世界樹教と死神シスター
「こちらが世界樹教の修道院です」
サーラという名の死神は、修道院の扉をノックした。
―—そして、バゴッといとも簡単に扉が吹っ飛んでいった。
「あら、力加減を間違えてしまいました……どうぞ中へ」
死神は穏やかな微笑を向けてくる。俺は世界樹の上で震えあがった。
「帰って参りました、司祭。世界樹様を連れて」
ステンドグラスに囲まれたホールの中央で、サーラは呼びかける。
すると、窓からひときわ大きい陽光が差し―—その光の中から男が現れた。何もない場所から、突如。
「おう、見ておったぞ。世界樹なんて何百年ぶりか。」
それは、筋肉質で浅黒い青年だった。
「世界樹様、と選ばれし小僧、ようこそお越しくださって。この修道院の司祭、ギルフェンが歓迎する」
青年は手を大きく広げ、金髪を輝かせながらそう言った。
司祭というか、大海でドラゴンサーフィンしている若者みたいだ。
「いまいち反応が薄いな。お主何歳だ」
「14」
「もっと興奮するとかないのか……目の前に絶滅危惧種がいるというのに」
「絶滅危惧種?え、ドラゴンサーファーってそんなレア職種だったっけ」
「頭が弱いなー小僧。ワシはあれだ、晴れ男だ」
晴れ、男?
「あなた死神のことは知っていたのに晴れ男は知らないんですか。
人間やエルフたちマジョリティに反するマイノリティ……
晴れ男は、未来を予見する希少種族ですよ?」
世界樹から転げ落ちそうになった。
「は、晴れにするだけじゃないの!?」
「陽が差すところに我在り。
雨の日はただの人に成り下がるけどな」
それから、晴れ男は跳躍して世界樹の上に乗り、俺に顔を近づけて来た。
「お主の未来を見てやる」
閃光が、ギルフェンの瞳から放たれた。吸い込まれそうな、眩い光。
「おう、面白いな小僧。ワシが予見できるのは未来の晴れの日だけだが……
お主、いつかドラゴンに乗れるかもしれん」
「ま、マジ!?」
「だが、お主はそれまで多くの困難に巻き込まれることになる。
決して世界樹を手放すな。何があろうとも、時が来るまで。
ワシから言えるのは、そのくらいだ」
最後に、ギルフェンは俺の瞼を優しく手で覆った。それは祈りを込める挨拶だ。
「とりあえず、ゆっくりしていけ」
晴れ男の司祭は快活に笑った。
サーラに導かれ、天蓋が空を覆う広大な厩に着いた。
「まずあなたには装備が足りません」
世界樹を馬房に押し込めながら、サーラは俺に指を向けた。
……世界樹を馬と同じ扱いにしていいのか?
「世界樹様に乗るなら!もっと!適切な器具を!」
「あの……世界樹をモップでこするのはやめてあげて」
「まず必要なのは、手綱、鞍、蹄鉄!です!」
「いやだから馬じゃな……」
「ドラゴンライダーでもやっていることです!」
「ほんと!?」
サーラは世界樹を一頻り磨いた後、モップを放り出して倉庫へと向かっていく。俺も意気揚々として後に続いた。
「これが手綱です。鋼硬玉で編まれているので、千切れませんよ。
……いつもは物干し竿のロープとして使っていますけど」
まずサーラが箱から引っ張り出したのは、虹色の縄だった。太く頑丈で、魔道具だと示す文様が刻まれている。
「で、これが鞍。強力な霊牛の革が使われています。乗り心地は抜群。蹄鉄はエルフたちが魔法で創りあげた物で……」
説明を聞いているうちに、だんだん胸が高鳴ってきた。
超高級の魔道具が名を連ねている。故郷の村で近所のお姉さんが使っていたような、プロのドラゴンライダーの装備品だ。
「—―が、これらは今のあなたの魔力量には見合わないので」
「え」
ひょいっと、超一流の器具たちが取り上げられた。
「最初はこれですね」
代わりに渡されたのは、安っぽい木や革でできた装備だった。
あれ、天国から地獄に落とされた気分……
「タダで貰えるものなんてありませんよ?」
文句を言える立場ではないので、俺は目を泳がせるだけだった。
そう、本当に一流のドラゴンライダーは装備にこだわらない……
サーラの頼みにで、俺は世界樹で厩の中を飛んでみせることになった。
「へー、世界樹様ってこんな風に飛ぶんですね」
俺は支給品の手綱を握って、世界樹を右へ左へと操縦する。要領はつかめてきた。広い厩の中を飛び回るなんておちゃのこさいさい。ただ、唯一の問題は、
「お前ブレーキ下手か!止まるって言ったら止まれよー!」
速度の制御ができないことだ。
「もっと世界樹様に心を預けて!操ろうと思わない!」
サーラの助言は、どれもまだできそうにない。なら、
「確かドラゴンライダーはこうする!」
鞍越しに世界樹の体を蹴った。思った通りに、ゆるやかに減速。
「ご、ご神木蹴りますか普通……?」
俺は世界樹と一緒に縦横無尽に駆け回る。
楽しい。風景があっという間に通り過ぎていく。天井が近い。
まるで、ドラゴンに乗っているような――
「そういえばなんで世界樹に乗る用の装備があんの?
他に、世界樹ライダーがいるってこと?」
梁をぎりぎりのところで躱しながら、ふと尋ねてみた。
「……はい、大昔は。
私たちは、世界樹様を乗りこなす者が現れるのを――ずっと、待っていました」
サーラは、後光のような角が上を向くように、頭を恭しく垂れた。
「世界を正す世界樹。統治する世界樹。人々に親しまれる世界樹。……滅ぼす、世界樹。
――そのどれでもない世界樹様を」
俺は、ゆっくりと、世界樹と共に修道女の前に着地する。
「とりあえず、ドラゴンに乗るまでな」
読んでいただきありがとうございます。
ドラゴン乗るんだったらこうするぜ!という夢を詰めた第三話になります。
またゲテモノ種族枠、晴れ男が出てきました。彼らと圧倒的に仲が悪いのは雨女です。酒場では晴れ男と雨女の乱闘が日常茶飯事です。




