表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/12

世界樹ライダーの覚悟

【紫】の世界樹。

アオザイを纏う妖艶な美女は、値踏みするような視線を向けて来た。

「国の有象無象どもに奪われなかったことは誉めてやろう。礼を言うぞ。

—―ここまで世界樹を連れてきてくれたからの」

美女はハイヒールを高らかに踏み鳴らした。瞬間、硬直が解ける。

「妾への献上品じゃな」

世界樹に歩み寄っていく女。奪われる。女の細い指先が、世界樹に触れる。

「【翠】、妾たちとともに世界を滅ぼそう」

取り返さないと、と思った。

けれど、【紫】の世界樹に射竦められて、動けなかった。

そんなの言い訳だ。俺はただ

—―ドラゴンに乗れたら十分だった。



覚えている。

物心がついてすぐに両親が病で死に、墓の前で来る日も来る日もうずくまっていた頃のこと。

通りすがりの誰かが言った。

『空を飛べたらいいよな、少年。何にも縛られず、自由に』

顔は思い出せない。しかし確かに、人間ではないような、不思議な雰囲気を持っていた。

その時、空を見上げた。

青空を優雅に駆けるドラゴンがいた。

近所のドラゴンライダーのお姉さんに憧れたのも、同じ頃だったと思う。



—―ふと、よみがえってきた言葉があった。

『決して世界樹を手放すな』

司祭が言った言葉だ。それは、強く、強く、俺の背中を押した。

「おい、世界樹」

美女の姿をした世界樹が振り返る。不気味な無表情で。

物怖じはしない。

世界樹だろうが、文句を言うときは対等だから。


「俺はまだ、その世界樹と空を飛びたい。

俺は、自由でいたいんだ。戦士団だとか、他の世界樹だとか、そんなの関係ない」


対する【紫】の世界樹は、一言。

「……死を望むんじゃな」

絶対零度の声音だった。

空気が一気に淀む。凄まじい重圧がのしかかる。息をのみ込もうとして、上手くのみ込めなかった。

美女はハイヒールで地面を踏みつけ—―紫の髪、いや()を大きく広げた。

「『毒華』」

髪の間から放たれたのは、無数の花弁のつぶて。

それらが最初に向く先は—―

「逃げて、コレネぇっ!!」

「あ」

命の終わり。

結末は明らか。花弁が少女の胸に突き刺さろうとする。

—―寸前で、俺は踏み切った。

「あああああアアッ!!!」

一瞬で距離を詰め、スライディングをし—―

コレネと毒華の間に割り込んだ。


背中に燃えるような衝撃。


世界が、真っ白になった。

「シデ!!!!」

熱い。痛い。裂けそう。何かが体の中でのたうち回っている。涙が噴き出してくる。あつい。

「なんで、あたしを庇った……?関係、ないんだろ……」

呆然と呟くコレネに、かろうじて、笑いかけた。


「誰かを見捨てちまったら、自由にはなれない」


視界の色が褪せていく。血がとめどなく流れていく。

けれど、今までの人生でもなかったくらい、俺の心は穏やかだった。



「シデ……」

死神は、最期に近づいていく少年を哀しげに見つめていた。無意識のうちに、自身の修道服をぎゅっと握りしめながら。

「あっけないのぅ。世界樹を手なずけたといってもこんなものか」

そして、嘆息した【紫】の世界樹がとどめを刺そうとした時――


『紫、やめろ』


【翠】の世界樹が動き出した。

世界樹から瞬く間に蔓が伸ばされ、シデの体に絡みつく。治癒光が満ちる。

傷がみるみるうちに塞がっていく。

ゆっくりと、閉じられていたシデの瞼が上がっていく。

「翠……何故その坊やに執着する?誰とも馴れ合わず、独りで旅をしていたお前が、何故」

『それはこの少年に聞け』

死の淵から帰ったばかりの少年は、しっかりとした足取りで立ち上がった。

「【紫】……あんたは空を飛んだことがないようだから分からないんだ」

口についた血を拭うシデに、【紫】の世界樹は後退る。


「空から見下ろすとな、自分かいかにちっぽけなのか分かる」


シデは、相棒である世界樹の根を掴んだ。

同時に、世界樹は応えるように旋回し—―暴風を巻き起こす。

「……くっ!」

【紫】は吹き飛ばされそうになりながら呻く。立つこともままならないほどの激しい風が吹き荒れる。

「サーラ、コレネ!」

シデは手を差し伸べる。二人のシスターも世界樹に無事飛び乗る。

準備は整った。

「世界樹、お願い、最高速度で!」

頭上の天蓋を見据える。暴風が渦を巻き、竜巻になる。しがみつく腕に力がこもる。

「脱出!!」

空へ向かって発進する。

押し寄せる風を振り切り、振り切り、遂に

—―天蓋をぶち破って外に出た。

広大な青空。分厚い暗雲は、どこかに消えていた。

輝かんばかりの晴天だ。

教会を後にする間際、司祭の声が聞こえた。

「西に行け。お主の切望する、ドラゴンライダーの町がある」

ありがたい神託だ。

目指すは西。

世界樹と共に、この世界を駆けていく。

序章完です。

読んでいただきありがとうございます。

これからは世界樹に乗って戦うことが増えてくると思います。引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ