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手に入らないものほど、美しく見える。
思い出は、美化される。
なら、戻りたくても絶対に戻れない過去なんて、最も美しく見えるのではないだろうか。
「如月」
聞き間違いかと思った。彼が俺を呼ぶ理由などないから。
しかし今日初めてこちらに向いた視線が、聞き間違いなどではないと伝えてくれている。
「優輝......くん」
目が合ったのを合図に、人波をかき分けるようにして俺の方へ来る。
「二次会行かないの~?」
「あ、うん。辞めておこうかなって」
優輝が行かないから、とはさすがに言えなかった。
「用事とかあんの?」
八年の月日がそうさせるのか、あるいは単純に酔っているからか、喋り方が記憶の中のものと違っている。
成人式後の飲み会、同窓会という名の飲み会にはたくさんの同窓生が集まっていたが、俺があの頃仲の良かった人はほとんど居なかった。みんなこういうのにくるタイプじゃない。みんなというほどの人数が居ないが。
そしてそんな彼らと仲の良かった俺もまた、そういうタイプではない。それなのに今日わざわざ来た理由は、説明するまでもないだろう。
「そういうわけじゃないけど......」
「じゃ、俺と飲みに行かない? 差しで」
「え」
意外すぎる申し出だった。どう考えても、俺たちは差しで飲みに行く関係ではない。酔っているせいか、久しぶりに同窓生に会ってテンションが上がっているせいか。それなら大人しく二次会に行けばいいものを。
しかも何故俺なのか。当時優輝と仲の良かった奴も今日来ているというのに。俺と話したって楽しくないだろう。
「なんだよ。嫌なのかよ? お前昔俺のこと好きだったじゃん」
いつの話だよ、とツッコミたくなったのを堪える。わざわざコイツ目当てで来た俺に言えたことではない。しかし向こうから言われると癪に障った。当時は俺が自分を好きだと知っても大して気に留めていなかったので、余計に。
というかいくらアルコールを交えてとは言え、八年ぶりに会った優輝と話すことなど有るだろうか。当時でさえ、交わらない存在だったのに。
それでも魅力的な提案ではあった。たとえ行ってつまらなくても、良い思い出になるだろう。同窓会で再開した初恋の人と差しで飲んだなんて。
「……いいよ。行こう」
俺の言葉に顔を綻ばせた優輝が、俺の腕を引いた。こんなにスキンシップの多いタイプだっただろうか。酔うとこうなるんだろうか。不覚にもドキッとしてしまう。
優輝はそれに気づいているのかどうなのか、俺を見てニヤリと笑った。




