05
ダーフィトの冬は厳しい。王都である南側でも雪は降るし、北であれば深く積もる事も珍しくなく、人々は念入りに冬支度をする。
厳しい冬でも、商人達は逞しい。東西南北問わず行商は行き交うし、王都の店であれば余程酷い雪でなければ開店する。
だが、そのまさかがあったとき、蓄えが無いと餓死や凍死一直線だ。
事情のあるタビーと言えども、それは変わらない。
「パンと酵母と乾燥肉に毛布と……」
冬の間、タビーの家にパン等が届くことはない。それはこの家に住んでから変わらないことだ。その代わり、長期保管が利く品物が置かれる。
正直、ほっとする。
誰かが来るのであれば、タビーはここにいたくない。商業ギルド等で顔なじみはいるが友人という存在がいない今、この家に顔を出すのは家の関係者だ。
だからできる限り外にいる。
相手もこちらと顔を合わせたくないだろうから、仕事がなくても家にいることは殆どない。
「何か果物でも買っておこうかな」
砂糖漬けにした果物、酢漬けにした野菜は一冬分ある。ただ冬になれば生の果物は高くなるから、買うなら今だろう。
「もう少し酢漬けを作っておくか」
台所の下にある瓶を数え終え、腰を伸ばす。
冬はどうしても野菜不足になる。前世の曖昧な記憶で、雪の下に野菜を埋めてみたことがあったが、探すのも掘り出すのも大変だった。それよりは、と酢漬けを始めて数年になる。
「ぬか床とか無いしなぁ」
この世界の味には慣れたが、時々無性に前世の食べ物を食べたくなる。米はあるが味噌はない。醤油は魚醤の様なものがあったが、値段的に手が出なかった。
「もうすぐ、か……」
年が開ければ、王立学院の入学試験がある。
合格すれば、少しは自分の未来が開けるだろう。今の様な、飼い殺しとも放置とも思える所から抜け出せる筈だ。
合格する自信は、ある。
王立学院の試験を受けるための推薦はギルドから貰えそうだったし、試験の内容もおそらく問題はないだろう。
ただ王立学院の入学試験には口頭試問があり、その場で教師の問いに答えなければならない。
うまく話せるだろうか、どうしても知識が足りない部分はどうなるのか、漠然とした不安がある。可能であれば授業料等が免除される特待生になりたいが、どの程度でなれるのかも情報がなかった。
入学すれば身分の差、家名にとらわれずに教育を受けられるが、残念ながら試験では貴族優先だ。定員は変わらないから、学院を志望する貴族の子が多ければ、それ以外の受け入れ人数は少なくなってしまう。
学院は15歳まで入学可能なため、万が一があれば来年再受験になる。だがその時は商業ギルドの推薦は貰えないだろうし、今の生活が1年も延長されてしまう。
学院に入れば寮がある。
特待生になれれば、今ほど働かなくても生きていけるだろう。
その先には――――。
きっと、自分が望んだ未来がある筈だ。




