儀作法は確かにお婆ちゃんから学んでいるし家でもセバスさんから一般的な礼儀作法や食事のマナーは学んでいた。100時間も講習を受けるとなると毎日少しずつ受けても一か月はかかるだろうから面倒だなと思っていたのだ。
「それは嬉しいですね、後で問題が無いかお婆ちゃんに見て貰いますよ」
俺は笑って姉の方を向いた。姉も特に問題ないと言っているのでその方向で話を進めることになった。俺達は部屋を退出するとブラッドベアーの討伐報酬を貰い家へと帰った。
「まさかバトラさん達と戦う事になるとはなぁ・・・」
俺は帰り道に家で待つ皆への土産に串焼きを十数本買い、袋を抱えながら呟いた。
「合宿を受けた時には手も足も出ませんでしたけどね、今なら少しは戦えるのでしょうか?」
俺の呟きにアリスが隣を歩きながら不安げに答えた。俺は合宿の時にバトラさんに散々やられた時のことを思い出して顔を顰めた。
「私たちもかなり強くなったと思うわよ?リッヒさんとベルチェさんなら私とアリスも負けない自信はあるし、残るはバトラにトーヤが勝てるかね」
「うーん、フラウが参加できないのは厳しいよな。既にAランクだから模擬戦に参加できないし」
「ゴメンね~?昇級試験は既にランクアップしてるメンバーは参加できないから。でもボクが居なくても皆ならいけるんじゃない?」
フラウが俺と姉の会話に両手を合わせて謝ってくる。まあ、ルールなのだから仕方がないのだろうけど同じチームのメンバーが欠けるのは痛い。
「でも、勝てなくてもいいんですよね?同等の能力があると認められれば昇級できるのでは?」
「いや!合宿でしごかれた恨みは此処で晴らす!」
アリスの言葉に俺は全力で否定した。確かに勝てなくても能力的にAランクに相応しいと認められれば良いのだが、どうせやるからにはバトラさんには勝ちたい。冒険者としてというよりは、一人の男として譲れない部分である。
「なら勝てるように明日からもBランクの魔物の討伐に行って連携を訓練しましょう」
アリスもやる気になったようで両手をぐっと握って意気込んでいた。