世界樹と世界樹のケンカ
世界樹同士の衝突。
ある地方のある森で、それは密かに行われた。
「『毒華』」
先攻は【紫】の世界樹だった。
【紫】がハイヒールを踏み鳴らすとともに、髪が放射状に広がる。毒を孕んだ花弁が舞い落ちる。
「ほれ動かんのか!?骨の髄まで溶かし尽くす猛毒じゃぞ!?」
しかし、【蒼】の世界樹は微動だにしなかった。
花弁のつぶてが次々と刺さる。針山のような自分の状態にも興味が薄そうに、
「我は根も葉も凍り付いているから、毒は利かない。
何千年も雪解け水を吸ってきたからな」
「くっそ、天敵じゃのう……
だが、全く利かん訳ではあるまい?」
大きな紫の袋果が天高く伸びあがっていく。
「『蠱惑』」
袋果がガバッと大きく裂け、中から禍々しい色の液体が溢れ出て来た。
劇物のシャワーが降り注ぐ。
「くふ、悲鳴も出せぬほどの痛みじゃろう!
そのまま皮膚から吸収して死に至るがよい!」
【蒼】の世界樹も今回ばかりは顔を苦悶に歪める。耐え忍ぶように歯を食いしばる。
なぜならば。
「はぁ……こんなことなら萌えTなんて着てくるんじゃなかった……」
袴の下に秘められし萌えTがびしょ濡れになっていたからだ。
【紫】は呆気に取られ過ぎて思考停止する。毒のシャワーも止まる。
「プリティ世界樹女子ロリッコくろりでぃうむ(以下略)限定Tシャツ……
帰ったらちゃんと洗濯してやる」
そして、蒼の三つ編みの凛とした青年は、言い放った。
「我は確かに民衆を省みない。圧政を続けているのだって、それが愉しいからだ。
何故か?
反抗する人類どもより推せるものはない」
【蒼】の世界樹は、懐から色とりどりのペンライトを取り出す。
それから、頭にハチマキと共に巻き付ける。
「我は全身全霊で推し活をしたいタチなのだ」
【紫】も、外野で見守るカタナも、そろって奇異の視線を向ける。
ドン引く。
「お前……破綻しとるな」
「貴様には言われたくない」
【蒼】と【紫】の世界樹は邪悪な笑みを交わし合った。
【蒼】の詠唱が再び火蓋を切った。
「『千年凍歌』」
【蒼】の世界樹が放つ花粉が辺りを埋め尽くす。
雪の結晶のような形の花粉は——一気に爆ぜた。
「チッ!」
【紫】は舌を弾く。
アオザイに覆われていない肌が霜焼けのように爛れていく。体中を冷気が侵す。
吐く息は不気味なほど真っ白。
それでも、【紫】の世界樹は好戦的に笑いながら反撃する。
「『蛇神』」
巨大な蛇が宙を引き裂いて現れる。
紫の根でできた蛇だ。獰猛で、鋭い牙を持つ、ウワバミ。
「妾のとっておきじゃ阿呆!」
蛇はあっという間に【蒼】の世界樹との距離を詰め—―
丸呑みした。
硬直するカタナ。
【紫】の世界樹は勝ち誇るようにハイヒールを鳴らす。
—―だが。
相手も世界樹。
「氷枝」
世界樹を吞み込んだはずの蛇が、体をうねらせた。
「氷枝」「氷枝」「氷枝」「氷枝」「氷枝」…………………
「なっ……」
凍結。凍結。凍結。
蛇は壊れた人形のように曲がりくねる。
そして、内からひび割れ—―崩壊した。
木片が舞う。【紫】の世界樹が目を限界まで見開く。
「嘘じゃ、嘘じゃ……妾のウワバミが……
っ、それなら、お前が倒れるまで召喚してやる!」
【紫】は、駄々をこねる子供のように手を振りかざす。
「『蛇神』—―」
【紫】の世界樹は、気が付かなかった。
衝動に駆られ、視界が狭まっている彼女は、気付けなかった。
彼女の後ろに迫っている存在に。
「我の『氷枝』がただ無作為に連発されたものだと思っているのか?」
カタナの脚は、氷で覆われていた。
世界樹製の氷武装。それは、何物をも貫くほど研ぎ澄まされており、鋭い。
「世界樹だろうが……」
【紫】が振り返った時には、もう遅かった。
極限まで磨かれた武人の剣が、抜き放たれる。
「千切り」
斬撃。
背中に渾身の袈裟切りを浴びた【紫】の世界樹は、倒れこむ。
そして、沈黙。
【蒼】の世界樹は、ペンライトを振りながら、呟いた。
「言っただろう、我は全身全霊で推し活をすると。
真打ちは我ではない」
闘いに勝利した【蒼】の世界樹は、倒れている【紫】の世界樹に向けて詠唱する。
「封印」
世界樹だけに許された一種の魔法。
『神木封じ』を。
「これでしばらくは【紫】の世界樹も出しゃばれなくなるだろう……
力を封じて、ただの人にしたのだから」
それから、【蒼】の世界樹はカタナに向き直る。
「【翠】を戦士団に引き渡したら推し活グッズをくれるという約束……
覚えているだろうな」
「はい。約束はぶつ切りにしない」
「ならばよし」
【蒼】の世界樹は立ち上がる。
「世界樹を、捕まえに行くぞ」
読んでいただきありがとうございます。
調子に乗り過ぎた紫姐さんはここで退場……
かと思いきや、まだまだ登場します。
【紫】の世界樹は毒が通じる相手には無類の強さを発揮します。
決して弱いわけではありません。頑張れ紫姐さん!




