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タビーと騎士の犬  作者: 弾正
幕間 その1
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 ピンツェを入手したタビーには、やりたいことがあった。

 小袋の中身を調べることである。

 神官から貰った小袋を1つだけ使ったところ、言われた通り足の疲れがすっき

りと取れた。寮の風呂は温泉が引き込まれており、傷や打撲、疲れ等への効能が

ある。だが、貰った袋はそれ以上に効果があった。


 この世界には、魔術、薬術、聖術がある。


 魔術は人や物、魔獣等ありとあらゆるものへの攻撃、防御、補助や付与。

 薬術は魔力を使って薬を調合。

 聖術は治癒術と呼ばれる癒やしの術。


 魔術は内的循環と外的循環である呪、発声が必要。

 薬術は魔力を操って適当な量を使う調整力。

 聖術は祈りと、恐らく魔力を必要とする。


 魔術で怪我や病気を癒すことはできない。

 薬術で瀕死の重傷者や重病者を助けるのは難しい。

 聖術で切り傷や擦り傷程度の軽傷を癒す事は想定されていない。


 今までの経験から、タビーはそう考えている。


 また、魔術の外的循環と聖術の祈りは同じ様な役目を果たしている、と推測し

ているが、こちらも確定はしていない。

 だが、この前の神官がくれた小袋は、魔術応用で学ぶ薬術に近いものがある。

 薬術の薬は主に治療や予防に使われるが、恐らく聖術にも同じ様なものがある

のだろう。


 それであれば、タビーの当初の目的である『聖術を使う』事が出来るかもしれ

ない。


 祈りという言葉でまとめられてしまったが、要は使い方なのではないか。

 魔術との共通点をつきつめていけば、同じものになるのではないか。それがタ

ビーの推論である。


 その推論を検証するために、この前貰った小袋を開けてみようと思ったのだ。


 綺麗に縫われた小袋の端をほぐし、糸を少しずつ抜いていく。袋をある程度開

いたところでピンツェの出番だ。

 予想通り、袋の中身は細かく砕かれた草の様なものだった。

 それを一つ一つピンツェでより分け、薬包紙の上に置いていく。大まかな色と

形で分けてから、更に細かく分類するのだ。


 一日やそこらでは終わらないだろう。それはタビーも理解している。

 ピンツェは細かい粒の様なものもきちんと掴めた。タビーの掌にはやや長めだ

が、使い勝手はいい。半分ほど分けた所でタビーはピンツェを置く。

 俯いた体勢でずっと仕分けをしていたせいか、肩や首が痛い。目もしばしばす

る。今日はここまでにしようと考え。タビーはピンツェを閉まった。

 開いた袋と薬包紙に分類された中身は別の木箱に入れ、そうっと机の引き出し

にしまい込む。


 祈りが何か、さえ判れば、治癒術を使える可能性が高い。学院の資料で調べた

限り、聖術を使えるかどうかについて追及した文献は無かった。棲み分けなのだ

ろう。魔術は攻撃や補助に特化し、聖術は癒しに特化する。

 聖術も必ず助けられるという保証はない。患者の体力や気力が持たなければ死

ぬこともある。伝染病等を癒せる訳でもない。治癒術を扱う者として、伝染病が

出た時や病気の対処は知っているだろうが――――。


 瀕死の重傷でも助けられる治癒術が万能だと言うならば、この世界に『死』は

ないだろう。神官や司祭達が間に合わなかったら死ぬし、間に合えばいつまでも

半永久的に生きられる、としたら、貴族達が神官や司祭を放っておく筈がない。

 

 だが、実際に王都でも葬式はあるし、国王や貴族は代替わりする。

 『死』は、この世界にもあるのだ。ただ、そこに至るまで助かる手段があると

いうことで。


「……医者、と同じ様なものかな」

 こちらの世界には『医者』はいない。いるのは薬師と神官、司祭、聖女だけだ。

 医者が万能ではない様に、こちらの神官達も万能ではない。

 医者と違うのは、魔力を使うことと治療費を貰わないことだ。

 喜捨という形ですら貰わない。故に神殿は神殿に来る信者の喜捨で成り立って

いる。だが、それだけで成り立つものなのだろうか。有力な貴族がついていると

しても、あれだけの人数の衣食住を成り立たせるのは難しいだろう。


 いずれにしても神殿は秘密に満ちていて、タビーの好奇心はそれを知りたがっ

ている。

 その秘密を知ってどうするのか、と問われれば、タビーは答えられないだろう。

 知りたいという欲求を抑えきれないだけなのだ。


「国の補助金が出ているのかな……」


 ダーフィトでは唯一の宗教だ。勿論信じない者もいるだろうが、そういう人物

でも公言はしないだろう。祭りがあれば殆どが神殿に詣でるし、護符を買うのも

神殿だ。国が庇護していると考えてもおかしくない。


「……わかんないな」

 

 溜息をつくとタビーは立ち上がった。この世界はまだ判らないことだらけだ。

 何よりも、どうしてここまで聖術に拘るのか自分でも理解できない。将来は魔

術師になりたいし、聖女や司祭になるかと問われたら、即否定できる。


 この好奇心の行き着く先を考えれば、不安だ。意図していないものが出てくる

のではないかと思う。

 それを知って、そしてどうしたいのか。


 タビー自身の答えはでていない。


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