本場のドラゴンライダー
戦士団からも、【紫】の世界樹からも逃れて空を飛ぶ。
全てを振り切る猛スピードで西へ。
いつの間にか、日は暮れていた。幻想的な星屑が空に浮かんでいる。
「シデ―!あたしお腹すいたー!」
世界樹の背中ででんぐり返っているコレネが不平を漏らす。
一方の俺はろくに返答ができないほど世界樹の操縦に集中していた。
今よそ見をすることは許されない……
なぜなら、目の前にドラゴンの大群がいるから……!
「ドラゴンに情けをかけないでください。コレネ、今晩のご飯のおかずが前にいますよ」
「やったー!ドラゴン鍋だぜー!」
「揺らさないで!本当に轢いちまうって!てか地上に降りないと料理できな……」
そこで世界樹に根でつつかれた。嫌な予感がして、横を見やる。
そこには調理器具一式が。
「わー便利、じゃないよ!いいから遠回りするぞ!晩ご飯はドラゴン以外のもので!」
そこで、でんぐり返りに飽きて俺の肩によじ登るコレネがふと、
「お?なんかあそこのドラゴンたちおかしいぞ?仲間割れか?」
「本当ですね。一匹がいじめられています」
二人の指摘を受けて、俺は慎重に大群へと近づいてみる。確かに、赤いドラゴンが一匹だけで、黒いドラゴンたちに囲まれていた。
「黒の方は呪いの炎を吹く『イカスミ』ですね。赤の方は……あら、騎馬種の『オテダマ』です」
「ドラゴンってみんな微妙な名前してるよな……
と、騎馬種?」
大量のイカスミたちに遮られて見えなかったが—―孤立しているオテダマの背には、人がいた。
「えっ、ドラゴンライダー!?」
暗くて姿ははっきりと伺えないが、確かにドラゴンには人が乗っていた。
ドラゴンライダーは、四方八方から放たれる呪いの炎を華麗に躱していく。
軽やかに、踊るように、息をするくらいの自然さで。
俺は、いつの間にかその技に見入っていた。
あれが本物のドラゴンライダー。
「しかし、まずいですね……」
「何が?」
サーラは深刻そうに眉間にしわを寄せる。そして、無知な俺に諭すように語り掛けて来た。
「例えるなら、『イカスミ』がサラブレッドだとしたら『オテダマ』はポニーです。
お分かりですね?」
全然分かんない。
「サラブレッドを前にしたポニーは……
主人を置いてすぐに逃げます」
振り返ると、ちょうどオテダマが自身の主人を放り出して我先にと包囲を抜け出しているところだった。
ドラゴンライダー、見捨てられてるー。
「わあああっ!」
奇声と共に世界樹を急発進させる。
ここは雲の上。有翼種でもないかぎり—―自由落下でぺしゃんこだ!
「世界樹、ドラゴン巻き込んでもいいから!
あの人のところに、早く!!!!」
俺の叫びに呼応するように、世界樹から膨大な根が湧き出す。
根は一瞬で大群に肉薄し—―イカスミたちに絡みついた。
「弓矢飛行」
弦代わりになる根に引っ張られ、しなる世界樹。
そして—―矢のように真っ直ぐ打ち出された。
「飛ばせええええ!!!!」
ど真ん中を突っ切る。幾十もの眼がこちらを向く。肌を爛れさせる呪いの炎が降り注ぐ。
「シデ!下へ!!」
サーラの助言。思いっきり手綱を引く。急な方向転換に、体が宙へ飛んでいきそうになる。悲鳴が混じる。それでも手を伸ばす。
ドラゴンライダーを助けるため。
「ッ!」
視界がブレてドラゴンライダーの姿を捉えられない。
死に物狂いで風を切り、かき分けて—―やっと腕を手繰り寄せた。
安堵するのも束の間。
頭上から迫ってくるのは炎の雨。
賭けに出る。
今度ばかりは、世界樹に任せるしかない。不本意だけれど、世界樹に背中を預ける。この場にいる全員の命も。救ってみせる。そう信じている。
だって、世界樹だから。
「サーラ、コレネ!伏せてろ!」
ドラゴンライダーを強く掴みながら、俺も腰を屈める。
降り注ぐ火の粉の間を、抜ける!!!
「ハイレートクライムっ!」
急上昇。
パアンッ、と乾いた音がした。
ドラゴンたちを貫いた音だ。世界樹は、成し遂げてくれた。
炎の弾幕を全て避けてドラゴンに反撃するという無理難題を。
胸を撫でおろす。思わず笑みが零れる。
そうして、俺はドラゴンライダーを救い……
って、腕を掴んだ状態からどうすんだこれ?
俺に人ひとりを引き上げる力はない。
そういう時はバカの火事場力で!
「うおおおお!」
遠心力を利用して世界樹の背中へと放り投げる。
後はサーラがキャッチしてくれるはず!
と思ったが奇跡が起こった。
「あ」
「「あ」」
世界樹が用意してくれた調理器具一式のなかの—―大鍋にすっぽり収まった。
沈黙。
「……今日の晩ご飯」
「食べちゃダメ!」
不手際で腰から上が鍋にはまってしまったドラゴンライダーは、しばらくして目を覚ました。
「……ン?ここは?何も見えない」
申し訳なさでいっぱいの俺は焦って、
「ごめんなさい、ドラゴンの群れから助けたら大鍋に……」
「ン!?これ鍋の中!?ドラゴンの腹の中だったら許せるけど鍋は無理!取って!!」
慌ててドラゴンライダーの体を引っ張ってみる。
不思議と、抜けない。
「可哀想だなー。それ魔法じゃないと抜けないぞー」
「魔法!?そんなレベル!?」
「ンン、誰か魔法を使える人はいないのかい!?早く抜いてくれよ!」
取り乱す俺ともんどり打つ大鍋を前にしたシスター二人は、顔を見合わせた。
「つってもあたしは使えないぞ」
「魔法は人間とエルフしか使えないんですってば!魔法、持ってないんですか、シデ?」
う、と呻き声を上げる。
「ほら、ドラゴンライダーに魔法なんて必要ないかなって……」
「あー、要するに特訓から逃げたんですね」
そこで、鍋から足を生やしたような奇妙な姿のドラゴンライダーはため息を吐いて、
「じゃあ僕を師匠のところに連れて行ってくれ。師匠なら抜ける」
「師匠って……あんたの?」
「君もドラゴンライダーのようだから、運ぶくらい訳ないだろ?」
本当はあなたが乗っているのは世界樹で、俺は世界樹ライダーです、とは言えなかった。




