番外編 その2 僕の婚約者 ーウィリアム・ヴェルハイド 視点ー
彼女とはじめて会ったのは、僕が薄暗い穴の中に落ちた時だった。
それはよく晴れた日の午後、ママの親友の娘で幼馴染のエリス・フォレスターと陽当たりのいい場所を探して庭で歩いていた時だった。地面が崩れて突然、僕は下に落ちてしまった。上を見上げると、登れないほどの深さ。暗いところが苦手な僕は、困惑して何もできなくなってしまった。
エリスはすぐに、「おじさんたちを読んでくる」と屋敷の方に走り去っていった。
どれくらいの時間がたったのかがわからない。上を見上げると女の子が穴の中を覗いた気がした。僕を見つけると彼女は迷わずに穴の中に入って、降りてきて上手に地面に着地した。そして、彼女はリュックの中から何かを探し出し取出した。懐中電灯のようだ。懐中電灯であたりを見回しているのを見ていたのだけど、不安になった僕は彼女の手を掴んだ。彼女は僕を安心させるように微笑んで、「私は、ユキ・アキヅキ。怪我はないですか?」と言って、大丈夫だと言うと洞窟のようなところを迷わずに歩いて行き、数十分後には出口に着いた。やっと、明るい場所に出られた。
彼女について行くと、パパたちが駆け寄って来て僕をパパが抱き締めてくれた。ものすごく、嬉しかった。エリスもいて、僕を見ると安心したみたい。後の方を見ると、ものすごく強面のおじさんがユキの背中を睨みつけていた。
屋敷の前まで到着するとユキは強面のおじさんに引き摺られるように帰っていった。
その時に、
「ユキ、あれほど落とし穴にわざと落ちるなといっただろう」
「わざとじゃないんです。落とし穴にわざと落ちるのが私の使命なんです。やらないといけないんです」
「ウォルターに鍛え直してもらおう」
「私を殺す気か。せめて『アリスティア・ウェルヴァーと迷惑な仲間たち』を巻込んでください」
「それこそ、私を殺す気か。奴らがいるとウォルターの圧力がものすごいんだぞ。お願い、やめて」と言いながら、遠ざかっていった。
夜になって寝るときにパパがベッドまで来て、
「今日は、よく頑張ったな」
「うん。あの子がいたから...」
「ああ。ユキか」
「すごいんだよ。あの穴から落ちたとこから、まっすぐ出口まで行ったんだよ」
「そうなのか。もう、寝なさい」
「明かりをつけたままでいい?」
「今日だけだぞ。お休み」
「うん。お休みなさい」
僕にキスをして、パパは僕の部屋から出て行った。
次にユキに会ったのは、パパとママが好きな指揮者のコンサート会場だった。
「何で来たのかしら。クラシックコンサートって眠くなるのよね」
「寝てればいいじゃないですか。寝てても、誰も見ませんよ」
「いや、ダメだろ。組織でとったチケット数が少ないし、ユキが出るから、競争率高かったんだぞ。寝るつもりなら、他の奴に譲れよ」
「いやよ。私の幼女の活躍よ。見逃すわけにはいかないじゃない」
「活躍はしないのですが...」
「そういう見方をすると指揮者が目立つだけだぞ。音楽を聞けよ」
「だいたい、ああいうのっていい部分を聞くだけでしょ」
「全部聞かないといい部分のよさが分からないだろ。全部聞けよ」
「そうですよ」
声のする方に行くとユキがいた。彼女は僕に気が付くと挨拶をしてきた。少し、話していると綺麗な人がものすごい顔をして睨みつけてくるので怖かった。彼女はそれを察して、僕をその場から連れ出してくれた。
コンサートが始まり、舞台の上で堂々と演奏するユキはすごくきれいに見えた。
学校に入って数年、ユキと同じクラスにはなれていない。彼女は、僕と同じクラスのグレース・ウェルヴァーと仲が良いようだ。今日は、夏休み前の最後の登校日。ユキは、ウェルヴァーを迎えに来て帰っていった。
夏休みに入ると、前に行ったことのあるコンサート会場にパパとママと来た。トイレに行って、戻る途中の廊下が何か少し違うような感じがした。ユキがあわててやってきて、僕の腕を掴んだ。さっきまで、周りに人がいたのに僕とユキ以外は誰もいない。気味が悪いし、早くここから出たい。ユキは、すぐに出られると言った。ユキの言うとおりにすると、少したった後に元の場所に戻った。ユキが、パパとママのところまで連れて行ってくれると、すぐに彼女は舞台に行くと言って去っていった。
ユキの出番になると、隣のおばさんが彼女を思い切り睨みつけていた。
夏休みの中ごろ、ユキと強面のおじさんが家に来た。そして、リビングでパパとお話し中。ユキも混ざってる。それで最近、僕と婚約したいと言っているお金目当ての人たちがいると話し出したんだ。
「最近はめんどくさい。家の娘をと親しくない連中が売り込んでくるんだ」
「まだ、先でもいいだろ?」
「でも、この家ってどこぞの金持ちの娘と結婚しなくてもやっていけますよね」
「そうなんだ。ユキはどうだ?」
「私は、ウザくて絞殺さなくてもいい相手ならいいですよ。犯罪者になりたくないですし」
「もうちょっと、考えろよ」
「借金、ギャンブル、女遊びをしない相手で」
「「・・・」」
「ユキは、僕がイヤ?」
「そんなことないですよ。その時まで、私が生きていてウィリアムに恋人がいなければ、結婚してもいいですよ」
「本当?」
「はい。いいですよ。...でも、これっていい虫よけになりますよね」
「「・・・」」
「じゃあ、約束だよ」
「はい」
僕がユキを好きなことを知っているパパが、さり気に誘導していたけど、彼女の言っていることを聞いてパパと強面のおじさんが何とも言えない疲れた顔をしてた。
初めて会った時に一目ぼれした彼女がが結婚してくれるって言ったんで、夏休み中は上機嫌で過ごしたんだ。
主人公が、簡単に結婚にO.K.したのは魔物退治優先で恋愛・結婚に興味がないためです。
そして、ウィリアム君が不快にならない相手だらかです。(間違って、殺さずにすむ)
きっと、考えていないわけではないですよ?