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色々なところを見てまわって、最終的に気が付いたら俺たちが初めて出会った六年三組の教室に来ていた。
「懐かしいね~」
優輝が椅子を引いて座る。今は知らない子供の席だろうが、そこは優輝が以前座っていた場所だった。
偶然なのか、わざとなのか。まさか八年も前に座っていた場所など覚えていないだろうから偶然だろう。
俺はいつも見ていたから、覚えているけれど。それがあの日から前に進めていない証拠かのように思えて悲しかった。
多分言わないほうが良くて、言わないほうが楽な言葉が口の中で転がっている。懐かしい風景に当てられた俺は、まるで映画の主人公にでもなった気分で、その言葉を吐き出した。
「......俺さ、お前のこと別に好きじゃないわ」
俺の言葉に優輝が目を見張った。当然だ。
「ずっと、お前にあの頃の面影を求めてる。多分好きなのはお前じゃなくて、あの頃の思い出だ」
黙ったままの優輝に一方的に話し続けた。
「お前と居たら、あの頃に戻れるような気がしたんだ。ちゃんと自分で選んでたあの頃に。でも、そんなわけなかった。お前も成長してるんだから」
優輝と一緒に居ても、時間が戻るわけでも、あの頃の自分になれるわけでもない。当たり前のこと。
こんなこと言うなんて、俺は最低だ。
「でもお前も、俺のこと別に好きじゃないだろ」
再び優輝の目が見開かれた。
「気づいて......」
「気づくよ、そりゃあ」
俺は恋をしている優輝を知らない。俺は......今の優輝を知らない。
でも、わかった。もうこれは、勘としか言いようがなかったけれど。
「俺は、気づかなかったよ」
「ごめん」
「いや、お互い様だけど」
優輝は窓の外に目をやった。ここからは体育館が見える。しばらくの間、二人とも何も言わなかった。
「久しぶりにお前に会ったら、かっこよくなっててさ。しかもめちゃくちゃいい大学行ってるし。......お前みたいな奴にまた好きになってもらえたら、俺にも価値があるって思える気がしたんだ」
沈黙を破った優輝の声は小さいのにしっかりと響いた。いつだって優輝の声は他の音を全て押しのけて俺の耳へ届く。今でも。
それは何故なのか。
「価値って......。お前、そんなことしなくてもすごい奴じゃん。モテるだろ」
「それは、あの頃の俺だろ」
いきなり振り返った優輝の瞳が一瞬だけ揺れた。
「俺、脚壊して......それから何やっても上手くいかないんだ」
優輝はまた窓の方に顔を向け、表情が見えなくなった。
「バスケしか打ち込めるものがなかったし、得意なものもなかった。できなくなったら、なんにもなくなっちまった。やりたいこととか、なりたいものとか、わかんなくなって」
声が一瞬だけ泣きそうなものになったが、無理に飲み込んだようだった。
俺の前でなんて、泣けないのだろう。
「何してても満たされないし、上手くいかなくなって。もう......」
静寂が教室を満たす。外から聞こえる無邪気な子どもの声が遠い世界のように思えた。
いや、実際の所、遠いだろう。




