第百五話 強制依頼2
「因みに、依頼が発動されたとして俺たちに求める仕事は何ですか?」
恐らくガドンさんは俺たちが納得して受けたという事にしたいのだろう、先王や学院長に睨まれたくは無いだろうし。俺としてもお婆ちゃん達の庇護下にあるのは確かだが、この国や街の危機を見て見ぬ振りはしたくない。
「基本は他のBランクと一緒で街で待機してもらいたい。今Bランクでも斥候に向いているチームを二チーム向かわせるからその報告内容によっては合同での討伐指示を出すかもしれん」
どうやら街で待機らしい、フラウの装備に一週間はかかるから万が一討伐が必要になっても間に合うだろう。ガドンさんの話だと、Bランクの二チームが先行で斥候として向かいその人達で解決できそうな場合はそこで終わり。もし無理と判断した時点で一チームがその場に残り、別なチームが王都まで情報を届けて討伐対を編成することになるそうだ。
「分かりました。こちらも一週間は装備の都合で依頼を受けるのは控えるつもりでしたから。ただ、フラウがチームに入ってから一月程しか経ってないので、近場の魔物で連携の練習だけはさせて欲しいのだけど」
俺がそう頼むとガドンさんはほっとした顔で了承してくれた。王都から半日くらいの距離でなら討伐依頼で外に出ていてもいいと許しを貰い、ギルドからの強制依頼を受けることにした。
まあ、俺たちに伺いを立てている時点で強制ではないのだろうけれど・・・。
部屋から出るとギルド内部は冒険者でごったがえしていた。何があったのだろう、さっきの話と何か関係があるのかと思い、近くにいた職員を捕まえて事情を聴くことにした。
「北部から魔物の群れが近づいているんです!詳しくはギルドマスターからご説明があったと思いますけど、北部の住民に被害が出ないよう複数のチームを村や町に派遣して防衛の準備を整えるよう国からの要請が出ているんです」
成程、調査は調査で必要だが既に発生し始めている魔物の数が大規模であれば他の村に被害が出るだろうし、ティアのように家族を失う人達が増える可能性が高い。だから事前に冒険者達を派遣することで被害を最小限に抑えるつもりなのだろう。
ギルドマスターからの依頼を受けた後、早速街の外へ出て低ランクの魔物を狩ったりしてフラウとの連携の再確認をする事にした。ユグドラルで一か月一緒に狩りをしていたので基本的な連携については問題ないだろうが、ユグドラルとは違い平原や岩山など見晴らしの多いこの国での戦い方に少しでも慣れてもらうために様々な地形の場所で魔物の討伐をこなしていった。
「トーヤ殿、ギルドからの緊急の呼び出しがかかりました」
ついさっき、ソフィさんの魔道具屋から帰宅した俺たちがお茶を飲んでいると執事のセバスさんがそう告げた。遂に来たか、フラウ用の装備はギリギリで間に合ったのが幸いだな。
フラウ用の装備は防御を中心とした魔道具を作成して貰った。肉体強度を上げる『金剛』の指輪と、物理結界や魔法結界を張る障壁系の装備だ。後は姉用に魔法の威力を増幅する片手杖を一本購入した。これは威力を上げる他に少しだが魔力の回復を高める効果がある奴だ。
「さて、緊急の呼び出しって事は斥候に行ったチームで対応できない魔物が出たってことだろうから覚悟を決めて行くか」
俺の言葉に姉やフラウ、アリスも真剣な顔で頷いた。何の担当に配置されるかは分からないが多少なりとも危険は伴うだろうし、何より放置していてはこの国の人々や街の人に危険が及ぶかもしれないのだからと依頼を受けてから何度も皆で話し合って覚悟だけは決めていた。
ギルドへ到着すると早速奥の部屋へと案内された。一週間前の混雑からは考えられない程ギルド内部は閑散としていた。多くの冒険者が北部の村に派遣されているのだろう、被害が出ない事を祈るばかりだ。
部屋に入ると見知った顔の人達が居た、魔人族のチーム『片翼』のバトラさん達だ。バトラさんは俺たちを見ると声を掛けてくれた。
「おう、トーヤ達じゃねぇか。暫く見ないうちにBランクになってたんだって?」
俺は見知った顔に安堵し、バトラさんの近くへと腰かけた。姉も暫くぶりにバトラさんに会って嬉しかったのか隣へと腰かける。よく考えると姉も一か月は会ってないのだろう、俺とアリスは毎日顔を合わせるからいいが寂しくないのだろうか?
「他の方達とは面識ないんで正直助かりましたよ」
俺がそう言うとバトラさんは他のチームを紹介してくれた。
「こっちのむさ苦しい奴らが『狂戦士』、そっちの別嬪さん揃いなのが『戦乙女』。どっちも俺たちと同様Aランクだ」
「おいこら!誰がむさ苦しいおっさんだ!?チーム『侍』だっけか?俺が『狂戦士』のリーダーをしているノドンだ。宜しく頼む」
紹介されたセリフに突っ込みを入れてからノドンさんが俺に手を差し出した。俺が握手をした瞬間、かなりの力で締め付けられる。すごい力だ!普通だったら拳が潰れそうだが幸いな事に俺が差し出したのは義手の右手だ。感覚としては伝わってくるが潰れる事は無い。
「初めましてトーヤです。申し訳ないが、こっちは特別性でね。というか普通の人なら拳が潰れてますよ?」
俺は平静を保った顔で言うと右腕の袖をめくった。ノドンさんは俺の腕を見るとピクリと眉を動かすと次の瞬間にはガハハハと笑って俺の肩を叩いた。
「成程、金属の義手とは驚いたぜ。お前面白いな!改めて宜しくたのむわ!」
そう言うとノドンさんは仲間の所へと戻っていった。どうもあの人からは脳筋なイメージしか浮かばないなと思っていると突然背後から柔らかい物が押し付けられた。
「ふふ、あのノドンが気に入るなんて面白い子ね。私は『戦乙女』のリーダーを務めているリーファというわ。よろしくね、ボーヤ」
そう言って背後から抱きしめて来たのはさっき紹介された『戦乙女』のリーダーであるリーファさんだった。抱き着かれるまで背後に居たことを気付かなかった。気配が完全に消されているせいで近くにいた姉はアリスも気付かなかったようだ。
「うぇ?!ちょ、ちょとリーファさん。急になにするんですか!」
俺が突然の事にうろたえていると、アリスが大きな声で叫び俺の腕を引っ張ってリーファさんから引きはがした。リーファさんはニコニコとした表情で俺とアリスを見ると微笑みながら謝罪した。
「あら、ごめんなさいね?ちょっと面白そうな子だったからかっただけよ」
アリスが顔を真っ赤にしてリーファさんを睨みつけていると、入口からギルド長が入ってきた。