4.私は落とし穴に落ちたい。
作中に「コネでいろんな交響楽団で演奏する」というのがありますが、この物語のための架空の設定です。
本日は、所長と所長の親友であるヴェルハイドさんの家に行くことになりました。なんでも、そこの息子が私と同い年なので仲良くしてはどうかとのことです。
ヴェルハイド家につきました。
無駄に大きいお屋敷と無駄に広いお庭です。門からお屋敷までは広場にあるような噴水がありました。どこぞの漫画のような光景に唖然としました。
お屋敷の中には、高価そうな絵や置物があります。定番すぎてどこをどうツッコめ
ばいいのやら。私が高価な物を壊さないか心配です。
「元気そうだな、ケヴィン。言われた通り、ユキを連れてきたぞ」
「悪いな。彼女がウワサの子か。最近、テンプルトンのお気に入りだと聞いて見たかったんだ」
「はじめまして。ユキ・アキヅキと申します。本日はお招きいただきありがとうございます」
「かわいらしい、お嬢さん。堅苦しい挨拶は抜きでいいよ。気楽にして」
「そうだ、お前の息子は? ユキと同い年だろ」
「ウィリアムか。今は妻の友人の娘と庭で遊んでいる。連れてこようか?」
「遊んでいるのを邪魔するわけにはいかないな。これから重要な話をするから、書斎で本を読んでいなさい」
「それはかまわない。といっても、子どもの読む本はないんだが」
「問題ない。ユキは小難しい文学小説を読むのにはまっているんだ。理解できないがな」
「...それぐらいしてやれよ。セバスチャン、ユキを書斎に連れて行きなさい」
「畏まりました。旦那様。ユキ様、行きましょう」
「はい」
ロバート・テンプルトンは、実力主義の人気指揮者です。奏者までこだわって数ヶ月に一度コンサートを開く人です。私のバイオリンの先生であるシンプル夫人の永遠のライバルだとか。私は、シンプル夫人のコネでいろんな交響楽団で演奏するのでその時に逢ったんですけどね。
書斎に到着すると組織にはないようないろいろな本があります。
組織の図書館にあるのは「拷問に必要な2000の方法」「人を蹴落とすための1000の法則」「悪戯名鑑1500」「イヤな奴を陥れるための5つの知識」などです。まともな本はないんだろうか?
なので、魔物対策課アメリカ支部の前にある大きな図書館に通っています。外観とか内装まで素晴らしいのですよ。そこに住めと言われれば、マジで住めます。本好きの聖地です。
図書館で読まないような本を読んでいると庭の方で何か崩れ落ちたような感じがしました。所長は話合い中なので、私が行くことにしましょう。
私は本を元の場所に戻してリュックを背負い書斎の窓から飛び降りるとその方向に急いで歩きます。
庭の真ん中まで行くとそこまで大きくない穴がありました。下を覗きこむと男の子が落ちて泣いていました。しかし、私は助けるよりもお約束的に穴の中に落ちないといけないような気がしたのです。落とし穴は、あえて落ちるためにあるんですよね。魔物対策課の庭で組織の連中が作った落とし穴を回避することなく、わざと毎回落とし穴に落ちていたら「落とし穴作り禁止令」が出たのですよ。これは、久々の落とし穴です。もう、落ちたくてたまらないです。これは、神が私に与えたもうたご褒美ですね。では、さっそく落ちることにします。
私が穴の中に落ちると男の子は、絶望的な顔をしました。私はそれを無視し、リュックの中にある懐中電灯を取出しました。懐中電灯を点けて辺りを見回すと洞窟のようです。さすが無駄に広い庭があるお屋敷ですね。洞窟もそれなりに広そうなので、探検の開始です。これからのことにすっかり意識を飛ばしていたら、男の子が泣きながら私の手を握り締めていました。どうやら、探検はお預けになるようです。泣いている男の子をほっといたり、連れまわすと罪悪感があるので諦めることにします。残念ですね。
とりあえず、相手を安心させるために名前を名乗らないといけないのです。
「私は、ユキ・アキヅキ。怪我はないですか?」
「うん。えっと、僕はウィリアム・ヴェルハイド」
「では、出口まで歩いて行きましょう」
「わかるの?」
「もちろん、わかりますよ。少しかかりますが、行きましょう。暗いとこにいるのは嫌いでしょう」
「うん」
落ちた穴は深かったのですが下にあるたくさんの草がクッションの役割をしていたので、彼はかすり傷程度で済んだようです。私はもちろんきれいに着地しましたよ。
私は魔剣の意識と同調し、風の流れを読んで問題なく出口まで歩いていきます。
あれから数十分たって洞窟の出口まで着きました。どうやら庭の端のようです。それから、お屋敷のほうに歩いていると彼の両親はあわててこちらに向かって、そばまで来ると彼を抱き締めました。そうすると彼は、再び泣き始めました。
「ウィリアム、大丈夫か?」
「うん」
そうして、彼の父親は彼を抱きかかえお屋敷の方へ歩き出しました。
「ユキ、ありがとう」
「気にしないでください。それと、穴の下で待ってなくてごめんなさい。心配したんじゃないですか」
「気にしなくていいよ。息子は暗いところが苦手でね」
そんなこんなで時間が過ぎ、所長の疑惑の視線を感じ心の中で冷や汗をたくさん掻きながらその日は終わるのでした。
「高橋蒼の設定」
元中二病患者。中二病、最盛期の時に魔力に目覚める。
現在では、中二病であったことが黒歴史。乙女ゲーム好きの姉がいる。
アリスティア・ウェルヴァーが組織内の見目麗しい男に色目を使っているので、嫌悪している。自分にもかまってきて鬱陶しいが、顔には出していない。
さわやか系のイケメン。
「アリスティア・ウェルヴァーの設定」
肉食系女子。イケメンを捕獲しようと訓練をそこそこに日々活動中。
周りに美形ばかりで、日本人母の好きな乙女ゲームと同じ状況なので『私って、ヒロインなんじゃ』と思っている電波な美少女。
「光属性と闇属性の魔剣の設定」
他の属性の魔剣取得条件プラスがある。
一、魔力・霊力を扱える人間
二、歴代契約者と同じような性格
三、破滅的なネーミングセンスの持ち主。本気を出すとそれこそヤバい
というのがある。これは、歴代の契約者や周りに(光・闇属性の)魔剣自身が言っていない。
ちなみにこの属性を持つと他の属性も扱えたりするが、歴代の契約者自身にその気が全くない。やはり、今回の持ち主もない。
光属性の動物時の姿は、トリケラトプス。
闇属性の動物時の姿は、ドラゴン。
これは、今生の持ち主の趣味である。