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タビーと騎士の犬  作者: 弾正
タビーと決闘
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 きらきらと、破片が舞った。


 飛び散るというよりは、ゆっくりと落ちるその動きにタビーは目を奪われる。


 きれいだ、と思った。

 この美しさが自分の魔力から出来たものだとしたら、最高だ。


 紅色の膜は散らばり、消えて行く。


「勝者、タビー!」


 立会人の声に、彼女は我に返った。

 視線を戻せば、トビアスが尻餅をついている。


 ――――その位置は、枠の外。訓練場の外壁に近いところだ。


「……ッ」


 引きつった声が聞こえてそちらを見れば、カッシラーとフリッツが声を抑え

つつ笑っていた。アロイスは変わらず、ライナーはどこかほっとした様な表情

に見える。


「タビー、君の勝ちだ。何か、望むことはあるか?」


 立会人の教官に問われ、タビーは目を見張った。


「要望が通るのですか?」

「勝者は君だからな」

 そんなことも知らないのか、と言いたげに、教官は口にする。


「一般常識に照らし合わせて問題が無ければ、望みは受け入れられる」


 おそらく、学院を今すぐ卒業させて欲しい、や、講義の単位を保証して欲し

い、等という要求は聞き入れられないのだろう。


「だったら……」


 今すぐ思いつく望みは、たった一つだ。

 タビーは緊張しつつ、口を開いた。





 騎士寮は、賑やかだった。


 何しろ決闘で勝ったのだ。しかも騎士寮所属のタビーが、だ。

 これは寮同士の面子にも関わるらしい。タビーは知らなかったが。


 お祝い代わりか、今日の夕食にはデザートが付いている。甘いタルトだった。

 騎士寮では見ないものだ。


「美味しい」


 果物がふんだんに盛り込まれたタルトは、タビーの顔を緩めさせる。


「毎日だったらいいのに」

「タビー。パイもあるぞ」


 寮生の一人がテーブルに置いてくれたのは、クリームがたっぷり使われたパイだ。


「ありがとうございます。豪勢ですね」

「お前が勝ったからだよ、おめでとさん」


 寮生は自分のパイを持って、仲間の所へと行ってしまう。


「でも、こんなに作るのは大変だったでしょうねぇ」


 騎士寮は肉まみれの食事だ。以前使わせて貰った厨房も、焼く、煮る、炒める

為の道具は揃っていたが、菓子作りとなるとまた別だろう。


「ウチで作ってないから、大丈夫」

「え?」

「アロイスがまきあげてきたものだから」

 

 ライナーの言葉に驚いたタビーは、黙ったままタルトを食べているアロイスに

視線を移した。


「え、ええっと……」


「正当な権利だから気にしなくていいんだよ」


 くねくねしつつにまにましているフリッツが、フォークをくるりと回した。


「今回の決闘の様に、寮が違う者同士が戦った場合、勝者の寮は敗者の寮から何

かを貰う事ができる」

「あれ、教官に聞いていないの?」


 フリッツとライナーの言葉に、タビーは首を横に振る。


「私、勝ったら要望を通せるという事も知らなくて」

「教官はホントに最低限しか教えてないんだなぁ」

「らしいというか、何というか」


「まぁ、決闘で勝つと色々な特典があるんだよ」


 騎士を目指すライナーは食べ終えた皿を横に寄せ、タビーを見た。


「勝者の要望を1つ、聞き入れて貰える。所属寮が違えば、相手の寮から何か一

つ貰うことができる。専門課程だと使用した武器の講義で特別単位が認められる。

基礎課程だと、たぶん運動系の単位が認定か何かがされるはず」


 タビーが取っている講義の場合、必須以外に運動1というものがあり、恐らく

そこで特別単位付与若しくは単位認定がされるらしい。今後、講義に出席しなく

ても、だ。


「で、アロイスは今夜のデザートを貰ってきた訳だ」

「貴族寮から、ですか?」

「そう」


 タビーはアロイスを見やるが、彼は何も言わない。


「貴族寮は毎日食べきれない位のデザート作ってるから、気にしなくても大丈夫」

「はぁ」


 とはいえ、タビーの勝利は正攻法ではない。 防御膜をどんどん大きくして、

相手をはじき飛ばしただけだ。

 それでも、勝ちは勝ちだと言う。


「でも、こんなので勝ってしまったら、魔術師が有利ですよね」

「それ以前に、決闘は普通貴族同士でやるものだから」


 貴族ではない者にそれを課す、ということは、貴族として恥だという。

 だからこそ、申し込んだ方から異議申し立てをすることが出来るのだ。自らの

体面のためにそうしなかったトビアスは、貴族の中で評価を下げるだろうとのこ

とだった。


「甘いものは、嫌だったか」


 ふと、顔を上げたアロイスが問いかける。


「いえ!大好きです」


 独り暮らしのとき、臨時収入があれば甘い果物や菓子を買っていた。頻繁には

食べられなかったし、寮や学院の食堂でもデザートは殆ど出なかったから、嬉しい

ことは嬉しい。


「その、なんか夢みたいで……」

「うん、夢じゃないから安心して。それでね」


 フリッツがにこやかに微笑んだ。タビーがパイに伸ばしたフォークの動きが止

まる。


「今回は、僕の手助けがあったから勝てたんだよね」

「……はい」

「訓練用の石も壊れちゃったし」


 魔力を過剰に流し、防御膜を膨らませた反動で、フリッツから貸してもらった

石は粉々になってしまった。


「それは、本当にすみませ……」

「いいのいいの、謝らないで。どうせ僕はもう使わないし」


 あくまでフリッツはにこやかで、そしてくねくねしている。


「僕ね、欲しいものがあるんだ」


 タビーは身構えた。どうせラーラ絡みの何かだと思うが、変態の思考は判らない。


「ラーラの枕、欲しいなぁ」


 タビーの中で、決闘騒ぎで少し上がったフリッツへの評価が、がた落ちした。

 変態はやはり変態だ。


「あ、あの、それは……」


「ダメ?じゃ毛布とかでもいいんだけど」


 ラーラが身につけていたものがいいなぁ、とフリッツはくねくねする。

 そして、タビーはそれを断れない。


「ま、枕は難しいかもしれませんが」

「使っていたものなら、何でもいいよ」


 フリッツは何故こんなににこやかなのだろう。正気を疑う。

 自分の耳がおかしくなったのでは無いことは、急に無表情になったライナーか

らも察せられた。


 彼は、本気だ。このうえもなく。


「ええと」

「ん?」

「こ、交渉してみます……」


 タビーは、逃げられない。

 脱力しつつ、彼女はようやくそれだけを口にした。


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