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夕飯まで外で済ませて、約束通り俺のアパートに連れて行った。面白いものなど何も無いが。
優輝が俺のアパートにいる。やはり非現実的な光景だった。
「おお。片付いてるな」
「そりゃあ人が来るんだから片付けるよ」
元々物が少ないのでそもそもあまり散らからないのだが。
「特に、俺が来るから?」
上目遣いに俺を見る優輝に、不覚にもドキッとしてしまう。最近気が付いたが、俺はこういうあざとさ全開のしぐさに弱い。わかっていてやっている、自分の魅力に自信を持っているが故の行動に、惹きつけられる。
物珍し気に部屋を見回す優輝を横目に、飲み物を入れる。
「コーヒーと紅茶とオレンジジュース、どれがいい?」
「オレンジジュース」
あまりにアパートに行きたいと連呼されたので、そのあとどうするのか何も考えていなかった。うちはゲーム機も無いし、サブスクにも特に入っていない。まぁ、今入っても別にいいのだが。
というか、泊まるつもりだろうか。
「今日、泊まる?」
「えっいいの?」
「どっちでも。服とかある? コンビニに買いに行く?」
「歯ブラシとパンツだけ買ってくる。服貸して」
「はいよ」
早々にオレンジジュースを飲み干した優輝がコンビニに向かったので、なるべく綺麗な部屋着を選びながらを他に足りないものが無いか考える。
「......あ、布団ねぇじゃん」
まあ俺は床でいいか、一日くらい。大学の連中と宅飲みするときはいつも床に雑魚寝だし。若いうちしか出来ないと思えば悪くない。
と、思っていると玄関が開いた。最終候補で選ばれなかった方の部屋着をタンスにねじ込む。
順番にシャワーを浴び、何をするかと考えていると、優輝が勝手にベッドに寝そべっていた。
部屋着がはだけてお腹が覗いている。多分わざとだ。
こんなに隙のあるタイプじゃなかったもんな、と思いかけて俺の持っている情報は八年前のものだと気が付き苦笑する。
「稔の匂いがする......」
「何言ってんだお前」
俺もベッドの隣の床に腰を下ろした。
「友達のベッドって、なんかよくない?」
「友達居ないからわからん」
そもそも俺と優輝は友達なのか。
「え、今も友達居ないんだ。なんかキラキラ大学生っぽいのに」
何が可笑しいのか、優輝が声を上げて笑った。
「キラキラ大学生ってなんだよ」
「えー。オシャレだし、イケメンだし」
「......それはどうも」
「照れてる?」
「照れる要素ないだろ」
冗談みたいな会話を交わしていると本当に友達みたいだなと思った。歳を重ねると段々友達と呼べる存在は少なくなると言うか、濃い繋がりが減っていく。俺だけの話かもしれないが。
久しぶりに会って、毎日顔を合わせていた当時もさして仲良くなかったはずの優輝と今、濃い繋がりを持っているかのような錯覚を起こす。
今よりずっと生きるのが下手で不器用だった自分を知っているからだろうか。つい最近一緒に飲みに行った大学の同期よりも優輝の方がずっと強い繋がりを持っているような気がした。
優輝と居るとつい昔のような話し方になってしまう。周りに合わせて上手く立ち回ることが出来ない、昔のような。
自然体、とは言わないまでも普段人前で取り繕っているあれやこれやが剥がれ落ちていくような感じがする。
「でも、嬉しい」
「なにが?」
「稔が、変わってなくて」
それは、成長していないというということではないだろうか。そう思いながら優輝の方に目をやると、優輝は寂し気にほほ笑んだ。初めて見た表情に、心臓が高鳴る。
「稔と居ると、安心する」
なんと返すべきかわからなくて、それ以上に見てはいけないものを見たような気がして、俺は視線を逸らした。
「お前は、変わったじゃん」
返事がない。気分を害しただろうかと恐る恐る振り返ると、優輝はじっと俺を見ていた。
優輝の手が俺の指先に触れる。
「......ねぇ、しようよ」
窓の外にはいつもと同じ都会の喧騒があったはずなのに、まるで世界にその音しか存在しないみたいに優輝の感情の読めない声が静かに響きわたった。
なにを、とは言われなくてもさすがにわかる。ただ、そこにある意図は読めなかった。
優輝に目を向けるも、既に顔は腕で覆われている。
同窓会のあとからなんとなくどこかで予想していた展開ではあった。それでも素面で言ってくるのは予想外だ。
「......なんだよ、急に」
「いーじゃん」
理由を聞いたのであって、いいとか悪いとかの話はしていない。
でも、いいか、と思った。理由なんてなんでも。
「俺たち、もう大人なんだよ?」
そう。俺たちはもうお互いにいい大人だし、今は素面だ。
「したいの?」
「したい」
それだけで十分だ。
「じゃ、いいよ」
優輝に覆いかぶさった。シングルベッドが音を立てて軋んだ。
ノスタルジックな世界が、急速に現実味を帯びた。




