第百十四話 新たなる力
新年あけましておめでとうございます。
今年も少しでも楽しんでお読みいただけると幸いです。
ファレーム国の冒険者ギルドは今日も活気付いていた。一年前にAランクの魔物であるヒュドラに追われた魔物達が北部より流れて来てから討伐依頼が増えている所為だ。普段それ程魔物が多くなかったファレームに多くの魔物が流れて来た所為で周辺の集落や村では魔物の被害が多発しており、冒険者への依頼が一年前に比べ圧倒的に増えていた。
「ホワイトタイガーの討伐報酬を御待ちの方!受け取りに四番窓口へ来てください!」
受付嬢達も声を張り上げながら以前に比べて忙しくなった業務をこなしていく。依頼を受けに来る者、討伐報酬を受け取ったり素材を売る冒険者などで喧々囂々(けんけんごうごう)とした騒ぎの中、ギルドの入り口が開く音が聞こえた。
(はぁ、また冒険者が追加ね・・・)
一人の受付嬢が溜息を吐く、彼女はギルドの職員になってからまだ一年程しか経っておらず、この忙しさに目が回りそうだった。彼女が入口をチラっと見ると数名の冒険者が入って来る所だった。 ただ、他の冒険者と違うのは三人の冒険者の周囲を飛んでいる妖精の存在だろうか。受付嬢はその妖精を見て誰かわかったらしく、手を止めて入ってくる冒険者を憧れの眼差しで見つめた。
「うへ~、混んでるなぁ・・・」
俺はそう呟くと込み合ったギルドを見渡した。暫くぶりにギルドへとやってきたが一年前に比べると冒険者は以前の数倍に膨れ上がり、ギルド職員も倍はいるのではないかと思える。
「私たちは時折ギルドに顔を出していましたけれど、トーヤはこの一年修行だの訓練だので全くギルドに顔を出していなかったですものね。驚くのも無理ないです」
俺の呟きを聞き答えたのは隣で腕を組んでいるアリスだ。アリスはこの一年でかなり大人びて見えるようになった。十八になろうとしている彼女は少女のあどけなさが抜け、大人の魅力を醸し出している。
「そうだよ!ボク達三人でばっかり狩りして。トーヤはいっつもあのお爺ちゃんとばっかり!」
そんな言葉を投げてくるのは周囲を飛んでいたフェアリーのフラウだ。彼女は俺の頭の上に着地すると文句を続けていた。俺は苦笑しつつ謝罪した。
「ごめんな、この腕を使いこなすのに時間が掛かったのもあるし、Aランクとして恥じない実力が身に着くまでは冒険はダメだってお婆ちゃんが煩かったんだ」
そう言って頭の上に居るフラウを左手で抱えると姉へと手渡す。
「まあ、二度とあんな事が起きて欲しく無いから私たちも納得はしてたけどね?両腕を失くして今度起きたら次は足よ?」
「両手、両足が義肢になったらサイボーグだよな」
姉の小言に冗談で返すと姉から後頭部に拳骨を喰らう。姉を見ると表情は笑顔だが目が笑っていない。俺は肩を竦めると小さく「ごめん」と呟いた。
一年前、突如北の山脈に現れたAランクの魔物『ヒュドラ』。そのヒュドラが二匹同時という事態に冒険者ギルドから討伐に向かったAランクの冒険者チームと俺達は、数名の死者を出す犠牲を払いながらも討伐に成功した。その功績で俺達は冒険者ランクAへ昇級する権利を得た。
だが、その時の戦闘で俺は左腕を失った。俺は昇級試験を一旦保留にし、腕をなんとかするまで冒険の依頼は受けないことにした。王都に戻ってから傷口が落ち着くまで療養した俺はアリスに禁呪である『義肢創造』を左腕に施してもらった。
これは俺の右腕と同じく、金属でも木片でも腕や脚として創造することが出来る秘術だ。そして俺が腕の代替えとなるべく選んだ素材は『ヒュドラ』の頭部だった。
ヒュドラの頭部を選んだ理由はAランクとしての魔物であり、硬く高い魔法耐性を持つ皮膚だということ。そして牙やブレスなどの多彩な攻撃方法を持つヒュドラの頭を使えば最高の義肢になるのではないかという意見からだった。因みにその意見を言ったのは学院のマッドサイエンティストこと、ジャッカル爺さんだった。
その言葉にヒュドラ討伐に同行した他のチームへ頼みヒュドラの頭部を分けて貰った。二匹分のヒュドラの頭は九つあった為、分配だといって二つ分けて貰うことが出来た。学院にあるジャッカルさんの研究室で皆が見守る中、実験が開始された。
ヒュドラの頭はアイテムボックスに入れていたお蔭で、討伐が終わった時と同じ状態だった。首にあたる場所を数人がかりで俺の肩口に押し当ててもらう。そして俺は一度深呼吸をしてから魔術を発動した。
「『義肢創造』!」
発動された魔術はまず俺の肩とヒュドラの頭を接合した、そして次の瞬間ヒュドラの頭はメキメキと嫌な音を立てながら腕の形へと変形してゆく。一分程かけて遂にヒュドラの頭は人間の腕と同じ形状へと変化した。多すぎた素材だったのか幾つかの骨や肉は分離して机に残っていた。俺は新たな腕が自分の魔力と馴染み一体化したのを感じ取ると、腕を持ち上げて動かしてみることにした。
形は自分の腕だった頃と寸分違わぬ形にはなっているが、腕の外側と手の甲にはヒュドラの鱗がびっしりと覆われている。逆に腕の内側と掌は元の人間の皮膚に近い色合いの皮膚で形成されており、パッと見は腕に籠手を着けているように見えなくも無い。
「見た目的には成功だけど、性能とか特殊効果とかどんな感じなのかね?」
俺は疑問に思いつつ、左腕に魔力を流し込む。木の板を殴ってみたり、硬い木の実を握りつぶしたりと性能を確認する。どうやら右腕のオリハルコン製の腕に比べてスムーズに動くし、硬い物を殴ったりしても腕に傷が付いたりすることも無く、かなり丈夫に出来ているようだ。
それから二週間程かけてジャッカルさんと腕の性能を実験していた中で、突如左腕に変化があった。それは、全力で腕に魔力を流して耐久性のテストをしていた最中に、掌から雷のブレスが放たれたのだ!幸いにも訓練場での実験だったので被害は無かったが、俺とジャッカルさんはまた魔道砲の再来か?!と冷や汗が流れた。
以前、右腕に様々なギミックを取り付けて居た際、魔道砲と呼ばれる高出力の武器をくっつけてしまい訓練場を破壊してしまった事がある。その後処理に俺は一週間土木作業をやる羽目になり、ジャッカルさんはお婆ちゃんに大目玉を喰らい、軽いトラウマになっていた。
あの苦労を二度と味わいたく無いと俺とジャッカルさんは慎重に腕の性能を把握するようにし、二か月程かけて左腕の隠された性能を全て調べる事が出来たのだ。
今年はひとまず二日に一回のペースで書きたいと思います。