その珍妙な動きをダンスと言い張るの、そろそろ止めてくださいませんか?
曲がやっと終わりを迎え、会場の中心で、踊り終えた私とベルナンド王子は拍手を浴びる。
今日はベルナンド王子十八歳の誕生パーティ。恐ろしい事にこの誕生パーティには、ベルナンド王子とその婚約者である私アシリニーヌの二人でダンスを踊るという演目がある。
別に私はダンスが嫌いではないし、そこそこ踊れる方だと自負している。ベルナンド王子もダンスはとても好きだ。熱狂的と言ってもいい。常日頃からダンスのことを考え、謎の独自の動きを編み出しているくらいだ。先生の言うことなど無視し、自分の道をまっすぐひたすら歩んでいる。
別にダンスが上手であればそれで良いのだけれど……彼はとても下手くそだ。それはもう、王国一下手と言っていい。ベルナンド王子と踊れば、その相手の足は真っ赤に腫れ上がり、踊ることに恐怖すら感じるようになるだろう。いや、なる。それほどまでに彼のダンスは……独創的なのだ。
「ブラボー!!」
「今日も素晴らしい動きでしたぞ!」
「最高だったわ!」
誕生パーティに呼ばれた貴族が、白々しい賛辞の言葉を投げかける。
これがいけないのだ。ベルナンド王子の周りにはイエスマンしかいない。だから彼は自身のダンスが上手だと、なんなら王国一の腕前だと勘違いしているのだ。実際は王国一最低な足さばきである。
その相手を何度も何度もやらなければならない私の身にもなって欲しい。始めて踊った頃など、一曲当たり数十回は狙い澄ましたように踏まれ、翌日には足が青あざだらけになっていたものだ。
今でこそ、何とか王子を誘導し、若干踏まれながらも踊りとしての体裁を保っているが、昔は踊りではなく、足下を見てひたすらよけ続ける、新感覚の何かを披露していた。
本当に大変だったわ……
「皆の言うとおり、俺の動きはよかったな。……だが、アシリニーヌ!お前、踊りをなめているな!」
へ?どの口がそれを言っているのよ?
「お前の踊りは型にはまりすぎていてつまらん!それに俺の自由な素晴らしいダンスを邪魔している。そんなお前とずっと一緒に踊ることはできん!……そうだ!婚約破棄だ!アシリニーヌ!お前との婚約を破棄する!」
ベルナンド王子からの唐突な婚約破棄宣言。周りの群集からどよめきの声が上がる。
あきれて声も出ない。まさかダンスの善し悪しで婚約破棄をするなんて。
それに、型にはまりすぎていてつまらないだぁ?じゃああなたはどうなのよ?相手の足を踏むことに固執しすぎなのではなくて!?
あんなに苦労して何とか踊り終えたって言うのに、こんなのあんまりだわ!
もういい!あぁ、もううんざりだ。こうなったら全部ぶちまけてやるんだから!
「……承知いたしました。ただ、一つ認識を訂正させていただいてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?言ってみろ」
「ベルナンド様の踊りは『自由で素晴らしい』ものではございません。……『わがままで周囲に不快な気分をもたらす』ものでございます」
私の発言で、さすがのベルナンド王子もバカにされていると気が付いたのだろう。顔が真っ赤に膨れ上がる。始めてベルナンド王子とダンスをした日の私の足みたいだ。
「はぁ!?何を言っているのだ!?……さては俺のダンスに嫉妬しているな!?全くこれだから才能の無い奴はこまるんだ」
「嫉妬などしておりません。ベルナンド様のダンス、いえ、あの滑稽な動きを見て、面白がる者はおれど嫉妬をする物好きなど、この広い王国全土を探しても一人として見つかることはないでしょう」
「そ、そこまで言うか。――そうか。お前は俺の相手をしているからわからんのだ。外から踊っている所を見れば、俺のダンスの素晴らしさがわかるに決まっている!」
「……そうかもしれませんね」
「よし、そこで大人しくしていろ!――おい、皆の中に俺と踊りたいと言う者はおらんか。特別に踊ってやるぞ!踊って欲しいと言う者は一歩前に出ろ!早い者勝ちだ!」
ベルナンド王子の発言で、周りで傍観していた貴族達がザザッと動く。
彼らは皆、今までいた位置から一歩後ずさりをした。
皆、どこか笑いをこらえたような顔をしながら、王子から必死に目をそらしている。
「な、なぜ下がるのだ!目をそらすな!」
「ベルナンド様。これが現実なのです。あなたの、その珍妙にして奇怪な動きは、誰一人としてついていけないのです。何とか私はしがみついておりましたが、それももう限界でした。婚約破棄いただきありがとうございました」
私は王子にしっかりと頭を下げる。感謝しなくては。婚約破棄してもらったことに。
「……ならん」
「え?」
「婚約破棄を取り消しさせてもらう!俺が少し悪かった。――また一緒に踊ろうでは無いか!?」
王子は顔を真っ赤にして、目線を私より少し上に合わせながらそう言った。
あのプライドの高いベルナンド王子が謝っているところなんて、生まれて初めて見た。
王子は私に向けてゆっくり右手を差し伸べる。
踊り出す前にやる、ベルナンド王子とのダンス開始合図。幾度となく繰り返されてきた目の前の光景。つらかった記憶、楽しくなかった記憶、ありとあらゆる記憶がよみがえる。
そんな光景を見て、私は、私は――
――あぁ、いけない。気分悪くなってきたわ。
「絶対に嫌です。謹んでお断りいたします」
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