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「うちにも花飾ろうかな。燈士くん、頼んだらアレンジメントしてくれる?」

「え、いいよ、もちろん。どんな雰囲気がいいとかある?」

「ん~、燈士くんが考えるここのイメージっていうか、合いそうなものを作って欲しいんだけど。」

「うん、わかった。」

「「お代は出すよ。」いらないよ。」

「ぶはっ、被ったね。…でも、俺だけ代金もらうのはフェアじゃないよ、コーヒーと交換ね。」

「…いいの?」

「うん、その方が気兼ねなく好きなアレンジ試せるし。」

「そっか、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。」


その時、入り口の方から来客を知らせるドアベルの音が鳴った。

啓人さんが、お、と言う顔をした後、親しげな雰囲気でにこやかに話しかけている。

振り返ると、金髪碧眼の色男が右手を上げてこちらに向かって歩み寄って来るのが見え、反射的に目を逸らした。

良い男が視界に入ったせいで、首筋に生理的な汗が浮き出る。

これはあくまで本能的な反応であって、決して彼に惹かれたりなどしていない。

どんなにつれない態度を取られたって、俺は啓人さん一筋だと、断固としてここに宣言する。


真修(ましゅう)くん、ブラック?」

「うん、トール。」

「はい。」


レジの方を見上げると、男性と目が合う。

彼は魅惑的な笑顔をこちらに寄こしたあと、視線を正面に戻し、『やっぱりショートで』と注文を訂正した。

啓人さんにソファ席が空いてるよ、とすすめられて首を横に振り、俺の隣の席に腰かけてくる。

よりによって真横かと、少し居心地が悪くなった。


「お兄さん、隣いい?」

「あ、はい、…どうぞ。」

「俺真修、お兄さんは名前なんていうの?」

「え、…名前?俺の?」

「うん、お兄さんの。」

「佐野…、です。」

「下は?」

「燈士。」

「燈士さんか、…たぶん俺より年上だよね?俺今年27なんだけど。」

「よくわかったね、大体実年齢より下に見られるんだけど。」

「うん、なんか雰囲気が落ち着いてたから。」

「そっか…、うん、まぁそうだね、君よりは大分年上かな…、今年33だよ。」

「へぇ、それ考えたら確かに見た目若いよね。」

「ありがとう、誉め言葉として受け取っておくよ。」

「うん、そうして?褒めてるから。」


目が合った瞬間から感じていたが、話してみてそれが確信に変わる。

彼は確実に、コッチ側の人間だ。


でもだからこそ、なるべく関わり合いにはなりたくない。

彼のようなノリの軽い人間は、あまり得意ではないのだ。


彼の俺に接するときの雰囲気や距離感で、こちらの状況も把握されていることに気付く。

直感的に同類だとわかって察してしまうこの能力に、名前はあるのだろうか。


「燈士さんって啓人さんと仲いいの?」

「ん?うん、それなりに仲良くさせてもらってるよ。」

「ん~、だよねぇ…。」


俺たちふたりの会話もろくに聞いていないのに、彼はなぜズバリと言い当てたのだろう。

まさか、初見で察しが付くほど、啓人さんへの好意が隠しきれていないのだろうか。


「…なんで?」

「ん?何が?」

「なんで俺たちの会話を聞いてもいないのに、わかったのかなって。」

「あ~…、勘ってやつ?」

「勘?」

「ウソ。本当は、まだひながいる時間なのに、啓人さんがカウンターに出て話してたから。」

「え。」

「知らなかった?めずらしいんだよ、それって。」


いつの間にかアイスコーヒーを持って目の前に戻って来ていた啓人さんが、ひそひそと会話をする俺たちの間を割くように、トン、と勢いよくコースターを置いて、その上にグラスを乗せた。

少しだけ不機嫌そうに見える表情も相まって、妙な緊張感が走る。

その後すぐにお客さんに呼ばれて、啓人さんはホールの方へと離れていった。

カウンターに二人きりになったとたん、真修くんが肩をよせて、耳元で話しかけて来る。


「愛されてんねぇ。」

「…いや、一方通行だよ。」

「わぁ…、啓人さんに言い寄られて落ちない人っているんだ。」

「違う、俺からの一方通行ってこと。」

「え?そうなの?」

「うん、…もうずっと、生殺しって感じ。」

「ふぅん、なるほどねぇ…。」


少しして戻ってきた啓人さんがストローをお客さんに届けてからカウンターに入ると、隅で補充作業をしていた雛木くんの肩を叩いて話かけているのが聞こえた。


「ひな、今から燈士くんとご飯食べてくれば?今日はそのまま上がっちゃっていいよ。」

「え?飯っすか?燈士さんと?」

「うん、おこづかいあげるから行って来なよ。」

「は、い…、あざす。」


ね、燈士くん、と啓人さんに目配せされて、訳の分からないまま押し切られる形で雛木くんと食事を共にする流れになり、席を立って上着を羽織る。

そうしていると、隣の席の真修くんも一緒に立ち上がり、『俺も連れてって~』と甘えた声で言った。


「真修くん、俺は危険な男から彼を遠ざけようとして言ってるんだよ?君が一緒に行ったら意味がない。」

「何?啓人さんて燈士さんの恋人か何かなの?」


質問に答えられない啓人さんを見て、真修くんが嘲笑するように鼻を鳴らした。


「違うなら、俺が啓人さんに止められる理由はないよね?…その作戦は失敗だよ、逆に窮地に追いやられてる。」

「…。」

「あぁ~、燈士さんかわいいから俺、今日は本気出しちゃおうかなぁ。」

「真修くん!」

「大丈夫、大丈夫、俺“同意がない相手”に手出したりしないからぁ~。」


俺の肩に手を回してカフェを出て行こうとする真修くんに連れられて、歩み出す。

彼を呼び止める啓人さんの声に振り向いて様子を確認しようとすると、耳元で『振り返らないで、前だけみてて』と囁かれ、なぜだかその言葉に素直に従ってしまった。


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