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ドラゴンふんじゃった

俺ことシデは、ドラゴンに乗るという行いに夢を見過ぎている少年である。

相棒のドラゴンと運命の出会いを果たして、優雅に空を飛びたい。

そんなノリで今日まで生きて来た。

だが、現実は違った。

それは必死の形相で振り落とされないようしがみつくという泥臭いものだった。

―—そして、相棒は世界樹だった。


「速すぎッ!!!ちょ、タンマタンマ!」


ごつごつした木肌が体中のツボに突き刺さって悲鳴を上げる。

俺は、巨大な円盤の形をした世界樹に乗っていた。

世界樹って飛べるんだっけという初歩的な疑問は、超音速に置いていかれた。

さっきまでいたはずの迷宮はもう豆粒大だ。支えにしていた世界樹を失ったせいかいくらか縮んでいるような気がする。

「……」

迷宮、か。

モンスターの死骸を処理する中で、色々あったけれど、あそこは俺の第二の故郷だった。

脳裏に思い出がフラッシュバックしてくる。

足を滑らせて血の海にダイブしたり、迷い込んだ猫を助けようとして根っこの間に挟まったり、その状態で二晩を明かしたり。

……意外と、感慨にふけるようなろくな思い出がなかった。

「いいや!世界樹、もっと飛ばしちまって!」

風を切る。

広がっている大空だけを見据えて、世界樹と宙をランデブーする。

村で暮らしていた時も、迷宮で下働きに徹していた時も、こんなに世界が広いとは知らなかった。

はるか遠くの地上は、古今東西様々な景色で彩られている。

感動を噛みしめながら、世界樹で宙返りを繰り返す。

ちなみに、俺は乗り物酔いしやすい体質だ。



しばらくして。

「うぇぇ、酔うー」

急激な乱高下に呻きながら、世界樹の縁に寄りかかる。

そして目をぐるぐる回す。情けないことにへばっていると―—世界樹が枝でつついてきた。

振り返ると、そこには果実のような形の大きな袋があった。

「そ、それまさか……東国のえちけっと袋!?いやいい、遠慮しとく!」

と、若干引きつった顔で丁重に断ると、更に脇腹をつつかれた。かなり激しく。

「いらないって!やだ俺世界樹にも下に見られんの!?あんた世界一の神木でしょもっと懐の深さをさぁ!」

そう訴えかけることで、やっと世界樹の動きが止まった。それから、世界樹の肌に何やら文字が浮かび上がる。

『今から降下する』

へ、という俺の呟きを巻き込んで、世界樹の体が傾いた。根が全方位に展開される。徐々に減速していく。

「あれっ、角度がおかしい……ほぼ直角なんてことは……」

『その袋は体を固定するためのものだ」

「そういう用途!?それ先に言ってよぉおおおお!?」




時を同じくして、ある里では。

「世界樹様、今日も私たちをお守りください……」

空を仰いで祈りを捧げる、修道女がいた。

祭壇の上に跪くのは、頭から後光のような輪っか状の角を生やした少女。

仏のような見た目だが、その実彼女の種族は()()

「ふふ、毎日お祈りするのも楽じゃありませんね……と、あら?」

そこで、修道女は気付いた。周りの草むらからドラゴンの唸り声が聞こえてくることに。

「あらら、困りましたね。生憎と私、この修道服に身を包んでいる間は、何人の命も刈り取らないと決めていまして」

透き通るような白髪をした修道女は、その真っ赤な瞳を閉じた。

ドラゴンが姿を現す。六対の翼を胴から生やすドラゴン、『ムシマガイ』。不気味な怪物が、石のように動かない修道女へと襲いかかる。


―—その、瞬間だった。


「わああああ!世界樹、もっとバックバック!!!ドラゴンひいちまう!!」


上空から世界樹に乗った少年が舞い降りてきたのは。

そして、胴体着陸する世界樹にムシマガイが下敷きになり―—爆散した。

まるで、子供に踏まれるアリのよう。

修道女は、一瞬でトマトになったドラゴンの返り血を浴びながら、合掌した。

「世界樹様のお導きですね」




俺は、人生最大の絶望を味わった。

「ドラゴンを……ひいた……」

膝から崩れ落ち、地面と睨めっこをする。

殺めてしまった。ドラゴンを。世界樹で。誰のせい?俺のせい。

こうなったらもう罪を償って成仏するしかない。信仰神はいないけど神様に裁かれたい。

延々と涙を流す俺は、傍の修道女の声も聞き流していた。

「驚きました!!!これ、ご神木ですよね!?」

瞳を輝かせる、見目麗しい修道女。けれど反応する気力もない。

「これが世界樹、様……?国に七本しかないという、あの……?

触っていいですか!?それか乗っても!?」

「どっちも、ダメ……」

やっとのことで、かすれた声を絞り出せた。この世界樹捨てちまおうかな、とも思ったけれど……そんな気にはなれなかった。

「けちですね、ちょっとくらいくださいよ」

「そういうものじゃないから……って、あんた、死神!?」

修道女を見つめたところでようやく気付いた。思わず後ずさる。

彼女は長い白髪をかき上げて、

「はいそうです。世界樹教のシスター、死神のサーラちゃんです。

世界樹様をくださらないと地獄送りにしちゃいますよー……ま、冗談ですけど」

イタズラな微笑を浮かべるサーラに、俺は勢いよく―—土下座をした。

「じゃあお願いします!地獄に送ってください!」

「勿論ですー、……は?」

仏の後光のような角を生やすサーラは、ボカンとした。

「俺はドラゴンをひいたんだ!!!もう生きていけない!」

「ちょ、ひゃ、縋りつかないでくださいー!なんなのあなた!?」

修道女のおみ足にしがみつくダメ人間に、サーラは取り乱す。

仏の顔も三度まで。

「もうっ、私が甲斐性を持っているのは世界樹様に対してだけです!

ですので、世界樹様のお世話をさせてもらってもいいですか!」

「ん?世話?」

「世界樹用の厩に案内しますよ」

「そんなんあるの!?」

そうして、俺は世界樹教の里へと足を踏み入れた。




一方、そんなシデの様子を水晶越しに覗き見るものがいた。

「君の言う通り、世界樹が少年に奪われたようですね……きな臭い宗教に捕まってもいますし……

さて、どうします、カタナ?」

少年が世界樹を抜いた場に居合わせた武人は、鋭い眼光を灯した。

「決まっている。大罪人は乱切り」

そして、水晶を操るエルフは付け加えた。

「他の世界樹に横取りされないうちに」


読んでいただきありがとうございます。

死神はこの世界でも最上位種です。数こそ少ないですが、単身で国家を滅ぼすほどの戦力を持っています。

最も彼らは「生」に対するプライドを持っているため、無意味な殺生はしません。やらかしてしまったら蘇生を司る付喪神がなんとかしてくれます。


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