第百四話 強制依頼1
毎日更新しようにも筆が進まず、申し訳ありません。
ファレームへと戻って来た俺たちだったが、フラウの装備が整うまでは危険度の高い依頼は受けれない様にしようと話し合った。結果、格下の魔物などを相手に連携の練習をする程度にしておいた方がいいだろうという事になり一先ずギルドでのチーム登録をすることになった。ユグドラルでは登録していたのだが、国を出るときまでの契約だったので再度登録を行う必要があった。
俺たちがギルドへと入ると複数の冒険者からの視線が向けられているのが感じられた。姉の肩にいるフェアリーに気付いたのだろう、目ざとい人達だ。俺は視線は放っておいてカウンターへと向かう。
「あら?トーヤさん久しぶりですね!ひと月ぶりくらいでしょうか」
カウンターへいくと職員のマリナさんから声を掛けられた。
「ええ、お久しぶりです。ちょっとユグドラルへと出かけてまして」
俺は挨拶をしてから不在にしていた理由を告げた。マリナさんは姉の肩に乗っているフェアリーに気付き、ギルド内をチラっと見てから口を開いた。
「それでは、少しお話したい事もありますし。個室へ移動したいのですがよろしいですか?」
マリナさんはフラウに対しての好奇の視線に気付いたのだろう、気を利かせて個室へと案内してくれた。個室へと案内され俺たちが部屋で待っているとギルド長を伴ったマリナさんがやってきた。
「よう、お前たちとこうして顔合わせるのも久しぶりだな。妖精のお嬢ちゃん、俺がこの冒険者ギルドマスターのガドンだ。宜しく頼む」
ガドンさんとは初めてこの世界にやってきたときに会って以来だ。いつもマリナさんが相手してくれていたのに珍しいこともあるものだと思っているとガドンさんが俺の方を見た。
「何時もマリナから報告は聞いてたんだが中々時間が合わなくてな。まずはBランクおめでとう!っつても一月以上前だから今更だな。そちらの妖精のお嬢さんはお前たちのチームに入るのか?」
「ありがとうございます。Bランクになってすぐ国を出ましたからね。彼女はフラウ、ユグドラルでAランクの精霊術士で俺たちのチーム『侍』に入りたいとファレームまで着いてきてくれたんです」
ガドンさんにフラウを紹介しつつ事の成り行きを話した。『狂い樹』の事はユグドラルの問題なので言わず、一か月一緒にチームを組んでいたとだけ説明するだけにした。
「ふむ、お前さん達もよくユグドラルで依頼受けれたな?あそこは妖精族以外には住み難いとこだったろ?」
「そうですね、学院長のツテが無かったら職無しでしたよ。そういえばユグドラルに人族が行っても街から出れないってこっちのギルドの何処かに張り出して置いてくれませんか?丁度行った時に一つのチームがそれで揉めてたんで」
俺はガドンさんにこれ以上人族のイメージが悪くならないようにと、トラブルの事前防止として張り紙をお願いした。ガドンさんは分かったと答えてくれ、明日にでも張り紙を数か所に貼ってくれると約束してくれた。
そんな話をしていると、ガドンさんが少し真面目な顔をして口を開いた。
「それでな、今日こうして会ったのはちょっとした依頼を頼みたいんでお前さん達にも協力して貰えないかという相談なんだ」
「どんな依頼でしょう?内容によっては受けてもいいですよ?あ、フラウの装備を整えるんで一週間くらいは余り危険な事は困るんだけど・・・」
ガドンさんの言葉に俺はちらっとフラウの方を見てから言った。ギルドマスターからの依頼だとすれば危険な事か面倒事のような気がする。俺の言葉にガドンさんは少し考えた後言葉を続けた。
「受けるかどうかは聞いてからでいいが、内容は秘密にしてくれ」
話を聞くだけは問題無いので俺たちはガドンさんの話を聞くことにした。
内容をまとめると、暫く前にファレームの北の方で魔物が大量に目撃されたらしい。複数の冒険者の話だとどうやら南へと向かって移動しているらしく調査が必要だとなった。弱い魔物の目撃が多かったのでC~Dランクの冒険者を送って調査しつつ討伐していたらしいがBランクの魔物が混じっていたらしく一つのチームが遭遇、ひどい怪我をしつつ何とか逃げ帰ったらしい。
「そこで王都にいるランクの高いチームを混成で調査に当てようという話になった。当然北ばかりに戦力を全て集めるのは防衛上危険だから選んで送るんだがな」
「成程、それで俺たちに白羽の矢が立ったのは何でです?」
俺たちみたいな成りたて新米Bランクよりも他に人が居るだろうにと疑問に思いながらガドンさんに尋ねる、よっぽど人材不足なのかな?
「現在王都周辺にいるBランク以上は八チームだ、Aランクが三つとBランクがお前たち含めて五チーム。これが現在の戦力なんだ、Aランクは何か有事の際に王都に残しておきたい。Bランクのチームの内二つを北に派遣してBランク以上の魔物が現れた時に備えておきたいと考えている。万が一に備えてBランク以上には強制依頼を発動している」
強制依頼とはギルド権限によって冒険者を一定の期間拘束することの出来る依頼だ。強制依頼が発動されると他の依頼を受けることが出来なくなり王都内に留まっていなければならない。当然期間に応じてギルドから報酬は支払われるので何事も無ければタダで金が手に入るのだが・・・。
「そこまでするってことは今回の事、何かの前触れだと思っているんですか?」
俺の指摘にガドンさんは頷いた。
「弱い魔物から先に同じ方向に流れるってのは昔から稀に見られる現象だ。DランクやCランクの魔物が現れて続いてBランク、そうなると魔物は何かから逃れて来たと考えられる。過去、同様の事例があった時にはAランクの魔物がその先に巣を作ったという事があった」
Aランクか・・・。今まで戦ってきた人喰鬼やワイバーンなどはすべてBランクの魔物だ。あいつらより強い魔物が縄張りを作った所為で弱い魔物が流れて来ているというのは有り得る話だ。
「それで、俺たちに何を?」
「他のチームと同様に強制依頼を頼みたいんだが、お前さん達は事情がある。下手に強制して学院長を含め睨まれると困るんだ」
ガドンさんが言うのは俺たちが王族の血縁者である事だろう。俺たちに強制依頼を発動して、それが学院長や先王の耳に入れば圧力か抗議が入るのは必須だ。