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22《終》

その日俺たちは、夜通し語り合った。

互いの気持ちは痛いほど理解しているのに、知らないふりをするしかなくて、"ただの親友"みたいな顔で誤魔化しながら、短い夜を明かした。

出会った日の夜みたいにいつまでも話は尽きなくて、またこうして笑いながらこの人の隣に居られる事が、どうしようもなく嬉しかった。


互いに声も聞かずに過ごした3週間の間、自分たちがどんな関係だったのか、それはよくわからない。

だけど今、ひたすらに語り明かすだけの夜を超えて、元いた場所に戻ってこられた気がした。

恋人でも友達でもなく、ただそばに寄り添って、ともに朝を迎える関係に。


もしかするとこの関係は、同じ場所にいるだけで、以前とは少し形が変わってしまっているのかもしれない。

それでも、いつか超えられると分かっているから、今はこのぬくもりがあればそれで十分だと思えた。



翌日も仕事があるけれど、啓人さんが今日はどうしても店に来て欲しいというので、仕事終わりに家へ戻り、すぐに眠れるようにだけ準備を整えてカフェへ向かった。


早朝5時、アラームの音に起こされ身を起こし、螺旋階段を伝って1階のカフェフロアへ降りる。

閉店時間までの間、翌日の仕事のことも考えて、2階で仮眠を取らせてもらっていたのだった。


「おはよう燈士くん、眠れた?」

「うん、寝た瞬間朝になってた。」

「ふふっ、そっか。…何か飲む?いつもの?」

「うん、今日は車で来たから甘めでお願いします。」

「はい、かしこまりました。」


カウンター席にカフェモカを置いて、お客さんが居なくなるまでもう少しだけ待っててね、と小声で謝って来る啓人さんに、焦らなくても平気だよ、と返事をしてカップに口をつける。

啓人さんの淹れてくれるカフェモカは、相変わらずその時の気分にぴったりとくる、ほっとする味だ。

今の俺に必要な分の甘さが必要な分だけ含まれた、格別な味。

この一杯を口にすると、啓人さんがこちらのことをよく見て理解してくれていることが分かるから、とても幸せな気持ちになる。


『いってらっしゃいませ』とホールから啓人さんの声が響く。

この日最後のお客さん、出勤前のサラリーマン風の男性を見送り、入り口のドアの看板をCLOSEに裏返してから、鍵を閉めてカウンターの中へ戻って来る。

そこからスイッチを操作してホールの照明を落とし、再び入り口付近に歩いていくと、ガラス窓のブラインドを順番に下ろして行った。

最後に入り口のドアのブラインドを下ろし、こちらを振り返る啓人さん。

そこから薄っすらと漏れる朝の光に背後から照らされて、こちらからはその顔が逆光気味に見える。


「おまたせ燈士くん、………もう話していい?」

「いいけど…、なんか遠くない?」

「うん…、でも、聞こえるからいいでしょ?」

「まぁ…。」


なぜだか啓人さんはカウンター内には戻らずに、扉の前から話しかけてくる。

そこから動こうとしないので、不自然な距離が開いたまま会話が進んだ。


「燈士くん、…良い話と悪い話があるんだけど、どっちが聞きたい?」

「えぇ?どっち“から”聞きたい、じゃなくてどっち“が”聞きたい、なの?」

「うん、どっち“が”聞きたい、なの。」

「そりゃどっちかなら、良い話に決まってるでしょ。」

「そっか、そうだよね…、うん、良い話はね、…昨日、…真実が店に会いに来た。」

「……。」

「……。」

「…え、それだけ?…正直それは、俺にとったら全然良い話じゃないなぁ…。」

「いやいや、もちろんそれだけじゃないよ、ちゃんと続きもある。」

「………迎えに来てって、言われた?」

「ううん、むしろその逆。…もう待たなくていいよって言われたんだ。」

「え…?」

「お腹が大きくなってた…、…すごく幸せそうにしてくれてたから、本当によかったなって。」

「そ、っか…、ははっ…、はぁ~っ、よかった、…確かに、それは俺にとってもいいニュースかも。」

「うん。」

「…じゃあ、悪い方の話は?」

「そっちも聞くの?」

「うん、だって気になるじゃん。」

「…真実のお腹が大きくなってた…、7カ月だって。」

「…それ、さっきと同じ話じゃんよ。」

「…やっぱり、…初夜は初夜だったみたい。」

「ぷはっ、…ほら、俺が言う事はなんでも正しいんだよ。」

「そうだね…。」


啓人さんはこの話をしたとき、俺がどんな反応をするのかって、少し不安に思っていたのかもしれない。

遠回しな話し方と、ここから先をどうしてよいのか分からないと言った様子でそわそわと落ち着かないその姿を見て、この距離感の理由が分かった。


『ほら、こっちだよ。』

カウンター席から両腕を広げて呼びかけると、啓人さんが確かな足取りでこちらに向かって歩いてくる。

外からの明かりが遮られた薄暗い店内で、その姿だけが光っているみたいに明るく見えた。


すっと両腕におさまり、しっくりと馴染むあたたかな体温。

じん、と肌を伝わり、ぱっと心を照らしてくれる確かなぬくもり。

それらを決して離さないようにと強く抱きしめる。


「燈士くん、待っててくれてありがとう。」

「うん。」

「…これからも僕のそばにいてくれる?」

「もちろん、そのためにずっと待ってたんだから。」


手を取って共に歩む道、その先を導いてくれる燈のような笑顔。

この人となら、この先に何があろうと乗り越えていけそうな気がした。


暗闇から這い出たその先で、再び心に宿った燈。

【After The Lights】のネオンの光を初めて見たあの日から、

俺たちはきっと、こうなる運命だって決まっていたんだと思う。


〈fin〉


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