16.ヒロインとは未知の生命体。私にとって理解不可能な生き物である。
「どっちがどっち?」ゲームで、鬱陶しい双子の兄弟を泣かしてから数日たちました。はじめは、ヒロインが双子を泣かした翌日に私に文句を言ってくると思ったのですが、全く来そうにありません。
私より、あの乙女ゲーム「虹恋」をやり込んでいる高橋先生によると連日好感度アップイベントが続いているので、そんなイベントに関係ないことは後回しにするんじゃないかということです。
そんなある日、朝のHRで高橋先生が
「今日あたり~、花咲さんが~、優希、じゃなかった秋月さんに~、ケンカを売りに来ま~す。 見学者は~、お昼休みに教室に残ってくださ~い。以上で~す」
クラスの代表として、委員長が質問していきます。
「なぜ、ケンカを売るのですか?」
「委員長~、ん~とね~、あの双子を泣かしたからで~す」
「いつ、どうやってですか?」
「数日前~。ほら~、あの『どっちがどっち?』ゲームがあるじゃない~。それで~、どっちか答えずに~、真ん中って言ったんだって~」
「「「「「真ん中?」」」」」と言って、クラスのほとんどの人が私をガン見しました。
「実際やられると、ウザかったのでそう答えただけですよ」
「クソッ。その手があったか」
「毎回毎回、鬱陶しいんだよなアイツら」
「信者以外、嬉しくないの分かってないんじゃない?」
「それ今言ったら、まずいって。 ほら、このクラスにも信者がいるし」
「それは~、大丈夫で~す。今日~、このクラスの信者は~、体調を崩して~、全員~、休みで~す。だから~、そろそろかな~と思って~、言いました~」
「では、今日来るとは限らないのではないですか?」
「委員長~。それは大丈夫だよ~。ぜっ~たい、今日だから~」
「ずいぶん、自信があるんですね」
「うん、先生だから~、分かるの~。ちなみに~、先生も見物するよ~。んでは~、HR終了~」
そして昼休み___
教室前から、ドンドンと音を立てて歩く音が聞こえます。
そして教室の扉の前でその音が止まると、扉が壊れると思うくらい力任せに扉を花咲さんが開けました。クラス全員、思わず花咲さんの方を向きました。そして、「本当に来た」と全員の心が一つになりました。
顔を歪めた鬼の形相で、私の前まで歩いてきました。
私のところに来るまで、クラスの中の数人が花咲さんの顔をスマホで写真を撮ってます。彼女は、全く気付いている様子がありません。
「ちょっと、サポートキャラのくせにふざけないでよ」
「サポートキャラ...ですか?」と何を言っているかわからないという風に答えました。知ってはいるんですけどね。
「とぼけないでよ。『どっちがどっち?』ゲームの時に、真ん中って言ったって聞いたわよ」
「それ、数日前ですよ。今更、なんで言うんですか?」
「そんなの関係ないじゃない。ちゃんと答えなさいって言ってるのよ」
「でも、すぐに言わないってことはそのことは優先順位は低いんですよね? ここ数日、他の男たちを追いかけ回してたってウワサですし」
「だから、ふざけないで。 この世界のヒロインは私なのよ。私の言うことくらい聞きなさいよ」
花咲さんの言ったことを聞いた周りがざわつき始めました。そして、ドン引きしています。彼女は周りに向かって、
「煩いわね、モブのくせに。私が話してるのよ。モブごときは、黙りなさい」
このままでは、花咲さんはヒステリックに怒鳴るばかりで話が進みません。どうしようか迷っていると、委員長が黒板に『話を合わせて、早く終わらせて下さい。このままじゃ、お昼ごはん食べる時間がなくなります。その人は、馬鹿だから手っ取り早い方がいいです』と書いて私に指示をしました。クラスの良心の委員長が毒を吐いていたので、みんなして委員長の方を見てしまいました。委員長は、その視線を逸らしまして、別方向に向きました。
「...で、聞いてる? 役立たずなサポートキャラ」
「『どっちがどっち?』ゲームの時に、真ん中というのがおかしいということですね」
委員長が毒を吐いたのが衝撃過ぎて、全く聞いてなかったので適当な方向に話を変えました。彼女は、それを気にすることなく続けます。
「そうよ、私の攻略キャラに嘘をつくのは止めなさい」
「それで、嘘だっていう証拠は?」
「なに言ってるのよ。嘘に決まってるでしょ」
「つまり、花咲さんはあの双子の真ん中にいる人が見えないと?」
「はぁっ?」
「真ん中にいる霊が見えないんですか? 実際に、本当に、いますよ」
「馬鹿じゃないの。嘘つき」
「見える人と見えない人がいますからね。仕方ないです。何なら、紹介しますよ。知り合いの陰陽師」
「もう、話にならないわ。この話題は止めてあげる。 それに、おかしいでしょ。この世界のヒロインである私が近づいているのに、湊君は避けるのよ。あんたが、何か言ったんじゃない」
「弟は、九条の者です。九条家の人間が、男をはべらすしか能のない女に惚れるわけがないでしょう。馬鹿にしているんですか?」
「サポートキャラのくせに生意気なのよ」
花咲さんが、イライラして続きを言おうとした時に予鈴が鳴りました。
「さようなら。役立たずで生意気なサポートキャラ」
と捨て台詞を吐いて教室を出て行きました。
そして、次の授業は高橋先生です。
「は~い。皆さん~、見事にお昼ごはんを食べ損ねましたね~。先生もそうで~す。この授業は、食べながら受けて下さ~い。先生も食べながらしま~す。それで~、委員長~、なんで本音を書いたの~?」
「花咲さんのことですか? 昨年、同じクラスになって彼女の勉強のフォローを押しつけられて散々な目に会ったんです。本当に、散々でした。あの頭で、どうやってこの学校に合格できたんでしょう」とどこか遠くを見て言いました。
今日、この日、クラスのほとんどの人たちから私と委員長は同情的な目で見られました。気持ちは分かるけど、そんな目で見ないでほしいと思いました。
【九条家について】
旧家の名家で、その中では一番の力を持つ家。
家訓の一つに、「喧嘩を売られたらその相手を叩き潰せ」というのがある。
主人公の祖母は、現当主である九条のおばあ様の妹。主人公の父は、九条にふさわしくないと縁を切られている。主人公と弟と妹は、資質に問題がなく九条家の者として迎えられている。主人公は、元九条。これは家訓である喧嘩相手を叩き潰すために九条を離れただけ。(魔物を倒すため)
これがなければ次期当主になるはずだった。
主人公が花家からの婚約話が来たのを知らないのは、元九条だからです。
【委員長の設定】
クラスの良心。堅物ではなく、人の意見を受け入れられる柔軟性を持つ。
12歳で、アメリカのとある有名大学を卒業。
現在、高校に通っているのは社会勉強の一環。
本名は、四条夏菜。学校では、母親の姓「朝霧」を名乗っている。
四条の現当主。
【知り合いの陰陽師の設定】
主人公の前世の異世界トリップ仲間の一人。
名前は、御門晴香。御門家の現当主。
主人公が、虹彩市に引っ越してくる前のお隣さん。
晴香に陰陽術を教えようとした時に、主人公にもその才があることに気付いた前当主が、切磋琢磨し合える関係だろうと考え一緒に教える。(引っ越し前までに、禁術まで教えていた)
前世でも現世でも、主人公のオモチャ。主人公と前当主が、天敵。
彼女自身はドS。ドMの年下婚約者がいる。
ドSを貪ることが使命の主人公曰く「彼女のドSオーラを見ると貪りたくなるんですよね。反応が面白いんですよ」とのこと。主人公と前当主が貪るたびに、周りに被害が及ぶ。
ちなみに、本編には登場しません。