15.お約束には変化球で返すこと。それが、私のアイデンティティー。
今日は日曜日で、学校が休みの日。そう、お休みの日です。魔物対策課にいる時にはできなかったお仕事をくてもいい一日のお休み。
そんなわけで、六条邸に来ています。鞠乃さんも一緒です。
庭園の見える部屋で、お茶会もといヒロインが逆ハーレムを作るまでのことを聞いています。現在、この話題は学校内でタブー視されていることなのです。
花家の長男たちのことなので、彼らの信者あるいは本人に聞かれると退学や停学処分になるそうです。私たちはなりませんけど。運悪く他の人を巻き込むことのないように、休みの日を利用しています。
「では、現在は逆ハーレムを完成させた直後ということですか?」
「そうよ。なんていうかアレね。乙女ゲームの攻略本を読んで、効率よく攻略していってるような感じ」
「一条では、ゲームが許されているのですか?」
「無理に決まってるじゃない。実際に遊びで男を落とすかゲームで我慢させるかの二択を選ばせてあげたのよ」
「どんな選択肢なんですか、それ。どういう理由で説得したのですか?」
「今後の参考にって言ったら、お母様が賛成してくれたのよ」
「その、乙女ゲームというのがどう今後の参考になるのか分かりませんわ」
「えっ? ゲームがしたいからただの口実じゃない」
「で、話を戻して花咲さんはどんな感じなんですか?」
「そうですわね。女子に嫌われてますわね」
「顔のいい男にしか見向きもしないわよ。イケメンは自分の物とか思ってるんじゃない」
「正直なところ、この状態を見ると向こうから一方的に婚約破棄したことに安心しましたわ」
「確かに。それにしても、優希の弟にまで手を出そうとするのは許せないわね」
「弟はあの子に興味はありませんよ」
「よかった。...なによ、その目は。別に好きだって言ってるわけじゃないんだからね」
「では、一番の壁は九条のおばあ様ですね」
「そうですわね。お姉さんとしてはよいのですか? こんな義妹で」
「ちょっと、からかわないでよ」
「とりあえず、ガンバレ」
「うぅ...」
と、顔を真っ赤にして黙った鞠乃さんを無視して私は続けました。
「逆ハー軍団で一番気になったのは、花乃井悠の金遣いの荒さ。教師でお給料をもらって、お金の大切さを分かっていてもいいはずなのに、湯水のごとく使ってますよ」
「そうなのですか?」
「実家がお金持ちでもさすがにありえないですよ。高級ホテルのスウィートルームを何度も利用しているし、高級フランス料理店と高級日本料理店を貸し切りにしたり、あの現実を忘れさせてくれるドリームランドの数日間の貸し切りとやりたい放題です」
「ひょっとして、あの時の...以前、ドリームランドに行った時に大勢の人が怒って帰ってましたわ。突然、休園になるなんてって。私も家族で遊べるのを楽しみにしていた時ですわ。それで、誰と利用しましたの?」
「花咲さんとそれを取り巻く逆ハー軍団とです。他にもあるのですがそれが原因で、花乃井家は、資金作りに寝る間を惜しんで奔走しているみたいです」
「他の花家の長男たちは?」
「勉強を疎かにして、次期当主を引き摺りおとされる瀬戸際ってことぐらいですね。それと気になったのですが、花咲さんの幼馴染の夏月君は彼女の逆ハー軍団の一員じゃないんですね」
「夏月君? 花咲さんのイケメンに媚を売る姿と女子への態度を見て、避けているようですわよ」
「そのことなら、花咲さんのウワサを聞いた夏月君のお母さんが『あの子に関わるな』って言ったって聞いたわよ。ウワサで」
他には花咲さんのご機嫌取りに一生懸命で生徒会の仕事を全くしなくなったとか、そのことを生徒会顧問の花乃井悠は怒るどころか推奨し率先してしているとか、あの報告書とはあまり変わらないことを聞きました。先生が一生徒に肩入れと言うかこんなことをしている現実に逃避したくなりました。もはや、ロリコン教師にしか見えないです。近寄りたくもないですね。気持ち悪い。
翌日の放課後には真紀さんと鞠乃さんが、先生数名に呼び出されてその先生たちと生徒会の仕事をすることになりました。なんでも、生徒会とその顧問が生徒会の仕事をまったくしないのでやらないといけないとか。私はしませんよ。邪魔になるだけじゃないですか。
真紀さんと鞠乃さんと一緒に帰る約束をしていたので、図書室で時間を潰して待つことにします。その途中で、厄介な人物に遭遇してしまいました。逆ハー軍団の中の二人、双子の栗花落兄弟です。
私を見た瞬間、彼らはお約束のことを始めました。
「「どっちがどっち?」」
本当にするんだと、少し唖然としてしまいました。黙っていると
「「ちゃんと答えてよ。どっちがどっち? あっ、君見たことない顔だよね。転校生? 仕方ない、じゃあ分からないか。 この学校で流行っているゲームだよ。 はじめから、やり直すね。ちゃんと、陽斗か海斗か答えてよ。 どっちがどっち?」」
「真ん中」
「「へっ?」」
「真ん中」
「「えぇっ?」」
「ですから、真ん中です」
「「そんなことないよ。 もう一回するね。どっちがどっち?」」
「真ん中ですって、さっきから言ってるじゃないですか。 見えないですか? 真ん中にいるの? ちゃんと、さっきからいるじゃないですか」
「「ウソ」」
「い・ま・す」
「「ウソだよね?」」
「本当です。 見えないですか?」
と私が真ん中を指差しながら言うと、青い顔をして泣きながら去っていきました。
あんなの乙女ゲームの中じゃあるまいし、実際に流行るわけないじゃないですか。信者以外は、鬱陶しがってますよ。人のウンザリした顔も分からないんですね。上に立つ者(予定)としてはダメダメですね。
それにしても、一度やってみたかったんですよね。
「どっちがどっち?」ゲームの時に真ん中って言うの。本気にするなんて情けない。
時間潰しにもならなかったじゃないですか。
私は彼らを鼻で嗤い、図書室で本を読むのでした。
【前世の名前を××と書いていることについて】
主人公たちの前世話を書かないので、あえてこの「××」としています。
前世があるのはあくまで、設定です。