13.元の世界に戻るのは強制力だとは限りません。大人の思惑です。
今日、所長とお師匠様に呼ばれたので所長室に行きました。
「ユキ、日本への長期任務が決定した」
「魔物退治ではありません。それは、日本本部の者たちに任せて下さい。日本の経済界にとって、大問題なことが起きたのです」
「花家の長男たちが、馬鹿女に現を抜かしたとかいうのではないのでしょうね?」
「その通りだ。よく分かったな」
「冗談で言ったのですが...」
「日本の経済界が危ういと、魔物対策課日本本部にとって大打撃です。実を言うと、日本本部の幹部の一人が、花家トップである蓮花寺源九郎と親友なんです。彼には、逆らえないと言ってました。それに、いずれ当主となる予定の子どもたちの失態を隠すことができないと知った今、こちらに助けを求めてきました。これで、日本本部に恩を売ることができます」
「というわけでユキ、日本の虹彩市にある虹花学園に通ってくれ。転校の手続きはしておいた」
「この報告書に救いようのない馬鹿たちのことが書いてあります。目を通しておいてください。ユキの目で見て、馬鹿たちが当主としての務めを果たせないか判断して欲しいそうです。花家たちは、別の子たちに当主候補にしようかと検討中です」
「そこでだ、同年齢のユキの目から見て今後使える奴か使えない奴かを判断して欲しい」
「子どもの判断より、人生経験を積んだ大人の判断の方がよいのではないのですか?」
「これは、彼らに対する最後の温情ですよ」
「見知らぬ子どもに決めさせる時点で、彼らは終わってると思うのですが」
「そうだ。花家現当主たちは、彼らの人となりを全く知らない同年代の子の判断が欲しいそうだ」
「子ども可愛さにあからさまに判断を下げているつもりなんですね」
「サポート要員を学校に派遣していますので、安心してください」
「誰です?」
「高橋蒼の姉、高橋椎菜だ」
「日本本部の天才じゃないですか」
「数年前、突如なぜか教員免許を取ったんだ。そして『私は、ヒロインを迎え撃つ』と言って、数学教師になったそうだ」
「ヒロインって、ヒロイン(笑)じゃないですよね?」
「アレより性質が悪いようです。 ほら、ユキが幼稚園にいる時のイジメの主犯格の花咲桃香。それが、ヒロインのようです。本当は行かせたくないのですが」
「きっと、大丈夫ですよ。お金持ちの家の坊ちゃんに媚びるのが忙しくてイジメをする暇がないと思います」
「なら、いいのですが...」
「ところで、あの花咲桃香だが蓮花寺のパーティーに参加したそうだ。花家の次期当主たちが、今している婚約を解消して自分たちの誰かが彼女と婚約すると言っていた」
「馬鹿ですか。 特に蓮花寺と花京院は、会社同士の繋がりのために婚約しているのでしょう? 子どもの我儘でそんなことできないですよね」
「そうだ。家の父は、かなり怒っていた。あの二人は六条の娘と一条の娘と婚約破棄した揚句、ろくに英語をしゃべれない娘と婚約したいと言い出したのだからな」
「あの家って、海外の会社とも提携して英語とか必須ですよね。彼女では無理なんじゃないですか?」
「六条と一条は父の親友でな。奴らの親の生ぬるすぎる温情に納得していない。一見、緩すぎる判断にしか見えないが厳しい判断にして奴らを次期当主(予定)から引き摺り下ろしたいそうだ。娘を傷つけたのが許せないらしい。そこで、ユキに判断してもらおうと思う」
「私では、日本本部の依頼主は納得しないのではないですか?」
「大丈夫です。彼は私が言いくるめました」
「「・・・」」
「六条真紀と一条鞠乃にパーティーで会ったことがありますが、参加者の家族構成や趣味などを調べて、相手の母語で話せて話上手ですよね。彼女たち以上じゃないと」
「ほとんどの参加者たちは彼女たちと話せることを楽しみにしているぐらいだしな」
「私はあの二人がいないとパーティーに参加できませんよ。慣れない人と話すのが苦手な私に気を使って、構ってもらえますし」
「腹黒い会話は嬉々として入っていってるくせに」
私は、日本での長期任務が決定したことをアリスティアさんとマイケルさんに伝えました。
「というわけで、日本に行くことが決定しました。 特にマイケルさん、頑張ってください」
「分かった。元・取巻きたちは女王様の犬になっているし、俺がいるから安心してください」
「思いっきり、不安になってきました」
「大丈夫だよ、教授。教授がいない間は私が、頑張ります」
「ありがとうございます」
「それにしてもここ数年、教授に鬱陶しいほどまとわりついていたリリーはいきなり湧いて出てこないね」
「彼女は、幼女趣味なんですよ。幼女年齢を過ぎたら、私に興味はありません。最近は近くの公園に行って、幼女の盗撮をして呼吸を荒くしています。そして、恋人にシメられる日々。あの人にはそれがご褒美です」
「盗撮写真はどうなったんだ?」
「恋人がすべて燃やしました。安心してください」
「そうか...」
私はヒロインとその仲間たちを討伐するために日本に向かいます。
サポート要員と協力して、頑張ります。どうやら、花咲桃香は転生ヒロインのようですね。乙女ゲームキャラとしての彼女は好きでしたが、今の彼女は好きになれない予感がします。