ドラゴン亭へようこそ
二日の世界樹フライトを経て、俺たちは森にある小屋に着いた。
看板に「ドラゴン亭」と書かれてある、ドラゴンライダーの拠点に。
「師匠、ただいまー」
大鍋を頭から被ったラヲゼは、体当たりでノックする。しかし返事はない。
代わりに、背後からパタパタという小さな足音が響いてきた。
「ラヲゼ……!!」
そこには、背中から羽を生やした少女。
少女は山菜でいっぱいになったバスケットを取り落として、
「良かった、無事だったのね!音沙汰がなくて心配したのよ!」
「師匠、ごめん。ドラゴンは逃がしちゃった……」
「珍しいわね、ラヲゼがそんな失敗するなんて。
って、キャー!大鍋が喋ってる!」
やっとラヲゼの姿に気づき絶叫する少女。それから、息子がベッドの下に隠していた本を見つけたような表情に変わって、
「どうしよう……
ラヲゼが異常な趣味に目覚めて帰ってきちゃったわ……わ、ワタシの教育方針が悪かったのかしら……」
「違います彼は正常です。かくかくしかじかで俺がラヲゼさんを大鍋にはめちまって……」
「あ、そういうことだったのね。ビビった。
なら、ワタシが抜くわ」
少女は、長い黒髪をなびかせながら、唱えた。
「『妖精の粉』」
小さな光の粒が現れる。
それらはゆっくりと漂いながら鍋の表面に吸い付く。
そして、少女が二本の指を立てると
――鍋が突然巨大化した。
ガランという大きな音を立てて鍋が転がり落ちる。
その技にも度肝を抜かれたが、もっと驚いたのは。
「……ラヲゼさん……?」
そこに立っていたのが、四本腕の美丈夫だったことだ。
気まずそうに身を縮こまらせるラヲゼさんは、
「僕、操縦技術を極めてたら—―いつの間にか四本腕になってた」
と言った。
唖然とする俺とシスター二人。ラヲゼさんは更に身を小さくして、
「(まぁドン引きだよね……この人たちも気持ち悪いって言うんだろうな)」
もごもご呟きながら指を弄っていたが—―次の瞬間俺に捕まった。
「すっげー!!!!ドラゴン乗り放題じゃん!!!」
目を輝かせながら詰め寄る。四本も腕あったら同時に四体操れるって事じゃん!ロマンだロマン!
「……え?」
ラヲゼさんは拍子抜けしたかのようにたじろいだ。
おれはその様子を不思議に思いながらも熱弁を続ける。
「最初会った時は必死で気が付かなかったけど、四本腕だったのか!やっぱドラゴンライダーかっけぇ!
どうやったら四本も腕生やせんの?」
「……えっ、と、一応僕武人だから極めたらこうなっただけで……」
「へー武人って武だけじゃないんだ、極めてるの!
それだけドラゴンに乗ってきたってことか!」
傍らではサーラが、最初からラヲゼさんの正体には気づいていますよとばかりに頷く。コレネは感心しながらラヲゼを見上げている。
その時、ヒートアップしていく俺と、ラヲゼさんの間に、師匠である少女が割り込んだ。
「ふふ、積もる話は後でね。アナタたち、ご飯食べていかない?」
少女は微笑みながら提案する。
それから、自身の背丈の倍くらいもあるラヲゼの背を優しく叩いた。
「良い友達を連れて来たじゃない、ラヲゼ」
「はい!ドラゴン亭特製の山のさっちゃんフルコースよ!」
食卓に並ぶのはたくさんの山菜料理。
エプロンを着たラヲゼさんの師匠は得意げに胸を張った。
「他にも、てばサリーちゃんとかみそ四郎くんとかあるけど食べるかしら?」
「師匠、それどれも分からないと思う」
呆れながら、コレネの二十回目のおかわりを承るラヲゼさん。茶わんに米をよそりながら、空いた腕でご飯を食べている。
「そういえば師匠さんって何の種族なんですか?」
「良い質問ねシデジローくん。ワタシは『妖精姫』よ」
「俺はシデです。って、『妖精姫』?」
どさくさに紛れて、俺の皿から唐揚げを奪うサーラが付け加える。
「『姫』というのは全ての同胞から崇められる存在です。
本人に能力はありませんが、仲間に手助けしてもらえるのです」
「詳しいのね、アナタ。その通りよ!
ワタシは妖精たちに好かれる妖精界のアイドル、ヴェルティア。
姫だから羽はあっても飛べないのよ。だからドラゴンライダーになったの!」
「あたし妖精なんて初めて見たぜ!姉ちゃんもすごいドラゴンライダーなのかー?」
「すごいも何も、師匠も一流ドラゴンライダーだ。
弟子になりたいって人は全員突っぱねてるけどな。
って、君おかわり何回目だ!?十合炊いたのにもうないぞ!?」
騒がしくなっていく小屋の中。
世界樹が恨めし気に窓の外から見つめているのに気付いて、俺は冷や汗をかいた。
その後。
皿洗いは俺とラヲゼさんに任せて女性陣は風呂に行ったので、あとのことはあずかり知らない。
修道院のものよりキレイな風呂だ、とサーラは思った。
昔ながらのかまど風呂式が珍しく、ついつい見入ってしまう。
「東の国の設備を譲り受けたの。さ、遠慮なく入って」
ヴェルティアはきめ細やかな純白の肌をさらしながらそう言った。サーラは、ほうと息を吐きながら湯船につかる。長旅の疲れが溶けていくようだった。
「コレネ、体を流してから入りなさい……全くもう」
サーラは今度は嘆息してコレネの体を洗っていく。泡にまみれるコレネは満面の笑みで、
「嬉しいなー。修道院にいた頃もこうしてサーラに洗ってもらってたんもんなー」
その言葉に、ヴェルティアは浴槽から顔を出して、
「やっぱりアナタたちシスターさんなのね!どっちがシデって子の彼女さん?」
サーラはすっ転びそうになった。怒りか羞恥か顔を赤くして、
「違いますっ!あの少年は……」
「サーラはスタイル抜群だからなー。
どんな相手のハートも刈り取る死神なんだ。イチコロだぜ」
「ふふふ、やっぱり!?」
「だから違いますッ!私たちがあの少年についてきたのはただのなりゆきで……」
「駆け落ちね!詳しく聞かせてくださる!?」
「だからもうっ!」
ドラゴンライダー弟子入りの初日は、こうして過ぎ去っていった。
読んでいただきありがとうございます。
女性の年齢に触れるのは失礼ですので、本編ではなくここでヒロインたちの年を公開しておきますと、
カタナ→17歳
サーラ→だいたい100歳
妖精姫さん→だいたい500歳
【翠】の世界樹→だいたい1000歳
【紫】の世界樹→永遠の20歳
です。




