エビフライのうた
赤茶色の衣に包まれた身体。赤い尻尾がシュッとのびている。
サクサクの衣を噛みしめると、ぷりっとした歯ごたえとともに、香ばしく焼けた海老の香りが鼻を包む。衣が口の中でほぐれていくと、舌先にふれる甘み。そこから広がるのは、なんとも言えない深い旨味。
レモンをかけても美味しいし、タルタルソースでも美味しい。
あまりの美味しさに、みんな無言になって食べる。
夕食を終え、食卓を囲んでいた時、娘がまた、わけのわからないことを言って、足をばたつかせた。
「きょうはパパでエビフライをつくる」
「愚か者め。お前がエビフライを作るには一〇〇年早い!」
「つくるもーん♪ つくるもーん♪」
そう言って娘は歌い出した。
「うるさいから、さっさと風呂に入れてきて!」
後片付けを嫁に任せて、風呂に入れる。体を洗い、さっぱりした気分になって風呂から上がると、娘に手を引かれ、寝室へ連行された。
そして俺を布団に寝かせようとする。
「待て。寝るのはお前だ」
「いーから、いーから♪」
お構いなしに茶色い毛布をかけられる。
「エビさんにころもをかけまーす♪」
さらに彼女は布団をかけてくる。
「タルタルソースをかけましょう♪」
最後に頭に赤い頭巾を被せられた。とても暑かったので布団を払いのけようとしたが、小さな手で彼女に押さえつけられる。
「あつい!」
「あつあつがいーの!」
そう言ったあと、娘はとたとたとリビングに走っていった。
「おかーさん、エビフライできたよ!」
その声が聞こえた途端、妻のくすくす笑う声も聞こえてきた。どこから持ち出したのかわからない赤い頭巾を外しながら、体をくねくねと動かした。
俺はまだ生きている。