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週休二日、少なくとも一日、フリーランスのフラワーデザイナーとしては、最低これくらいは意識的にでも休みを取るようにしている。
啓人さんとの添い寝に本格的にハマってからは、殆どそのすべてをカフェで過ごす一日に捧げていた。
だけどここ2週間、大規模なイベントの装飾の依頼を請け負ってから、まともに休みが取れていない。
必然的に、カフェにも顔を出せていなかった。
そんな鬱憤が溜まりに溜まった今日は、続いていたイベントの仕事の最終日。
納品を終えて家に帰ってからは、開放感でいっぱいだった。
やっと、思う存分睡眠を貪れる。
その前に、頑張った自分へのご褒美をと、酒を買い込んでからカフェに向かった。
店のドアを開けて中に入った時、「いらっしゃいませ」と最初に声をかけ、出迎えてくれたのは雛木くんだった。
「あぁ、佐野さん…、よかった。…店長、“お友達”が来てくれましたよ!」
えっ!と厨房から珍しく慌てた様な啓人さんの声が聞こえ、すぐにカウンターへ顔を出した。
最後に見た時より少しだけ覇気のない顔が、一瞬でパァッと明るくなる。
飼い主を出迎える犬のようなその様子がおかしくて、つい吹き出して笑った。
「あ、燈士くん!久しぶり、会いたかったよぉ。」
「待っててくれたの?」
「うん、待ちわびてた。」
「ふふっ。」
俺の手に下った袋を見て、啓人さんがそれは何?と訊ねてくる。
その質問に、両手を掲げて答えた。
「俺さぁ、明日久々の休みだから飲みたい気分で。お店終わったらこれ、付き合ってくれない?」
「うん、もちろん付き合うよ。」
カフェの閉店後、啓人さんがシャワーを浴びるのを待って、さっそく乾杯をして祝杯を挙げた。
この家にあるお洒落なグラスに移し替えただけで、ただの缶ビールが、缶酎ハイが、バーの高級カクテルに変わる。
2週間ぶりのまともな休暇への開放感、隣には無防備に艶っぽい色男。
酔いが回るのは早くて当然だ。
文句があるなら同じ状況に耐えてからにしてほしい。
きっと、今朝の俺を責められる者は誰もいないだろう。
「2週間あけただけでだいぶ干からびてるなぁ、啓人さん。」
「はぁ…、ホントだよ、燈士くんが“彼氏出来た”って言い出したらどうしよ。いよいよ僕の安眠が危ぶまれる事態に陥るよ。」
「啓人さんなら添い寝する相手ぐらいすぐに見つかるでしょ。」
「ん〜、ワンナイトの相手はたぶん、僕を寝かせてはくれないんじゃないかな。」
「…啓人さん、最近そう言う冗談ばっかだな。欲求不満?」
「かもねぇ…、今の僕は三大欲求がほとんど満たされてない状況だからさ。」
「ははっ、そっか、…まぁ、俺しばらくは恋人とか作らないと思うし安心してよ。」
「…しばらくって、どれくらい?」
「そんなのわかんないけど、…少なくとも啓人さんに恋人ができるまでは作らないかな。」。
「ん~、君を添い寝相手に選んで正解だったな。」
「あぁ…、俺、すっかり啓人さんにとって都合のいいソフレに成り下がってるわ。」
「ははっ、急に裏切ったりしないでね。」
「俺からは離れられないことわかっててそういう事言うの、本当ずるいなぁ…。」