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タビーと騎士の犬  作者: 弾正
踏み出した一歩
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18


 学院の夏期休暇は、前世のものと随分違う。

 少し長めの休みに帰省する者が多いが、敢えて学院に残る者も多い。特に騎士

を目指す者達にとって、夏期休暇は天敵だ。


「家にいると上げ膳据え膳だしね」

 親は職人だというライナーは苦笑する。

「あれも食べろこれも食べろ、この傷はなんなんだ、あれはどうなんだ、って」

 色々な出自の者がいるが、貴族以外は帰る方が少ない。

「筋肉落ちるし、どうしても怠けるからな」

 他の面々もそう言って寮に残留するという。

 学院が訓練場を開放するため、そこで鍛錬を行いつつ、冒険者ギルドの依頼を

こなしたりするのが常だ。

 

 タビーも休暇中に開かれる特別講座への参加を決めた。無料な上、専門課程で

なければ出来ない様な事を教えて貰える。実習は出来ないが、どんなものか話を

聞くだけでも聞いてみたい。


 時間があれば、商業ギルドで仕事をするつもりだ。

 この時期だと実入りのいいものは少ないかもしれないが、いつまた世話になる

か判らない。小遣いもあった方がいいし、成長期だから服や着替えも新調する必

要がある。


 できれば、まかないが付いている店がいい。

 

 それは、タビーの切実な希望でもあった。


「食べないのか」

 寮の食事をじっと見つめてるタビーに、アロイスが声をかける。

 表情はあまり動かないし、口数もそれほど多くはないけれど、彼が寮生達に信

頼されているのは判っていた。

「アロイス先輩」

 呼び捨て可、と言われるものの、寮長でもある彼を軽々しく呼び捨てできる程

の度胸もないタビーは、最後に先輩とつけて呼んでいる。


「いえ……お腹は空いているんですが……」


 今日の朝食は煮込んだ何かの肉と、豆のスープ、パンである。


 そう、肉だ。


 学院の食堂では日替わりで様々なものが出るが、寮の食生活は肉一色である。

 朝も肉。

 夜も肉。

 夏期休暇中は頼めば昼も作ってもらえるが、当然肉。


 付け合わせで野菜が付くこともあるが、メインは肉。

 更に味付けが少々濃いめだ。炎天下で訓練する寮生の為に、やや塩気が強い

ものが準備されている。

 

 現段階で騎士になるつもりが全くないタビーには、少々辛い食事なのだ。


「早く食べないと、冷める」

 アロイスに促されてタビーはフォークを手に取る。

 朝だからあっさり目の煮込みだというが、彼女にとっては夕食でもいい位の

量だ。


 こうなったら、早くまかない付きの仕事を探すしかない。

 もしくは、自炊。

 だが、一人での自炊はお金も手間もかかる。外食は論外。

 となると、昼だけでもまかないがある店がいい。


(確か……)


 今まで働いた店を頭の中で思い出す。肉が出ない店、というのはないが、ま

かないがさっぱりして美味しかった店はいくつかあった。


 肉は好きだが、こう毎日では飽きる。

 鳥、豚、牛、羊等、肉そのものの種類や味付けは毎日違うが、肉であること

に変わりは無い。

 他の寮では色々なものが出るらしいので、その点では少々羨ましい気もする。


「……」

 煮込みは美味しい。少し味付けが濃いが、口の中でほろりととける部分と歯

ごたえのある軟骨部分がうまく組み合わさっている。大きな骨以外は全て食べ

られるし、手間暇もかかっているのだろう。


(野菜不足とか、大丈夫なのかな)


 付け合わせの野菜では量が少ない様にも思う。おかわり自由とはいえ、温野

菜だけでは足りないものもある。野菜が不足すると病気になりやすい、と聞い

た事があるが、騎士寮の面々は今日も元気だ。


「タビー、大きくなれないぞ」

 彼女の止まった手を見てアロイスがぼそりと呟き、同席していた他の面々が

吹き出しそうになる。

「はぁ」

「体は基本だ、食べろ」

 有無を言わせない言葉に、タビーは再び手を動かした。


 美味しい、間違いなく。


 美味しいが、栄養面でどうなのか。

 前世で栄養に気を遣った記憶はないが、そんなタビーでもバランスが悪いと

思う。


「あの」

「ん?」

「生の野菜とか、果物とか出ないんですか?」

「寮でか?」

「はい」

「ないな」

 アロイスの答えに彼女は肩を落とす。


「果物が食べたいのか」

「いえ、その、肉ばかりなので……」

「裏庭に果物がある」

 行儀悪くフォークの先で裏庭を指したアロイスは続ける。

「俺たちは訓練の合間に食べる事もあるが」

 水分補給と栄養補給を兼ねているのだろう。

「私も食べていいんでしょうか」

「構わないが……」

 彼はタビーをじっと見つめる。


「その背では、届かない」

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