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誕生・世界樹ライダー

ドラゴンに乗りたい。

迷宮で何度も死にかけながら、俺はそう祈っている。

ドラゴンに乗りたい!

下働きとしてモンスターの死骸を処理する毎日でも、憧れは捨てていない!

ドラゴンに乗りたい……。

なのに。

「世界樹、抜いちった……」

迷宮を支える巨大な神木が、天井を突き破り空へと伸びていく。

俺は、世界最大の()()()と、駆け落ちすることになった。



いつもこの迷宮に入って思うのは、壁から垂れ下がっている蔓が、近所のお姉さんのポニーテールに似ていってことだ。

近所のきれいなお姉さん。ドラゴンライダーだった彼女に俺は憧れたんだ。そうして、格好つけようとするあまりに、ドラゴンに無断で乗り——

うっかり村の神木を粉砕してしまったことで、俺は今ここにいる。

広大な迷宮を歩き、モンスターの死骸を処理するため。

仕事のし甲斐なんて全くない。ろくな飯も与えられない。最低最悪の職種だ。給料も最低だし。道すがら、八つ裂きにされたフレイムハウンドの死骸を見つけた。悪臭のするそれを、棒で突っつき、真鍮の箱に押し込む。

かなりキモチワルイ。炎のブレスが吐瀉物に見えるという理由でゲロハウンドと呼ばれるのも納得だ。


「にしても、今日は最深部まで来ちまった」


後ろを振り返って考え込む。帰りたいとは思うが、……来た道を忘れた。モンスターに襲われる可能性もあるから、戦士と合流するしかないな。この広大な迷宮内で誰かと会うには、存在をしつこく主張するのが効果的だ。下っ端なりに精一杯、

「ほらー、ドラゴンがここにいますよ!誰か来てー!」

と、大声でほらを吹く。こうやって叫べば駆けつけてくれる人がいるはず。……多分。

しかし、駆け付けてきたのは――

「ガアアアアアッッ!!!!!」


曲がり角から突進してくる、翼竜だった。


「呼んでない呼んでない!帰ってッ!!!」

嘘が真になり、巨大な焔玉が空から降り注ぐ。

フラグという特級魔法を唱えてしまった俺の末路なんて、こんなものか。

冷めた人生だったな。

全身がまる焦げになる寸前で、俺は瞼を閉じた

――が、次の瞬間に見えたのは、炎でもなく銀閃だった。


「千切り」


短い呟き。

そして、コマのように回転する一本の剣が、ドラゴンを切り刻んだ。

汚い咆哮を散らしてドラゴンがよろめく。それと同時に、剣が地面に突き刺さる。

いや、剣は、()()だった。

刃が少女の細い足へと変わり、柄から腕と胴が生まれる。

一瞬のうちに、清楚なおかっぱの美少女へと様変わりした。

俺は、その戦士の正体に気付き、唖然とする。

「げ、戦闘狂の武人族じゃん……」

「貴方失礼。ささがき」

「三枚おろしにしたっておいしくない。で、このドラゴンどうすんだ?乗る、のか?」

好奇心に瞳を輝かせておかっぱの少女に詰め寄る。しかし少女は鋭利な刃物を思わせる無表情を貫いたまま、

「あたしカタナ、武人。ドラゴンは斬るもの。つまりみじん切り」

「待てってば。せめて調教しちまわないのか」

「貴方がやってみれば」

裾の短い和服を揺らして、カタナは近くの崖を登っていく。上から見定めるつもりなのだろう。

ふっまあ俺のドラゴンライダーの素質を見ているんだな! と調子に乗る。

この馬鹿さ加減が人生を台無しにしてきたというのに。


「お座り!!」


コマンドを叫ぶ。予習は完璧。これでドラゴンもひれ伏すはず

――という想像とは真逆のことが起こった。

ドラゴンはのたうち回るように身をよじらせ――猛スピードで壁に突っ込んだ。

俺のすぐ傍を。轟音が鳴り響く。

千切れた銀髪の房がひらひらと落ちる。俺は間抜けに口を開けた。

「おっかしいなぁ……」

ドラゴンが空けていった風穴を一瞥する。

ものの見事に、振られた。

「……可哀想」

呆然とする俺の前に、和装の武人、カタナが降り立つ。

妙に礼儀正しく、わずかに眉をひそめて。

その残酷な真実を突きつけた。

「ドラゴンライダーの素質が全くない」



しばらくの間、立ち尽くしていた。

視界がぼやける。あいまいだった現実が鮮明になって迫ってくる。胸に引き裂かれるような痛みが生まれる。

分かっていた。ドラゴンライダーには向いてないって。

神木を破壊した、あの時から。

涙がとめどなく溢れる。

悔しい、悔しい、悔しい。

一周回って衝動に変わる。

気付けば、全てを放り出して走っていた。



『悲しい?』

悲しいとは違う。自分自身に腹が立っているから。

『じゃあ、辛い?』

当たり前だ。変わり映えもしない、夢も希望もない毎日なんて。

『願いは、待つものではなくて、乗りこなすもの』

余計なお世話だよ。

……って、この天の声は誰だ!?

自然と、導かれるように、足が迷宮の最深部へと向かう。そこには、迷宮を支える世界樹があって


――後の記憶はない。


鬱憤を晴らすためにそうしたのかもしれないし、またうっかりを披露したのかもしれない。

事実として、世界樹は抜けた。

抜いた。俺の、この手で。

掌の中の世界樹が問いかけてくる。


一緒に空を飛ばないか、と。


俺は、迷わず手綱を握っていた。巨大な世界樹が迷宮と共に鳴動する。迷宮に絡まりついていた何千本もの根が、一気に地面から離れる。壮観な眺めだった。

唖然としながら、俺は一言だけ叫んだ。


「でもドラゴンに乗りたいよー!!!!」


初めまして。読んでいただきありがとうございます。

本作は、ドラゴンに乗りたいのに世界樹に乗る少年の話となります。

変な種族がこれからも登場する予定ですが、そんなもんかとスルーしてもらって構いません。

武人とは、武を極めた結果武と一体化してしまった種族を指します。中には矢と一体化して、何世紀も宇宙を飛び続けている方もいるとか。

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