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僕の彼女は異世界人  作者: 藤乃叶夢
第六章 覚醒編
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第百十六話 ブラッドベアー1

 少しの間依頼掲示板を眺めていると、カードの更新が終わったようで窓口から自分を呼ぶ声が聞こえた。以前のギルドと違い、要件が済むまで一人が窓口を占領しなくなっており、ギルドの処理が終わると呼び出される方式へと変わっていた。やってくる冒険者もギルドの職員も増えたが故の変化なのだろうが、これはこれでストレスが無くて助かるなと思う。


 「では、ギルドカードをお返ししますね。何か依頼を受けていかれますか?」


 「これをお願いします」


 先ほどよりもだいぶ落ち着いたレイの言葉に俺は一枚の依頼書を手渡す。先ほど掲示板を見ていた時に丁度よさそうな依頼を見つけたので剥がしておいたものだ。

 俺が受けようとしているのはブラッドベアーという巨大熊の魔物の討伐依頼だ。王都から北部に二日程の山中で目撃されたらしく近隣の村から倒してほしいと依頼が来ていた。


 「ブラッドベアーですか・・・。Bランクの魔物なので十分注意してくださいね?」


 レイは心配しつつ手続きをしてくれた。この近辺だと見る事のない魔物だが、アリスがギルドの資料室で見たことがあると言っていたのでこの後寄っていくつもりだ。

 依頼を受けることが出来たので俺は皆でギルドの資料室へと向かい、ブラッドベアーの詳しい生態を調べた。ブラッドベアーは全身が血に濡れたかのように赤い毛の熊で、体長は大きな個体で八メートルにもなるそうだ。攻撃は巨大な体から繰り出される殴り、爪による引っ掻きと突進らしい。大きいだけで攻撃パターンは普通の熊と変わらないようなイメージだ。

 特筆すべきは腕が四本ある事だろうか、因みに走るときはちゃんと四足で腕二本は自由になるらしいと資料に書いてあった。


 「やっと四人で冒険が出来るわね~」


 ギルドを出ると姉が伸びをしながら俺に言って来た。するとアリスも同意して呆れたような口調で呟く。

 

 「そうですね。トーヤが一年も別行動になるとは予想外でした・・・」


 「あら?でも夜は何時もトーヤの部屋に行ってたじゃない?アリスは」


 「なっ?!」


 何やらアリスと姉の漫才が始まった。俺がなんて口を挟めばいいのか悩みつつ家への帰路を歩いていると、フラウが空気を読まずに騒ぐ。


 「そんなことよりお腹空いたよ!早く帰ってご飯にしよう?」


 「そうだな、今日からはまた一緒に行動できるから勘弁してくれ。あと、姉貴はちょくちょくバトラさんの所に泊まり込んでるだろ?アリスをからかうのはどうかと思う」


 フラウの言葉で姉とアリスの言い合いが止んだので、つい口を挟んでしまった。姉からすごい睨まれている視線を感じる・・・。アリスは自分を庇ってくれたのが嬉しかったのか、俺に腕を絡ませて隣に並んで歩き始める。


 「ま、明日は熊の居る地点に移動を開始するからな。久々の討伐だから腕が鳴るなぁ」


 俺達はそんな事を喋りながら家へと帰った。


 翌朝、夜が明けると同時に馬車に乗り王都を出発した。この馬車は俺が冒険者を休んでいた一年の間に姉やアリスが移動用に購入したものだ。馬は二頭立てなので俺が増えても余裕で引いてくれる。荷台には幌がかかっていて野営の時でも雨に濡れなくて済むので助かるらしい。


 最近は魔物の討伐が盛んで王都周辺からは魔物が大分減ってきている。これは冒険者が絶えず往来するので魔物が近づかなくなっていたり倒されて絶対数が減って来ているからだ。そんな理由もあって王都から一日程すぎるまでは魔物に会うことも無く順調に距離を稼ぐ事ができた。


 その日は小さな開拓村で小屋を貸して貰い休むことが出来た。アイテムボックスから毛布や食事などは取り出せるので雨風も凌げるし快適な寝床だった。

 翌朝には小屋を貸してくれた村人に幾らかのお礼を渡してから村を出立した。今日中には依頼のあった村へと着く予定で、詳しい状況と近況を確認したら熊を捜索する予定だ。


 昼を過ぎた時間になるとやっと目的の村が見えてきた。村の入り口へと辿り着くと近くに居た村人に頼んで村長の家へと案内してもらった。


 「おお、冒険者の方ですね?私はこの村の長を務めさせて貰っておりますベッグと言います」


 村長の家へと案内してもらうと、中から四十代くらいのおじさんが出て来た。村長というにはずいぶん若い人だったので少し意外だった。


 「どうも、ギルドへ依頼されていたブラッドベアーの討伐に来ました。Bランクのトーヤと言います」


 「ほう、Bランクとは流石ですね!そんな高名な冒険者に来て頂けると私どもも安心です」


 村長のベッグさんはニコニコしながら俺の手を取り握手をしてくる。ベッグさんは家の中へと入るよう勧めてくれたので俺達は村長の家へとお邪魔し、中で話を聞くことになった。


 「例の赤い熊を発見したのは狩人のトーマスが最初でしたが、この村より北東に数キロ離れている山中だということでした」


 どうやら第一目撃者のトーマスさんがブラッドベアーを見た後、別の狩人が数回目撃しているようで、徐々にだが村の方へと近づいているようだ。最初に見たのが今から一週間前、ベッグさんは直ぐに冒険者ギルドへと遣いを行かせ依頼を頼んだそうだ。

 最後に姿を確認したのが二日前で、この時点では村から五キロも離れていないだろうという。あと数日遅ければ村のすぐ近くまでやってきていただろうとベッグさんは胸を撫で下ろした。


 「分かりました、あまり猶予は無さそうなので今日からすぐ討伐に向かいます。近くまで誰か案内を頼めればと思うんですが、頼めますか?」


 俺がベッグさんに頼むと二日前にブラッドベアーを目撃した狩人を案内に付けてくれることとなった。直ぐにその狩人の元へと遣いが走り、十分もしない内に一人の少年が村長の家へとやってきた。


 「オラの名はチッタって言うんだ!兄ちゃん達、案内はまかせてよ!」


 その狩人はまだ十歳を超えたばかりだろうか、幼さの残る少年だった。チッタと名乗った少年はその年で既に大人顔負けの弓の技量を持っていて、村最年少の狩人だという。


 「チッタ君か、なかなか弓の名手なんだって?危険もあるかと思うけど案内よろしく頼むよ」


 俺がチッタに頭を下げ案内を頼むと、チッタは鼻をこすり得意げに言った。


 「うん!弓だけなら誰にも負けないよ!遠くからなら援護も出来るから期待しててよ!」


 「これ!チッタ。お前の弓の技量は知っておるが相手はBランクの凶暴な魔物だ!決してトーヤ殿達の邪魔をするんじゃないぞ?」


 チッタが俺たちに弓を見せて言うと、村長が慌ててチッタを諌めた。チッタは少し拗ねたように口を尖らせるとしぶしぶ頷いた。


 「いや、Bランクの魔物相手に怖気づかないだけでもすごいよ!近くに寄らない状況でならチッタ君の弓も貴重な戦力になるしね。でも、俺達の言う事はきちんと聞いてくれるかな?」


 俺は拗ねているチッタを褒める事にした。下手に依怙地いこじになって連携を崩されたり勝手な真似をされるくらいならある程度役割を与えたほうがお互いの為になるだろうと思ったからだ。

 この年頃の少年は大人に認められようと背伸びをするものだ、子供扱いするよりも対等に近い扱いをすると割かし聞き分けがよくなる。


 「うん!ちゃんと言う事聞くから俺にも手伝わせてね?」


 すると俺の読み通りチッタは笑顔で俺と約束をしてくれた。まあ、近くで魔物を見れば多少なりとも恐怖を感じるとは思うので、このくらい強気のほうが後々良いだろう。

 村長のすまなさそうな表情に大丈夫だと伝えるとチッタの準備が整い次第討伐へと向かうことにした。


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