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タビーと騎士の犬  作者: 弾正
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 騎士であれば、騎乗は出来て当然とされる。

 王立学院を出た騎士であれば騎士専攻課程の教育に騎乗や馬の扱いが含まれており、試験を受けて騎士見習いになった場合は騎士になる訓練を受けながら騎乗技術を学ぶ。

 今回の戦は海辺が戦場になると予想されていた。草原等の広い土地であれば馬を使った戦法が想定されるが、海辺ではそうは行かない。とはいえ、物資輸送や騎士の移動等に馬は欠かせなかった。結果として、海辺より少し離れた内陸部に馬たちが集められている。

「この分なら雪は降らなさそうだな」

 タビーの隣を歩いているのは副将軍のひとりでもあるクノール子爵。彼の娘でもあるマルグリットを介して知り合ったが、あの頃はこんな風に並んで歩くことがあるなど予想もしていなかった。

「今年は、雪が少ないですね」

 歩きながら、タビーも応じる。彼女たちの後ろには数人の護衛騎士がついていた。今日の女王の警護はラーラをはじめとした女性騎士に任されている。タビーを己の側から手放したがらない女王だが、明日の準備と説明されて渋々送り出した。

「まぁ、雪を嫌う馬はいないが」

 クノールはタビーに歩幅を合わせ、ゆったりと歩いている。

「予備の馬だが、どの馬も訓練されている。好きな馬を選んで構わない」

 明日、女王と騎士団はナード砦側にあるユガへ向かい、視察を終えたら王都へ向かう。魔術師達は来る時同様乗り合い馬車の様なものに分散するが、タビーは馬に乗ることになりここまでやってきた。女王は己と同じ馬車に乗せたいと口にしていたが、女王と護衛のみで席が埋まる馬車だ。何が起こるか油断できない今、護衛を降ろしてまで同乗しようとタビーは思わない。騎乗し、馬車の側を歩くことで決着した。

 少し先に簡易的な柵と、その内側に放たれている馬たちの姿が見える。予備の馬は交代で走らせたり見回りに使うことが多いらしい。

「やはり、馬は北の生産ですか?」

「そうだな、閣下のお膝元だから…というわけではないが、ほとんどは北の生まれだ。よい馬は子馬の頃から行き先が決まっていることも多い」

 そう言って笑うクノールの馬は、艶のある鹿毛だった。出かけに見せて貰ったが、多くの馬と関わってきたタビーが見ても、非の打ち所がない見事な馬だ。背は高く足も太く、均等に筋肉がついていて、大切に育てられたのが一目でわかった。

「そういえば、騎士団で君の馬を預かった事があったな」

「ブレドですね。今はブランク砦で留守番をしてますよ」

 ファーの背から見下ろした砦、そこで見かけたブレドは元気そうだったが。

「いい馬だな。足下もしっかりしていたし、体つきもいい。荷馬車を運ぶには最適な体つきだ」

「ええ。自慢の馬なんです」

 ブレドを褒められると嬉しい。こうして思い出すたびに、早く会いたいと思う。

「だとしたら、早めに迎えにいかなくては」

 笑ったクノールは、簡易的な柵に軽く寄りかかった。

「さ、好きな馬を選びなさい。どれを選んでも費用はかからんよ」

 護衛の騎士達が苦笑し、タビーも笑う。

 広めの柵の内側、馬たちは思い思いに走り回り――――。

「あれ?」

 つい先程までは走り回っていた馬たちが微動だにしていない。居合わせた馬が皆、タビー達を見つめている。

「ええと…」

 馬は生来臆病だ。見覚えのない者が近づけば警戒して距離を取るし、不用意に近づけば威嚇することもある。耳をみてみるが、後ろに絞っている馬はいない。殆どの馬は耳をピンと立ててこちらを見ている。

 とりあえず馬を選ぼうとタビーが柵をくぐろうとしたところで、小柄な鹿毛がこちらに向かって歩き出した。

 と思えば、奥にいた黒毛馬が小走りでその馬を追い越す。更に何頭かの馬が後を追って、あっという間にタビーの前までやってきた。

「ああ、やっぱりいい馬ですね。手入れも…」

 口にしかけたタビーに顔を寄せたのは、青毛の馬。と思えば、黒毛馬が押しのける様に顔を寄せてくる。後ろからは出遅れたらしい馬が押し寄せ、柵が嫌なきしみ音を立てた。

「疾く」

 反射的に呪が口に上る。折れそうだった柵を柔らかい防御膜がつつみ、馬体を受け止めた。とりあえずこれで馬に傷がつくことは避けられるだろう。

 タビーに顔をよせたり、騎士服の袖をはむ馬たちの数が増えていく。馬の世話をしている騎士達が慌てて引き離そうとするが、馬たちは動かない。

「…どれにするかね」

 いつの間にか柵から身を遠ざけていたクノールが苦笑しつつ問いかける。

「君がどの馬を選んでも、なんとなく揉めそうな気がするのだが」

 彼は押し寄せ、また彼女の前から動こうとしない馬たちを見て肩をすくめた。

「乗って決めてもいいのだよ?」

「全頭に?」

 タビーの眼差しに彼は笑う。

「選べそうかね?」

 彼女の側にたどり着けない馬たちは、後ろ側で嘶きをあげて気を引こうとする。いつもとはちがい、全く言うことを聞かない馬に、騎士達が目を白黒させていた。

「どうでしょう…」

 彼女はここまで馬に好かれたことはない。どちらかというと馬に好かれるのはフォルカーだ。どんな馬でも彼が目の前に立つと大人しくなり、言うことを聞く。そこまで馬に好かれるのに、馬に乗ると必ず振り落とされるのは謎だったが。

 タビーは己の左手首に視線を落とす。そこにはめられた腕輪の中に、青い炎の馬――――ファーがいる筈だ。冬至の日以降、心の中で呼びかけても、まったく反応しないが。

 おそらく、ファーの気配があるから馬たちは彼女のところへ集まるのだろう。とはいえ、肝心のファーは出てきそうにないのだから、馬を選ぶのはタビーの仕事だ。

「とりあえず、乗れるだけのってみます」

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