17.尾行は、隠れようとするから気付かれるんです。堂々としすぎると、他人のフリをしてくれます。
今日は、映画「サプライズ・パーティー~広がる恐怖の足跡~」の公開初日です。
アメリカにいる時は、観に行く暇がなかったんですよね。シャーロットによると、大画面で観るべきB級すぎるB級ホラーだそうです。定番が多すぎて、そこが逆に笑いを誘うとか。
今、電車を目的の駅で降りました。
そして、降りた駅の目の前では弟と鞠乃さんがいます。後を見ると、妹と真紀さんがいます。どうやら、尾行しているようです。私には、全く気付いていません。私は気付かれない様に妹と真紀さんの後ろに行くと、声をかけました。
「何をしているのですか?」
二人は、私がいることに驚きました。
「お姉ちゃん」
「優希。もちろん、あの二人のデートの尾行ですわ。知りませんの?鞠乃さんと湊さんは、婚約していますのよ」
「初耳ですね。それなら、尾行の必要がないのでは?」
「それは、興味があるからです。一緒に行こうです、お姉ちゃん」
「では、それなりの衣装に着替えるので先に行っていて下さい」
私はすぐ近くにある九条系列の洋服屋『K.J』に入り、黒の服を購入し、着替えました。着ていた服は、紙袋に入れて持ち歩くことにします。
追いつくと私の服を見た二人が、
「それは目立ちすぎです」
「そうですわよ。尾行の意味がありませんわ」
「素人が尾行するんですよ。コソコソするから、気付かれるんです。堂々とすればいいんですよ」
「それは違うような気がするです」
「そうですわね」
「この格好なら、気づいても気づかないフリをしてくれますよ。こんな目立つ格好で尾行する友人や身内を持ったことが恥ずかしくて」
その頃の湊と鞠乃___
「真紀と妹さん、尾行しているんだけど」
「あれだと、簡単に気づくよな」
「あれっ?優希がいつの間にかいるし、あの二人に声をかけてるわよ」
「姉さんは尾行するには堂々としすぎているし、尾行するつもりなのかな」
「次は、『K.J』に入ったわよ」
「やる気なしだな」
「あの二人、まだついてくるわ」
「姉さんが、戻ってきた」
「なにアレ?全身黒尽くめじゃない。これじゃ、尾行していることに気付いてるって、声をかけられないじゃない」
「姉さんはどこか天然が入ってるからな」
「他の子がやると確信犯なのに、優希がやると確信犯に見えない...絶対、真面目にやってるわよ、あの子」
尾行しているうちに目的の映画館の前まで来ました。
「じゃあ、私はここで」
「お姉ちゃん?」
「ついて来ませんの? あの二人、恋愛映画を見ますわよ」
「よく知っていますね」
「それは、私が湊にデートに行くならこの映画とおススメしたからです」
「アメリカでは公開されている映画ですものね。観たんですか?」
「興味がないから、観てないです。 このB級ホラー映画、見逃したので楽しみにしていたのですよ」
「そんなの、レンタルで済ませればいいです」
「こういうのは、大画面で観ないと」
と、私は親指を立ていい笑顔をして去って行こうとしましたが、引きとめられました。
「最後まで、付き合うです」
「尾行しているのに気付いたら、怒られてしまいますわ。巻込まれてください」
「この恋愛映画の方が、上映時間が長いですよ。終われば待っていますから」
「仕方がないですわね。華憐さん、行きましょう」
「はいです。後でね、お姉ちゃん」
「分かりました」
映画が終わり、妹と真紀さんを待っていると弟と鞠乃さんと一緒に出てきました。
「あれっ?見つかったんですか?」
「分からない方がどうかしてるわよ。すぐ、後ろの席にいるんだもん。で、なんで優希はいなかったのよ」
「B級ホラーを観ていたからですよ。いい感じに、お約束展開の連続でした。さすが、ダンカン・マレット監督。ホラー映画をギャグホラーにする手腕、いい仕事してますね」
「それ、褒めてるの?」
「もちろん、褒めてます」
「貶しているようにしか、聞こえないわよ」
妹と真紀さんは、弟にデートの邪魔をしたことに文句を言われてます。
「ひどいですわ。尾行がバレたのは、優希のせいですわ」
「あれで、尾行してるつもりなのか? バレバレだったぞ」
「湊、分かってたですか?」
「アレで分からない方がどうかしてる」
「...ひょっとして、優希は尾行してるのを気付いてたのを気付いてた?」
「もちろん。なので、あえて目立つ格好で尾行してみました」
「やっぱり、真面目にやってたんだ」
「三十年前の本で、『正しい尾行の仕方』という本に書いてあったんですよ」
「三十年前かい。なんで、そんな古い本を参考にするのよ。せめて、最新版にして」
「最新版は、読み物として面白くなかったんですよ」
「これじゃ、アレだな。みんなで飯でも食うか?」
「ですです」
「なんか、もういいや」
「私は、カレドの日本限定たこ焼きバーガーを」
「なんで、日本にいてあえてカレド? アメリカでも食べれるでしょ」
「全世界にあって、変わらない味と美味しさを提供するカレドですよ。いいじゃないですか」
と力説すると、
「分からない。この子の思考が分からない...」
「優希...」
「お姉ちゃん...」
「姉さん...」
呆れられましたが、なぜ分からないのでしょう?
あえて、日本で変わらない味を食べたいという思いが。
どうやら、軽くホームシックにかかっているみたいです。早く、この任務を終わらせたいですね。
カレドでたこ焼きバーガーセットを食べていると、店の前で花咲さんと逆ハー軍団が通り過ぎようとしています。
私を見つけると、花咲さんはギョッとして逃げるようにあわてて店の前を通り過ぎました。
残念ですね、今なら逆ハー軍団の古傷を抉り出すよう、楽しくにこやかにお話してあげたのに。
・主人公が、湊と鞠乃の婚約を知らなかったことについて
ぶっちゃけ、聞いてなかったから。
もちろん、この世界のヒロイン花咲桃香も知らない。
・カレド
マ●クのようなもの。
・ダンカン・マレット監督
この世界の映画監督。あらゆるジャンルに手を出し成功している。
だだし、ホラー映画は出来があまり良くない。好きな人は、はまるという感じ。