傲慢
「傲慢だこと」
女が笑う。
色の塗りたくられた長い爪先で、金を弾いて。
「ひとの心がわからない人間に、ひとの心を震わせられるというの?」
男の背後には積まれた金貨と帯がある。
面した女の着流しはほつれてくすみ、見窄らしいものだ。
だが、顎先を持ち上げ男を流し見る視線は、どこまでも艶やか。
血を塗り固めたような唇が弧を描く。
「坊や」
するりと伸びた指は、外を示す。
隙間風に木戸が鳴る。
「もう、おかえりなさいな」
裾が肌蹴るのも構わず立ち上がり、女が背にしていた襖を開く。
途端に腐った花に似た匂いが立ち込め、男は小さく声をあげた。
伏した貧しい男に寄り添い、女は微笑む。
女を抱くことも叶わぬ手をそうっと取り、愛おしげに摩る。
虚ろな瞳と目を合わせ、痩けた頬を撫でる女。
それに男は拳を握り、自らを顧みる。
幾重もの刺繍が施された袂。
丁寧に結い上げられた髪。
この荒屋の前に着けた牛車も、几帳を垂らした漆塗り。
だからこそ救える。
振り返らぬ背へ男が叫ぶ。
死ぬ男に縋って何になる。
女が嗤った。
「──それが、ひとの心というものよ」
ようやく向いた瞳の冷たさに、男は言葉を失った。
粗末な蝋燭に揺れる貌には、息を呑むほどの決意が宿り。
理解、出来なかった。




