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タビーと騎士の犬  作者: 弾正
幕間 その2
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 学院の講義が再開された。

 ある程度の余裕を持って組まれている講義だったが、流石に一ヶ月近くの休み

は想定外だったのだろう。どの教科も今までとは違う早さで進んで行く。

 予習と復習をしておかないと、相当辛い。タビーは自主勉強の時間以外も教本

を読む日々だ。

 講義の中には『ここの項目は魔術基礎概論の225頁に記載がありますので、

説明を省略します』というものもあり、昨年の教本も引っ張り出しての自習にな

る。

 

 財務専攻は課題責めだが、魔術応用は自主学習責め。どちらがいいのかタビー

には判らない。どうしても理解できないところは教官を捕まえるしかないが、同

期も同じ行動を取っているため、教官に質問するのもままならない状況だ。


 そんな中、騎士専攻と魔術応用の共同実習が始まった。


 騎士専攻と魔術応用の生徒が組になって、戦術や基本の戦い方を学ぶ、という

名目だが、ここにも講義遅れの影響が出ている。


「共同実習は、各々が戦いながら相手を助けていくということを前提としている。

魔術応用の講義室で講義を行う時は、戦いの主体は魔術応用。訓練場で講義を行

う場合は叩きの主体は騎士専攻になる」

「今日は、まず戦盤で好きな様に戦うこと。騎士専攻の連中は、あらかじめ駒に

自分の行動を入れておく様に」


 魔術応用の教官と騎士専攻課程の教官が並ぶ姿は、何となく不思議だ。タビー

は隣で駒をいじり回しているヒューゴを見る。


「入った?」

「いや、なんかうまくいかないな……」

 全員に与えられている駒は、戦盤上のみで使えるものだ。今回は騎士専攻が補

助になるため、いくつかの行動を駒に読み込ませる。魔道具で出来た駒なので、

扱いづらいところがあった。

「やろうか?」

「いや、次回出来ないとまずい」

「そうだね。じゃ、まずこっちを押して……」

 周囲も同様に、魔術応用の生徒が騎士専攻の生徒に教えたり、代わりに操作を

したりしている。

「今回は、攻めると守るとあるから」

「守る、だな」

「前衛か後衛か」

「前衛」

 何度か触っていくうちに慣れてきたのだろう。ヒューゴは思ったよりも早く設

定ができた。


「おう、できたか。ヒューゴ、戦盤に入れて見ろ」

 戦盤は正方形の木枠で囲まれている。いくつもの戦盤があるが、全て地形が違っ

ていた。

 ヒューゴが戦盤に駒をいれると、駒は騎士隊の形を取り、戦盤をうろうろし始

める。

「護衛対象がいないので、定まらないですね。タビー、駒を」

 教官に促され、タビーも自分の駒を入れた。ローブを身につけた魔術師の駒が

動き出す。その周囲を騎士が取り囲んだ。


「……なんだか、捕縛されてるみたいに見える」

「う、うーん」

 ヒューゴは頭に手を当てた。設定は問題無かったと思うが、仕方ない。


 今回の攻撃は魔術応用の生徒が主体になる。

 生徒は駒に向けて魔術を発動させ、駒が戦盤上での威力に変換し相手を攻撃す

るというものだ。攻撃は相手と交互で行われ、攻撃により戦力が減っていく。

 回復魔術というものはないため、減った戦力を戻すことはできない。戦盤上の

戦闘可能人数が3割削られたら負けだ。また、魔術師側は状況に応じて使う魔術

を変えるため、相手の出方を読む必要もある。駒を動かしながら、戦況を読むの

だ。1回行動すれば、交代。相手の動きを待ち、状況を把握していく。

 前世の箱庭みたいな場所で駒を動かすのだ。ゲームに似ている。


 対して、騎士課程は戦盤を使った実習ではあまり出所がない。

 駒に自分が思う通りの動きを入れた後は、見てるだけなのだ。集団戦になると

騎士専攻も随時戦略を変更できる様になるが、今回は応援要員と同じである。


 それを、どう見るかでこの先に違いがでてくるが。


 全員が駒を設定し、戦盤に浮かべた。タビー達の戦盤は山地だ。相手の方が高

さは上で、少々不利である。


「では、始めなさい。戦盤には時間制限があります。制限が来たら、次の盤へ移

動しなさい。結果については、駒にも記録されますので、メモは不要です」

 ぱん、と手を叩いた教官の声に、講義室は静まった。

 

 戦盤は、北側が先攻だ。南側のタビー達は後攻になる。


「始めます」

 相手方の駒も、騎士に守られていた。魔術が発動し、山の上部が崩れる。

 タビーは防御魔術を展開した。相手は再度魔術を発動させる。山の大半が崩れ

たが、タビーの防御魔術に阻まれて倒せない。

「……」

 タビーは防御魔術を維持したまま、部隊全体を後ろに下げた。これで行動終了。

 相手は更に山を崩そうとしたが、魔術がうまく発動しない。一定以上の破壊は

両軍に影響が出る。戦盤側が不可と判断した様だ。

 タビーは更に駒を後ろに下げた。相手は崩れた土を乗り越えてくる。ここまで

来れば簡単だ。タビーが攻撃魔術を展開し、相手の駒を攻撃。相手方の騎士部隊

は人数を減らした。そこで甲高い音が鳴る。


「終了です、駒を回収し、次の戦盤へ」


 慌ただしい。本当であれば戦盤を見ながら色々な説明をするが、余程時間がな

いのか、実践主体に講義を切り替えている様だ。


 相手と礼をし、次の盤へ。その間に戦盤は自動修復をし、最初の状態に戻る。

 これを組数分行うのだ。

 移動先で駒を戦盤に放り込む。

「タビー」

「ん?」

「あと何回かしたら、ちょっと駒の設定を変えてみたい」

「いいよ」

 騎士課程の面々は基本的に眺めているだけだが、その間でも申告すれば設定を

3回まで変更できる。

 次は平地だ。遮るものが何も無いところで、相手と対峙する。

 使うものがない場合、魔術の総力戦になりがちだ。お互いに攻撃魔術を打ちあ

い、時間制限でどれだけ減らせるか、というもの。

「少し下がろうか」

「届くか?」

「下がらないと、騎士が消耗する」

 タビーの魔術師隊を、ヒューゴの騎士隊が取り囲んでいる。前衛部分はどうし

ても相手の攻撃対象になりやすい。となると、移動しつつ魔術を放つ方がいいと

タビーは判断した。魔術の出来をみるというより、どれだけ生かして残せるか、

に主体が置かれているのだ。損傷は少ない方がいい。


 子どもの遊びにも良く似た戦盤だが、生徒達は徐々にのめり込んでいく。


 タビーも例外ではなかった。



 全勝は3組。

 時間切れで全組対戦が出来ず、結果として全勝が3組になった。次回はこの3

組を当たらせてから、座学の予定らしい。

「強いな」

 駒から吐き出された記録紙を見て、ヒューゴが呟く。タビー達は全勝の3組の

1つに入っていた。

「ありがとう」

 タビーはにやける顔をどうにか押さえつけて返す。

「全勝出来ると思っていなかった」

「まぁ、最初だから。運もあるよ」

 それにタビーは前世の記憶も持っている。戦術等を勉強した訳ではないがゲー

ムや読書で様々な状況があることを知っていた。その詳細は思い出せないが、何

となくこうすればいい、という様な感覚がある。

「タビーと組んだのは正解だった」

「本番は騎士専攻での共同実習でしょう?」

 その時は騎士達がぶつかり合う肉弾戦だ。魔術応用課程の面々は、ただ立って

いるだけである。騎士が負ければ、終わり。

「それはそうだが」

「それに、まだ組内だけど、集団戦になったらもっと大変だよね」

 集団戦は、同学年が無作為に混ぜ合わされ、二手に分かれて戦うことになる。

 情報伝達や魔術応用のフォローが大切になるため、簡単には勝てない。

「難しいものだな。自分だけならどうにかなるが……」

「集団っていうのがね。普段仲が良い、悪いなんか抑え込んでしまわないといけ

ないし」

 ヒューゴがうんざりとした表情をする。まとまっている様に見える騎士専攻で

もいろいろな事があるのだろう。

「だが、面白い講義だ。次回が楽しみだな」

「うん……あ、私こっちだから。じゃ、また」

「おつかれ」

 それぞれの学舎へ向かう渡り廊下で二人は別れる。

 自分の教室に向かいながら、タビーは握りしめていた記録紙を見つめた。

「……へへ」

 全勝というのは嬉しい。子どもの遊びと同じだと言われようとも、こうやって

目で見える結果がでるのはいい。


 足取りも軽く、タビーは教室へと向かった。


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