第十一話 彼女と探知魔法
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「あ、そうだ!その魔法って俺の親とか捜せないかな?」
俺は思いつきでアリスに尋ねた。
「この世界中でどっかで生きてるとは思うんだよな!ちょい試しに探せない?」
俺の思いつきにアリスは表情を曇らせた、俺になんて答えようか悩んでいるがそんなに無茶なお願いをしただろうか?すると、横から姉が口を挟んだ
「十夜、気持ちはわかるけど・・・。アリスちゃんが探知魔法で探せるとして、もしそれで反応が無かった時に受け止められる?」
姉の言葉に俺は何も言えず黙ってしまった。
「・・・・」
「それに私達には魔力があるから探知に必要な魔力パターンは提供できるけど、お父さん達に魔力があったかは分からないわよね?」
姉の正論に俺は反論が出来なかった、姉が親はどうでもいいと思っているわけでは無いのはわかっている。俺は口を噤んで下を向いた。
さっきとは逆にアリスが慰めるかのように大きな声で話を始めた。
「お、お二人に魔力がありますし、ご両親のどちらかに魔力があった可能性はありますよね!だから試しに、もし反応が無くても魔力が無かっただけ!そう思うことにしませんか?!」
アリスに心配かけてどうするんだよ俺!俺は顔を上げ、笑みを浮かべながらアリスに言った。
「そうだな、それにアリスの魔術の腕で100%成功するとも思えないしな?」
その言葉にアリスは苦笑しつつ「ひどいです」とだけ呟いた。姉は俺の頭を叩きにこにこしてる。
雰囲気が少しマシになったところで、両親を探す準備に取り掛かった。
特定の人物を探すためには近親者の魔力パターンが必要だ、両親を探すためには当然俺か姉の魔力が基準となる。
「では、アキさんの魔力とトーヤの魔力をこの水晶に込めてくださいね?」
アリスから渡された水晶にそれぞれ魔力を込めていく、水晶が鈍く光った時点で魔力を一気に圧縮させて水晶に留めさせる。
この水晶を使って、両親の反応があるかどうかを魔王を探すときと同じく三人で行っていく。
今回は日本ではなく海外で行方が分からなくなっているために、日本への探知は行わない。
また、数回にわけて地球上に反応が無いかを調査していくが、徐々にアリスの顔色に戸惑いが出て来る。やはり反応は無いようだ・・・、いくら反応が無い場合は親に魔力が無かったという事と納得するとは言ったものの、生きていないかもしれないと思うとやりきれない思いがある。
「少し、いいでしょうか?・・・」
アリスが探知の魔術を止めた。まだ世界中を探知するには早すぎるはずだ、魔王を探すときは数時間を掛けて数回に亘って魔法を行使したはずだが?
「お二人から魔力を込めてもらったこの水晶なのですが・・・」
何か問題があったのだろうか?特に不具合も無く魔力を込めれたと思ったのだが?
アリスはアイテムボックスから魔王の近親者から魔力を込めて貰った水晶を取り出した。どうしたのだろう?しばらく俺達が渡した水晶と魔王の近親者の水晶を比べているようだ。
「アリスちゃん?どうしたの?」
姉も疑問に思っていたようで、アリスに尋ねた。アリスは戸惑いつつも俺達の疑問に答えた。
「いえ、ちょっと疑問に思うことが出てきたので部屋へ戻って調べてみたいことができました。お二人には申し訳ないのですがご両親の調査は明日以降でもいいですか?」
いったい何があったのだろうか?俺と姉は顔を見合わせながらお互いに首を傾げたが、アリスが乗り気でない以上はこれ以上調査するのは無理だろうと思い頷いた。
「まあ、もう二年も行方不明だし?今更急ぐようなもんでもないから、アリスの調査を優先でいいよ?」
俺は特に問題がないことをアリスに伝え、その場は解散となった。
アリスは汗をかいたので先にお風呂を頂きますと言い残しバスルームへと向かった、俺と姉は部屋を片付けてそれぞれの自由時間を過ごしたあと、部屋へ戻り眠ることにした。
翌日、朝もアリスの顔色は優れない。アリスは「大丈夫です」とだけ答えて何も明かさなかった。俺と姉もアリスに任せていようと話し合ったので特に聞かずに朝食を採り、会社と学校に行った。
学校で俺は義手を外している。やはり聞かれた際に都合のいい説明が思いつかないと思ったからだ。相変わらず片腕で授業を受け、体育は走るもの以外は見学している。
俺はこの日上の空だった、やはりアリスの昨日の晩からの浮かない顔が気になっていた。
「アリスどうしたんだろうな・・・」
教室でぼーっとしながら俺は呟いた。今夜か、遅くても数日には解決し話してくれるだろうとは思っているが、やはり心配なのは心配だった。
「両親を探してって言ったのは失言だったか」
思えばその発言から場の空気が微妙になった気がしていた。
「よう、十夜。何ぼーっとしてんだ?就職決まったのか?」
俺のクラスメイトの中でも片腕になってからもあまり変わらない付き合いをしていた奴が声をかけてきた。あまり普段から話もしなかった奴だが他の奴に比べてまだ話しかけてくれる奴だった。
「あ~就職か、就職はあまり進展は無いな。やっぱこの腕じゃこの近辺に無いわ」
俺はそいつの方に向くとそう返した。
「まあ、近隣じゃ無いよな。じゃあ卒業したらどこか遠くにでも引っ越すのか?担任も五十嵐だけが決まらんとかボヤいてたぜ?」
そうなのだ、もう秋に差し掛かっている時期で進路が決まっていない奴なんてほとんど居ない。学年全体では数人はいるだろうが、このクラスでは俺だけというのは嘘でも無いんだろう。
俺は溜息をついて窓の外を見た。
「そうだな、少し遠くなっても職場は見つけないといけないし、姉の世話なるわけにもいかないからな。最悪は海外か・・・・異世界もいいかもな(ぼそ)」
最後は呟くような小さな声で言ったのだが、そいつには聞こえたようだ。
「は?異世界とか本当にあったら俺が行ってみたいわ!いいよなー、剣と魔法のファンタジー世界とか超憧れるぜ」
本当にあるなんて知ったらこいつどんな顔するんだろうな、と俺は苦笑いを浮かべつつ「そうだな」と簡単に答えて会話を切った。
異世界か・・・、腕の説明も要らないし今の世界の拝金主義よりはマシかもしれないな。
俺はそんな想像をしながら残りの授業を適当に受けた。