第百八話 ヒュドラの生態
王都を出発して半日以上馬を走らせたが先行していたチームには未だ追い付けなかった。流石にあちらも全力で走っているだろうから半日程度で追いつける筈も無いかとため息をつく。
ヒュドラが居ると言われる場所まで馬で三日はかかる、今夜はもう少しだけ移動したなら野営をする必要があるだろう。俺は薄暗くなってきた空を見ながら必死に馬を走らせた。
周囲が暗くなり見通しが悪くなったので流石に馬を休めて野営の準備に移った。いくら馬に回復魔法をかけて疲労を回復させながらの移動だったとは言え、一度に無理をさせると明日以降の行程に差し障りがでるからだ。
俺たちと『片翼』のメンバーは野営の準備を終えると同時にヒュドラ討伐の打ち合わせを行うことにした。事前に敵の攻撃方法や弱点などを教えて貰い、討伐の成功率を上げる為だ。
「まず、四つ首のヒュドラは他のタイプのヒュドラと比べて体はそんなに大きくはない。全長が十メートルくらいか?成体でその程度のサイズだ。これが九つ首とかになると二十メートルを超える奴がいるんだが、あの個体は単体でSランクになるから桁違いだな」
バトラさんが俺たちにヒュドラの特徴を教えてくれる。先王であるお爺ちゃんも交えてヒュドラの情報を細部に至るまで説明してくれる。俺たちは聞き逃さないようにしつつ情報を頭に叩き込む。
ヒュドラは首の本数によってランクが異なる、今回は四つ首なのでAランクだが最大で九つまで首が増えるらしい。これは四つ首が成長するにしたがって首が増えていくらしく、生まれた時から別れているわけじゃないことに驚いたがそういう物なのだろう。
今回のヒュドラは斥候からの報告では四つ首だったが、月日が経つと首が増えて成長してしまう場合があるそうだ。それでも一気に九つに増える訳ではないので精々五か六になる程度らしいが、首が一つ増えるだけで難易度が上がる。
「だからヒュドラは目撃されたら討伐まであまり時間を掛けれない。首が六つにでもなればAランクが三チームは必要になるだろうな」
バトラさんの言葉に不安がこみ上げてくる、果たして今回のヒュドラは四つ首のままなのだろうか?俺の表情を見て不安を読み取ったのだろう、お爺ちゃんが俺の肩を叩きながら笑う。
「なんじゃ、不安か?今回は儂がついているから安心せい!」
確かにお爺ちゃんが居てくれれば個人とはいえSランクなのだし危険は少なくなるだろう。しかし、あくまで今回の討伐のメンバーは俺たちとバトラさん達なのだから自分たちで倒したいという気持ちもある。俺は不安を心の奥へと押し込め、口元に笑みを浮かべながら言った。
「確かにお爺ちゃんが居てくれるのは安心だけど、今回は俺たちでなんとか頑張るよ。とは言え、不安はあるからね。寝るまでに少し鍛えてくれると嬉しいかな」
俺が強がっているのは分かっているのだろう、お爺ちゃんはニヤリと口元を歪ませると嬉しそうに笑っていた。
ヒュドラの情報を聞いた俺達は実際ヒュドラと会った際にフォーメーションをどうするかを念入りに打ち合わせた。その後俺はお爺ちゃんに軽く稽古をつけてもらう。お爺ちゃんは自分が教えた鍛錬法を俺達が続けていると知り嬉しかったのか、上機嫌で俺の攻撃を裁きつつ満面の笑顔だった。
「結構本気で攻撃してるのに掠りもしないって・・・」
全力で十分も攻撃をし続けたのに一発もお爺ちゃんに当たらず、それどころか俺が息を切らしているのに全く平然としている。Sランクとの実力差に少し現実から逃避したくなってくる。すると俺達の稽古を見ていたバトラさんが近づいてきた。
「ハルディオス殿、少しトーヤと俺の連携の練習にも付き合って貰えますかね?」
どうやらあまりの先王の強さにバトラさんも腕試しをしたくなったようだ。お爺ちゃんは鷹揚に頷くと少し腰を落として剣を構えた。そういえば俺が攻撃してた時って一度も構えなかったよな、と改めて実力差を感じる。
結論だけ言うと、バトラさんはいい勝負をした。俺は?聞かないでくれ・・・。
翌朝、俺達は夜が開けると同時に出発した。何とか今日中に先行している隊に合流しないと明日のヒュドラを碌に打ち合わせも出来ないまま迎えてしまう。
俺は馬を駆りながら昨夜の稽古を思い返していた。魔力で身体強化をしているから攻撃の速度はかなり速いはずだ、それなのに一撃も当たらないのは何故なんだろう?