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タビーと騎士の犬  作者: 弾正
幕間 その1
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69


 騎士団への入団試験を終えて、騎士寮はようやくいつもと同じ騒々しさに戻っ

た。

 試験の結果は年明けにでる。後はそれを待つだけだ。


「次!」

 訓練場も賑わっている。下級生達は上級生に稽古を乞い、彼らは置き土産とば

かりに下級生達を鍛えていた。


 そんな中、タビーはライナーに乗馬を教えて貰っている。

 訓練場の直ぐ側には馬場があり、誰でも練習が可能だ。障害代わりの小さな池

や石の多い道、倒木がおいてある場所などもあり、騎士を目指す生徒達がそれぞ

れ訓練に励んでいる。


「よし、いいぞタビー」

「はい!」

 返事はしたものの、タビーは馬を扱いかねている。

 何があっても基本的に手綱は手放さない、暴れたら低い声で声をかける、鞍の

装備、乗るときの姿勢、これだけを教えられ、自力で馬に乗れる様になったらラ

イナーは馬場の外から声をかけるだけだ。

 

 そして、馬は言う事をきかない。


 完全に舐められているのだろう、軽く腹を蹴っても馬は動かなかった。声をか

けてみるが同様である。手綱を少し引っ張っても変わらず、馬はそこに佇んでい

るだけだ。


「先輩……」

「大丈夫、いつか動くから」

 そういう問題だろうか、とタビーは恨みがましい目でライナーを見つめる。

「お願いだから、歩いてくれないかなぁ」

 馬に頼んでみるが、耳が少し動いただけだ。何度もブラシ掛けをした馬だが、

いざ乗ると全く動かないのは何故なのだろう。

 両側の太腿に力を込めてみる。馬は、動かない。

「動くまで、いろいろ試してみればいいよ」

 ライナーは馬場には入ってこない。この馬を連れてきたのは彼で、その時はき

ちんと歩いていたのだ。気性も落ち着いていて、初心者向けの馬らしい。

 

「なんだ、今度は馬か」

 声を掛けられて振り向くと、カッシラー教官がいた。

「きょ、教官……」

「動かないんですよ」

 ライナーの言葉に教官はにんまりと笑う。

「シービは初心者向けだぞ」

「いや、でも動かないんですが」

「だとよ、ライナー、引いてやれ」

「甘やかしませんよ、僕は」

 教官とライナーのやり取りを見つつ、タビーはもう何度目になるか判らない合

図を馬に出す。相変わらず、動かない。


「タビー、そいつはちゃんとしてれば動く馬だからな」

「教官」

 咎める様なライナーの言葉に、彼は肩をすくめた。

「おお、おっかねぇな。ま、頑張れよ」

「頑張れって……ちゃんと乗ってるんだけど……」

 鐙への足の乗せ方、手綱の持ち方、姿勢。言われた通りの筈だ。

「仕方ないなぁ」

 教官を見送って、ライナーは溜息をつく。

「もう答え言われちゃったけど。タビー、もう一度きちんと乗ってみて」

「ええと」

 一つ一つ確認しながら、体勢を整える。

「こう、ですか」

「背筋をきちんと伸ばして」

「はい」

「で、合図」

 太腿に力を込める。あれほど動かなかった馬が、歩き出した。

「わ、わっ」

 慌てつつも手綱を言われた通りに持つ。引きすぎず、緩すぎず。

「おお、いい感じじゃない?」

 タビーがいる馬場は四角くて小さめだ。初心者向けである。その馬場を、馬は

ぽくぽくと歩く。角に来れば手綱を引かずとも曲がった。

 馬場を一周したが、歩様は全く乱れない。馬に乗せて貰っているという感じだ。


「よし、止めて」

 ライナーが馬場の中に入ってくる。手綱を軽く引き、タビーは馬を止めた。

「よし。良い子だな、シービ」

 馬は鼻面を撫でられて、気持ちよさそうにしている。タビーも首筋を軽くぽん

ぽんと叩いた。

「シービはきっちり調教されてるから。きちんとした姿勢で乗れば動く馬だ」

「ということは」

「タビーの姿勢と、あと鐙の足掛けがちょっと深かったかな。こいつにとっては

きちんとした姿勢でない、っていうのは動かない、って命令と同じなんだね」

「はぁ」

「で、どう?歩いてみた感じは」

 ライナーは手綱を引き、シービを促す。馬はゆったりと歩き出した。

「気持ちいいです」

「だよね」

 乗る前に想像していた腰の痛みもない。そう言うとライナーは笑う。

「きちんとした姿勢で、腰とお尻で衝撃を消していれば、痛くはならないよ」

「その姿勢を維持するのがちょっと」

「ああ、それはあるね」

 慣れれば大丈夫だよ、と続けたライナーは足を止める。シービもぴたりと足を

止めた。

「シービは初心者向けで、普通は基礎課程にいる自主練志望者とか、乗馬が下手

なヤツが乗るんだ」

 だから、誰も乗っていなかったらシービを使う様に、と言われてタビーは頷く。

「慣れてきたら他の馬にも乗せるから。とにかく、今日言ったことと姿勢は覚え

てね」

「はい」

「じゃ、降りてみて」

 タビーは頷き、右足から鐙を外した。その足を、左足に添え、そのまま少し止

まって左足も鐙から抜いていく。極力静かに馬を下りた。

「うん、いいね。慣れればさっと降りられるから」

「はい」

 きっちりと調教されているせいか、シービは全く動かない。時折首を動かした

り尾をパタンパタンと振る位だ。

「じゃ、シービのブラシ掛けと、あと馬房の藁の入れ替え頼むね」

「わかりました」

 柵にある扉を開き、シービを誘導する。タビーに促されるまま、シービは後を

ついていく。ライナーは基礎課程の自主練を見てくると言い、そこで別れた。


 ぽくぽくという足音は、どこかのんびりとしていて、眠気を誘う程だ。

 騎士専攻課程の猛者の中には、乗馬の練習中に寝てしまった者もいるというが

その理由も判る気がする。馬の上は気持ちいい。


「やぁ、タビー」

 馬にブラシをかけ、藁を交換してから馬房に入れたところで声をかけられる。

 聞きたくなかった声に恐る恐る振り向けば、にこやかなフリッツがいた。

「これお願い」

 渡されたのは、手紙の束だ。綺麗な組紐で結ばれている。

「あ、こっちは今日のね」

 束とは別に渡された1通を反射的に受け取ってしまった。

「じゃ、よろしく」

 いつもの様にくねくねしつつ、フリッツは去って行く。

「……信じられない」


 腕に抱えるほどの手紙の束と、今日の一通を手にタビーは呟いた。


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