第百一話 フラウの気持ち
「まずは提供して貰った赤い鳥と『狂い樹』の抜け殻・・・という表現が正しいか分からないけど、学院で分析して頂いたの。結果その両方から肉塊の触手と同じ物が採取されたわ」
ギルド長のアメリアさんの話をまとめると、赤い鳥からも『狂い樹』の内部からも肉塊に生えていた触手が見つかった為、やはり原因はあの謎の肉塊であると断定したらしい。その後は俺たちも知っての通りギルドを通して赤い鳥の捕獲を冒険者に依頼し、広く国民からも情報を集めたという事だった。
「まだ一週間だから何とも言えないけれど、赤い鳥が国内で既に五羽程捕獲されたわ。その影響か鳥が捕獲された周辺での『狂い樹』の発生は確認されていないの!」
今まで大なり小なり規模は異なるが『狂い樹』はあちこちで発生していたようだ、一週間とはいえ期待以上の成果なんだとギルド長は興奮気味に話してくれた。
「まあ、原因としてほぼ確定ならよかったですよ。少しでも自然が失われていくのに貢献できたってことで」
俺とギルド長の間には温度差がだいぶあるような気がするが、ここは空気を読んで調子を合わせておいたほうがいいのだろう。個人的にも自然破壊はダメだと思っているし、フラウ達妖精族が悲しい顔をしなくて済むならそれに越したことはない。それに二度とあの百体規模の『狂い樹』討伐など経験したくない、主に労力的な意味で。
「君たちチームが滞在するのは残り数日と話を聞いたので、今回の働きに対しての報酬を渡したくて呼んだ訳なのよ。急だけど何が良いかしら?」
そうギルド長から尋ねられた。そうは言っても偶然見つけただけだしな、報酬なんて・・・。
俺は特にほしいものがなかったし、この国で受けた依頼などでそれなりに金も稼げていたので特に物欲も無かった。
「俺は特に無いから、姉貴かアリスかフラウで何かある?」
「そうね、またこの国に来た時にも自由に活動できるように通行証がほしいかな?」
俺が聞くとまず姉が答えた。確かに毎回推薦状やら紹介状のような物を用意するのは面倒だよな。俺は頷くとアリスも何か無いか尋ねる。
「そうですね、今回は行けませんでしたけど世界樹は一度行ってみたいですね。また来る時に世界樹への案内などお願いできれば嬉しいですね」
アリスはどうやら世界樹を間近で見てみたかったようだ。あれだけ巨大な木は近くから見ても壁にしか見えないだろうけどな、と頭で考えながらも一先ず頷く。
「フラウは?俺たちと違ってずっとここに居るんだし何か欲しいのがあれば今がチャンスじゃないか?」
俺が声を掛けるとフラウはうんうんと唸っていた。まあ、今決めなくとも何か思いついた時にでも頼めばギルド長は叶えてくれそうな気はするが。そう思っているとフラウは何か決めたのか顔を上げた。
「ボクは、トーヤ達と一緒に行って他の国とかを見てみたい!だから国外へ出る許可が欲しいんだ」
フラウは真剣な顔でギルド長に言った。別に他国に行くだけなら都市間転移装置の使用許可を取ればいいだけなんじゃないかと思ってギルド長に尋ねてみた。
「実はフェアリーが他国へ行くにはかなり厳しい制限があるのよ。エルフやドワーフなどは他国でもよく見受けられるけど、フェアリーは見たことないでしょ?」
ギルド長によると、フェアリーは体のサイズや強度の問題で本来はフェアリーの郷から外に出る事がまず無いのだそうだ。せいぜい裁縫職人や細工師として街にいるくらいなものでフラウのように冒険者で生計を立てているものは稀なんだそうだ。
「冒険者として生きているフェアリーは他の種族と比べても短命なのよ。それだけ危険という事よ。それでも国内ならそれを理解している他の種族でフォローできるけど、他国では・・・ね?」
成程、だからファレームでもフェアリーを見かけなかったのか。ギルド長の言葉を聞いてもフラウは「でも・・・」と呟いていて諦めきれないようだ。
「フラウはどうして他国に行ってみたいと思ったんだ?」
下を向いて俯いているフラウに俺は尋ねてみた、何か深い理由でもあるのだろうか?するとフラウは俺の方を向いて質問に答えてくれた。
「ボクはこんなサイズだから人族の冒険者達から誘われる事も殆ど無かったんだ。皆エルフやドワーフばかり選んで・・・。確かにボク達フェアリーは魔法以外には攻撃手段も無いし野営とかの手伝いもできないよ?だけどトーヤ達はフェアリーを選んでくれたでしょ?ボク嬉しかったんだ」
フラウはこの三週間俺たちと冒険が出来た事がとても嬉しかったのだという。それも守られているだけじゃなく、可能であればどんな作業にも参加させて平等に扱われたのが嬉しかったそうだ。
元来、フェアリーは好奇心の旺盛な種族らしい。しかし体のサイズによるハンデは自然と活動領域を狭める結果となったらしい。
「トーヤ達がこのままユグドラルで活動するならよかったんだけど、数日後には帰っちゃうでしょ?そうしたらボクはまた一人になっちゃう・・・。だから、できるなら一緒に行きたいと思ったんだ!」
どうやら他国に行きたいのではなく、俺たちともっと冒険をしたいという事らしい。そこまで気に入られたのは嬉しいな。フラウのような楽しい人がチームに居たらこれからの冒険が楽しくなるだろうと思っていたし、ここは俺からも頼んでみるか。