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あれから2週間が経った。
今日、明日は貴重な完全なるオフの連休なのに、出かける予定もすることもない。
休みなのだから文字通り体を休ませればいいものを、どうしてももったいないと感じてしまう自分がいる。
メッセージアプリを開いて、急な誘いに乗ってくれそうな誰かがいないか探してみるけれど、こんな平日の真昼間から暇をしている友人はそういない。
諦めてアプリを閉じようとしたとき、友達リストの最新の欄に載る名前を見つけて、これだ、と思った。
すぐさまダラダラと寝転がっていたベッドを抜け出して、着替えと出かける準備を整える。
なんの連絡もせずに向かうことにしたのは、急なメッセージを送ることをためらったからだ。
あの日連絡先を交換して以来なんの音沙汰もないから、こちらも送ることをしなかった。
啓人さんが“いつでも待っている”と言ったあの言葉は、単なる社交辞令だったのかもしれない。
だけどそれでもいいのだ。
もしもカフェに行って迷惑な顔をされたら、客としてコーヒーを飲んで帰ればいいだけなのだから。
「いらっしゃいませ。」
「…こんにちは、今日って店長さんいます?」
「えっと、店長は今ちょっと…。」
「あ…そう、ですよね、急に来たら居ない事もありますよね。」
「いえ、居ないというか…、今は休んでます。朝まで店に出ていたので。」
「あぁ、なるほど、そうですよね…、そっか、それは考えてなかったな。」
「…よければお待ちになりますか?たぶんあと一時間もすれば起きてくると思いますが。」
「いえ、大丈夫です。…降りてきて俺がいたら、啓人さん、きっと待たせたって気にするから。」
「えと…、あ、お名前は?伝言だけでもしておきましょうか?」
「いえ、それも大丈夫です。紅茶だけ1杯いただいていこうかな。」
「…そうですか、フレーバーはいかがなさいますか?」
アイスのフルーツティーを片手に店を出る。
内心、会えなかったことに落胆する気持ちと同時に、顔を合わせずに帰ってこられたことに少しだけ安堵していた。
2週間もなんの連絡もなかったのだ、急に来たってきっと、いい顔をされない。
何となく、今は啓人さんの煙たがるような顔を見るには心の準備が足りないような気がする。
「あぁ、…うま。」
おいしいアイスティーの味と行き当たりばったりの行動がもたらした運の悪さに、少しだけ心が救われたような気がした。
*
(燈士くん、もしかしてさっき店来てくれた?)
アトリエで花の手入れをしている時、ポケットに入れていた携帯が震えるのを感じて、手に取って画面を確認する。
“吉野 啓人”
送り主はあの日連絡先を交換した時の挨拶のメッセージ以来、初めてこの携帯に連絡を寄越す人物の名前になっている。
一瞬、ドクンと心臓が跳ねて、携帯を握る両手にじんわりと汗が滲んだ。
(うん、急に行ってごめんね。特に用があった訳じゃなくて、何か飲みたいなって思って寄っただけだから気にしないで。)
(そうだったんだ、残念。あれから君と話出来てないから、会えたらよかったのに。)
(ホントに?急に行って迷惑じゃなかった?)
(全然。またいつでも来てよ。)
(明日休みなんだけど、今日の夜またお店に行ったら迷惑かな?)
(え、そうなの?来てくれたら嬉しい!待ってる!)
期待以上の嬉しい返信を何度も読み返して、そのたびにドキドキと胸が高鳴った。