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タビーと騎士の犬  作者: 弾正
王立学院へ
10/1043

10

 掲示板の前で呆然としているうちに、周囲から人が少なくなっているのに気づ

いた。

 それぞれ移動を始めたのだろう。

 立ち尽くしたままのタビーに、上級生の一人が声をかける。

「何か、困ってる?」

「……」

 はい、と言いたいのに声にならなかった。唇がぶるぶると震える。


 帰りたく、ない。


 あの、ただ寝るだけの家に。


 どれだけ整えられていても、あそこはタビーの居場所ではなかった。

 ただの『家』という『器』だった。


「あ、あの、私」

 帰りたくない。その一心で口を開く。


「その、私の名前がないので……」

「え?」

 上級生は目を丸くし、掲示板を見上げる。

「名前を教えて?」

「タビーです」

「ええと、タビーさんね……」


 上級生も一緒に掲示板を確認するが、やはり名前がない。

「おかしいわ、教官たちが確認している筈なのに」

「……」

 顔が強ばってくる。自分で自分の血の気が引いていくのが判った。

 何かの間違いだったのだろうか、それとも単なる漏れなのだろうか。

 タビーに声をかけてきた上級生が、他の上級生に声をかける。

 次々に集まってくる彼らに、胸がばくばくとしてきた。

「教官に確認をした方が……」

「でも部屋は……」

「私たちで判断は……」

 抑えた声が漏れ聞こえる。周りにいた新入生達は、もう殆どいなかった。


「……やっぱり教官に」

「遅くなった」

 上級生の一人が言いかけたところで、声が掛かる。

 タビーも反射的に振り向いた。

 

 一言で言うなら、大男。

 タビーが見上げる位の身長と、厚みのある胸板。服の上からも筋肉がついてい

るのが判る。


「ウチのだ。連れて行く」

「え?ちょっと、アロイス?」

 上級生達が何かを言う前に、彼は軽く体を前に曲げ、ひょいとタビーの体を持

ち上げた。


「え?ええええええええ!」


 突然遠くなった地面、動かした足は空を切るだけ。


「アロイス、これは一体」

「ウチのだ。心配なら、カッシラー教官に聞いてくれ」

「え?えええ?」


 混乱しているのはタビーだけではないらしい。

 居合わせた上級生達も顔を見合わせ、戸惑った様な表情をしている。

 我関せずなのは、アロイスと呼ばれた男だけだ。

 当然歩幅も大きい、混乱しているうちに掲示板と上級生達は遠くなる。

「あ、あの、下ろしてくださ……」

「時間がない、我慢しろ」

 ぶっきらぼうな答えに目が回りそうになる。10歳とはいえ、タビーは同年代

の子ども達より身長がある方だ。体重は平均的だと思うが、それにしてもこん

な風に軽々しく担ぎ上げられる様な大きさではない。

「じ、時間って……」

「新入生の説明会がある」

「せ、説明会?」

「寮での色々な事とか、だな」

 刈り上げている彼の髪は硬い。

 服越しに腕にあたってるだけなのに、チクチクとした。

「荷物はそれだけなのか」

 小さくない荷物をタビーは抱えている。慌てて頷いた。

「そうか」

アロイスは頷くと、足を速める。


 4つある寮はいずれも曲線的な形をしていた。それらが向かい合わせになると

丁度内側が円形になる。アロイスは中庭の様になっているその円形部分を突っ切

り、校舎からは一番遠い位置になるであろう建物に向かう。


「あれだ」

「え?」

 担ぎ上げられた体勢から、無理矢理建物を見やる。

 焦茶色に塗られた壁と黒い屋根の建物は、明るい学院内の空気とは対照的だっ

た。

 他の寮に比べると、古くも見える。

 というより、どう贔屓目に見ても古い。どこか不気味な印象すらあった。

「あれが、寮だ」

 

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