03
「おはよう、早いね」
この国にはいくつものギルドと呼ばれる組合がある。
その中のひとつ、商業ギルドに入った所で声を掛けられた。
白い石を磨き上げて嵌めこんだ床、淡色の木で作られた円形の机と椅子、それぞれにレースのテーブルクロス。整然、かつゆったりとした空間。
ここは、商売関係の全てを取りまとめる場所でもある。
「おはようございます」
彼女はぺこりとお辞儀を返して、掲示板へ向かった。
掲示板には商売に関した様々な依頼が掲示され、ギルドに所属する者はこれを見て仕事を請け負ったり取引を行ったりする。
他ギルドとは違い、片側壁面一杯を使った掲示板だが、それでも貼りきれないのか、依頼が重なっていたり手の届かない高い所にまで貼られている有様だ。
「うーん」
たまに掲示される金貸し屋の代筆は無かった。手間暇の割りには案外いい賃金なので狙っているのだが、なかなか出て来ない。昨日までの契約だった店も、恐らく他のあてが見つかったのだろう、延長の話もなかった。
今見る限り、彼女の年齢で許される仕事といえば、屋台の売り子、洋裁店の補助、掃除洗濯等の雑用、調理補助、届け物のお使い、くらいだ。
「調理補助、か」
掲示板で見つけた店の名は王都でも有名な料理屋だが、仕事そのものは他よりしんどい。
以前行った時には、15時間連続で芋の皮むきをさせられた事がある。
その分の賃金はきちんと貰えたが、数日は筋肉痛で他の仕事ができない有様だった。手が震えるから実入りのいい代筆の仕事は出来ず、結局臨時収入があっても何時もと変わらない程で。
「売り子がいいかなぁ」
屋台の売り子は子どもが多い。簡単な計算が出来れば大人がいなくても出来るし、調理作業もそれほど難しくないものが多いのだ。その分、賃金は安くなるが。
「うーん」
敢えて今日を休みにする、という事も考える。今のところ衣食住は足りているから、無理に仕事をする必要はない。勿論、今後に備えて仕事をするべき、という考えもあるが。
掲示板の端から端まで見て、彼女は溜息をついた。
今日は不作だ。
こんな日には無理に仕事を探す必要はないだろう、と思い、ギルドを出ようとした所で顔なじみを見かける。
「おはよう、マックス」
「おう、タビー」
おはよう、と言って笑った少年は、彼女――――タビーと同じく商業ギルドで働く一人だ。
「なんだ、いいのねぇの?」
「うん」
「まぁ、タビーはなぁ……稼ぎのいい仕事できるからな」
代筆や計算作業はタビーの得意とするものである。それで稼げる事を知ってしまうと他の仕事にはなかなか食指が動かない。
「じゃ、休みか?」
「そうしようかって。マックスは?」
「俺は店の倉庫掃除」
昨日から3日連続の仕事だという。店に行く前に、明後日以降のいい仕事がないか探しに来たらしい。
「そっか、じゃ頑張って」
「おう、じゃな」
手を振り合って別れる。
仕事もないし、家には帰りたくない――――せめて、夕方の鐘がなるまでは。
「図書館でも行こうかな……」