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傲慢

作者: 一威
掲載日:2026/02/26




「傲慢だこと」


 女が笑う。

 色の塗りたくられた長い爪先で、金を弾いて。


「ひとの心がわからない人間に、ひとの心を震わせられるというの?」


 男の背後には積まれた金貨と帯がある。

 面した女の着流しはほつれてくすみ、見窄らしいものだ。

 だが、顎先を持ち上げ男を流し見る視線は、どこまでも艶やか。

 血を塗り固めたような唇が弧を描く。


「坊や」


 するりと伸びた指は、外を示す。

 隙間風に木戸が鳴る。


「もう、おかえりなさいな」


 裾が肌蹴るのも構わず立ち上がり、女が背にしていた襖を開く。

 途端に腐った花に似た匂いが立ち込め、男は小さく声をあげた。


 伏した貧しい男に寄り添い、女は微笑む。

 女を抱くことも叶わぬ手をそうっと取り、愛おしげに摩る。

 虚ろな瞳と目を合わせ、痩けた頬を撫でる女。

 それに男は拳を握り、自らを顧みる。


 幾重もの刺繍が施された袂。

 丁寧に結い上げられた髪。

 この荒屋(あばらや)の前に着けた牛車も、几帳を垂らした漆塗り。

 だからこそ救える。


 振り返らぬ背へ男が叫ぶ。


 死ぬ男に縋って何になる。


 女が(わら)った。


「──それが、ひとの心というものよ」


 ようやく向いた瞳の冷たさに、男は言葉を失った。

 粗末な蝋燭に揺れる(かお)には、息を呑むほどの決意が宿り。


 理解、出来なかった。

 




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