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タビーと騎士の犬  作者: 弾正
王女と継承
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「あ」


 派手な音がして、目標の丸太が吹っ飛んだ。

 予定ではその手前に着弾させる筈で、着弾を確認した騎士専攻の学生達が突撃

する筈だった。


「……タビー」


 共同実習1を受け持つ教官が渋い表情をする。


「すみません……」


 丸太は見事に吹っ飛び、燃え尽きていた。突撃準備をしていた騎士専攻の面々

は冷や汗を浮かべながら、こちらをちらちらと見ている。


「もう一度。丸太の、手前に、着弾」


 横に並んでいる予備の丸太を示され、タビーは頷いた。


 内的循環と外的循環――――体内の魔力の流れと呪を合わせて行く。杖を振り

下ろした瞬間、丸太の手前で派手な爆音がした。

「行け!」

 号令に従い、騎士専攻の面々が飛び出して行く。丸太を打ち、倒れたところで

縄で縛り上げる。捕縛訓練だ。

 もっとも、こんな荒技で捕らえなければいけない段階で、相手は盗賊や凶悪犯

でしかない。最初から魔術で気絶させてしまえばいい、と思ってしまうのは、タ

ビーが魔術応用専攻だからなのだろうか。


「結構。次!」


 タビーの班はどうやら合格を貰えたらしい。ほっとして待機場所へ向かう。

 

 1回目は明らかに集中力を欠いていた。

 幸い丸太一本で済んだからいいようなものの、一歩間違えれば怪我人も出る。

 ザシャの事が気になっているのは自覚しているが、講義に持ち込むものではな

い。しかも、魔術を扱っている時に。


 ザシャは、まだ騎士団預かりのままだ。

 タビーの監視も継続中、幸い講義の時だけは外れているが、休憩時間はどこに

いても必ず見つけられる。

 最近ではタビーの方が諦め、自ら監視されやすい場所に出向く。そのせいか、

周囲には監視対象がタビーだと知られてはいない。


 そんな中、また王族が学院に来るという。


(王女様の次は王子様、か)


 同期の女生徒達が楽しそうに騒いでいたが、同調する気にはなれなかった。

 ザシャの件を考えれば、わざわざ学院に来る方がおかしい。危機管理が出来て

いないのか、頭の中身がお花畑なのか。


 特待生のタビーは、今回も出迎えの生徒に選ばれている。それがまた気を重く

した。

 世情として王子と王女が継承者の座を巡って争っている、とは聞くが、彼女に

取っては遠い世界の話だ。現段階では、ディヴァイン公爵の後見を受けている王

子が有利で、宰相であるノルマン公は中立、騎士団を統括するシュタイン公は旗

幟を明らかにしていない。


 そんな話をされても、だから何だ、というのがタビーの本音だ。王子か王女の

味方をすれば、自分の望むものが手に入る、というのならまだしも、どっちの味

方をしても騒動に巻き込まれる未来しか思い浮かばない。

 それでも派閥に分かれて何のかんのとやっている貴族の気が知れなかった。

 この国に暮らす大半の者に取っては、暴君や暗君でなければ誰がなっても同じ

だろう。勢力争いは、遠い世界の出来事だ。


 爆音がした。


 次の組だった同期は、どうにか丸太近くに着弾させ、ずっと控えていた騎士課

程の面々が先程と同じく打ち込み、縄をかける。

 こうやって見ていると、騎士専攻でも進んで走っていく者、縄を渡したり、捕

縛の手伝いをしたりする者と様々だ。騎士は突進だけすればいいというものでは

ない。騎士団には兵站管理や救護を行う、後方支援や参謀部の様なものもあると

いう。入団試験は特に分かれていないと聞いている。おそらく入団してから割り

振られるのだろう。


 アロイスは、ライナーは、ラーラやイルマは、と思いを馳せる。


 それ以外にも、タビーを快く迎えてくれた先輩達も、今頃騎士団で精力的に働

いている筈だ。


(怪我なんかしないといいな……)


 ぼんやりと空を見上げ、タビーは胸の内で呟いた。



 王子の学院訪問前に、特待生達は別室に集められる。

 前回は礼の復習と注意事項だけだったが、今日は所持品検査もあった。騎士専

攻の特待生には事前通達があったらしく、剣は佩いていない。

 特待生には女子が含まれるため、騎士団からは女性騎士も派遣されている。一

瞬ラーラかイルマが来るか、と期待をしたが、やってきたのは少々年嵩の女性騎

士だった。

 タビーの杖は、タビー以外が持とうとすると弾く性質がある。これが少々問題

になったが、彼女の真横に担任でもあるディールが付き監視をすることで杖の所

持は許された。タビーとしては、杖を理由に出迎え生徒から外して貰いたいとこ

ろだったが。


「フリッツはどうした」

 真横に立ち、視線を前に向けたままディールが問いかける。

「……体調がよくないと言っていました」

「そうか」

 恐らく信じてはいないだろう。タビーとて信じていない。どこをどう見ても元

気そうな顔で『今日は休むから』と言われて、はいそうですか、と返せる訳がな

かった。

「まずいですか」

 タビーは小さな声で問いかける。無言で眉を少しだけ上げた教官を見て、それ

以上の質問は止めた。


 やがて、馬車がやってくる。


 王女が来た時と同じく馬車に乗っており、その前後を近衛騎士が固めていた。

 以前より人数が多い。

 対して、学院側は常駐している騎士団に加え、臨時の応援を依頼していた。出

入口や王子の見学場所の警護は、学院だけで対応ができない。騎士団からは、一

個中隊が派遣されている。

 また、魔術や剣術など武器もしくはそれに準じるものを使う講義は中止になり

どの課程でも座学のみとなった。


 馬車から降りた王子は、濃い金色の髪をしている。

 並んでいる生徒達は全員礼を取り、学院長と王子が何事かを話しているのを聞

くだけだ。

 王子らしき声と学院長の声が近づいてくる。

「こちらが、今年の特待生でございます」

「そうか」

 興味もなさそうな返事だ。そもそも、王女が視察に来れば王族としての義理は

果たしているだろうに、何故わざわざくるのか判らない。

「では、ご案内いたしましょう」

 学長と王子の前を近衛兵が固める。両脇と後ろも同様だ。王女と違い、王子の

側近らしい貴族が数人ついてきていた。


 足音が遠くなってから、まずディールが顔を上げた。

「なおれ」

 ようやくだ。タビー達生徒は礼を解く。これにも順番があり、最敬礼の今回は

戻す順もややこしい。

「時間が中途半端だな……全員、別室で待機する様に」

「講義に戻らなくていいのですか?」

「講義の邪魔になる」

 ディールの言葉に、生徒達は顔を見合わせつつ指示に従った。

 事前注意を受けた別室は、会議室でもある。並べられた椅子に腰掛け、ほっと

した。


 王女が訪問された時より仰々しく、警備も厳しい気がしたが、三公のうちの一

人がついている、ともなればそうなるのだろうか。王女より年上であり、母は側

室だが侯爵家の出自だ。血筋的には問題ない。

 正妃である王女の母は、他国から嫁いできた。王女共々聡明だというが、継承

者となるには性別がやや不利に働いている。女王を否定しないダーフィトだが、

王子がいればそちらが優先されるのは珍しくない。


(よくある話)


 椅子に座ったまま、ぼんやりと外を眺めてタビーは思う。

 王女が訪問した先に自分もまた訪問する。未来の騎士、魔術師、官吏や貴族の

奥方になる生徒達に、王子としての威光を見せつけたいのだろう。王女より多く

の近衛騎士を引き連れ、厳重な警備の中、学院を見学する。学院には王子を支持

するディヴァイン公傘下の貴族子息が、そして王子妃になりたいという野心を持

つ貴族子女がいるのだ。彼らを惹きつけ続けるにも、王女が視察したところは漏

らさず回り、少しでも有利になる様に動く。


(王位、か)


 王の子として生まれたのであれば、望みたくもなる。王女はそうでもなさそう

だったが、周囲を固められては逃げられない。 

 既にどちらかが引き下がればいい、という問題ではないのだ。貴族達の思惑が

動いている。人形の様に整った王女の表情を思い出して、タビーは不遜だが同情

した。


 講義終了を知らせる鐘が鳴る。

 会議室にいた生徒達が立ち上がろうとしたその時。


 低い破裂音と強い風が会議室を満たした。


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