第十話 彼女と魔王探し
前の話も若干ですが追記していますが大筋変わっていません。
アリスはこの世界に来てから三ヶ月の間、俺達に魔法を教えていたばかりではない。
ちゃんと魔王とお姫様を探す調査も着々と進めていた。これは放出系魔法の探知の魔法であり、普段であれば自分を中心とした範囲の生物を探す目的のものである。
だが、術者単体での魔法は能力にもよるが半径100m~1km程度が精々であり、決して地球全体ましてや異世界を探る事なんて出来るわけではない。
それを可能にするにはかなりの手間と複数の術者が必要になる、だからアリスはこの世界で魔法を使える人間を仲間にする必要があった。
俺と姉に魔法を教えたのにはそれなりに理由と打算があったのだ。当然、感謝をする事はあってもそれを不満に思うわけもないわけで。
アリスはこの街の地図を見ては各所に魔法の補助となる石を各所に埋めてきて欲しいと俺に頼んだ。どうやら法則性があるらしく、埋める石も数十個に及んだ。
そう、これが広範囲の探知を可能にする手法で、街や隣町に散りばめた石を使い巨大な魔方陣を作っていたのだ!宇宙探査用のパラボラアンテナを思い浮かべて欲しい、この家を中心とした半径50kmものアンテナだ。
隣町などへも赴き石を埋めた結果、魔方陣は半径が50kmにも及ぶ。そしてこの魔方陣でアリスの魔力を増幅し、地球やアリスの元いた異世界などへも探知魔法の影響を及ぼすことが可能になった。
「この世界の電車や車はすごいですね~、元の世界ではこの規模の魔方陣作るのに一年はかかったのに!」
アリスは地図の精度と移動手段の早いことに感動していた。向こうの世界ではそもそも地図があまり正確ではない。だから石を埋めるポイントに行ってから測量を行いつつの作業となり、だいぶ手間と時間がかかっていたらしいのだ。
「これで超広範囲の探知魔方が使えます、トーヤとアキさんにも術式には協力が必要ですが」
この三ヶ月の間でアリスが俺を呼ぶときに”さん”付けが取れた。姉は流石に年齢が離れているから付けたままだが、なんか俺とアリスの距離が縮まった気がして嬉しいもんだ。
俺とアリスは休みともなれば研究の息抜きとばかりに街へ繰り出していた。勿論デートなどではないよ?まだまだそんな関係ではないし・・・。ホームセンターに行って必要なものをかったりしながらのこっちの世界を知るための、謂わば社会見学だな。
途中何回かアリスが可愛いから男共からのナンパや不良共からからまれたことがあった。アリスに魔法を使わせるまでもなく、俺が睨んでお引取り願ったり不良共を蹴散らしたりした。
以前は格闘技をやってた関係で暴力事件は部に迷惑がかかるからと避けていたが、部も辞めた現状では躊躇する必要も無く軽く転がしてやった。
相手が鉄パイプ程度の武器を持ち出しても、俺の義手で簡単に掴むことができて怪我の心配もなかった。
そして、ついに超広範囲の探知魔法の起動実験を行う日になった。
魔王の魔力パターンは彼女があちらの世界で魔王の近親者から魔力パターンを作成し、それを元に調べることができるらしい。本人の魔力を知っていれば一番いいらしいのだが、アリスが生まれた頃には既に魔王がこちらの世界に越えた後だったし、近親者の魔力とパターンが似るらしいので精度は落ちるが調査可能らしかった。
「では、まずは魔王と姫の魔力パターンを用いてこの地球上の探知を行います。複数回に渡って術を行使するので、魔力が無くなりそうになったらすぐ言ってくださいね?」
アリスは念を押してくる、魔力も使い切ると所謂魔力切れ状態になる。すると気分が悪くなったり頭痛がしたり、最悪気を失ってしまうのだ。
俺と姉は頷き、アリスと手を繋ぎ輪となった。アリスと出会ったときに使われた知識複写の魔法もそうだが、複雑な術式には集中力とそれ相応の呪文が用いられる。これはかなりの魔術知識が無いと無理らしく、俺はあっさりと覚えることを放棄していた。
アリスが呪文を唱えるに伴って、俺達三人の魔力がお互いをぐるぐる回って循環する。そして回転がある程度の速度になると爆発するかのように外に広がっていった!
「超広範囲探知魔法の発動を確認、これからこの街、そして日本、次いで世界中に検索をかけます!」
アリスの額には汗が浮いてきている、始めたばかりだというのにこれだけ負荷がかかっていて大丈夫なんだろうか?
俺と姉の魔力も当初よりかなり増えたとは言え、発動だけでかなりの魔力がもっていかれた感覚がある。
この日、日本をほぼ探知し終えて一旦休憩、その後世界中を検索を数回に分けて行った。
「結果から言って、この世界に魔王らしき魔力が存在しませんでした・・・・。」
アリスの顔は暗い、それもそうだろう、魔王を探してこちらの世界に来てみたら魔王が居ないというのだから・・・。
「あっちの世界で探索した時はこっちに反応があったんだっけ?」
俺は空気が重くならないよう、あえて軽い口調で言った。
アリスは頭を横に振ってから
「いえ、あちらの魔方陣の精度ではこちらの異世界まで調査は不可能でした。魔王の残した研究の記録からこちらの異世界についての情報があったのと、魔王が時空転移魔法を開発したという話からこちらに来たのではないかという推論になりました」
成る程、そもそもこちらの世界に飛んだのがもう20年は前だ、いつまでもこっちに残って居たと思うのは間違いかもしれないな。
向こうでの魔方陣も精度がこっちより悪かった(技術的に当然だが)ようであまり精度のある探知も行えなかったらしい。
「まあ、気を取り直してこっちの魔方陣の精度ならアリスの世界への探知まで出来そうなんだろう?また協力するから一緒に探してちゃちゃっと片付けちまおうぜ!」
アリスの沈んでいる顔はあまり見ていたくない。俺は元気付けるよう声をかけた。
アリスは俺の顔を見て微笑み、そうですね。と短く答えた。