ルナヴァルド
黒狼が仲間にしてほしそうにこちらに金色の目を向けてくる。
「⋯クゥン」
「うぐっ」
悲しそうな顔をするので非常に心が揺らぐ。
だがこの世界は野生生物が魔物になることがあるのだ。そう簡単に飼うという判断は出来ない。
どうするべきか悩んでいると
「ワウッ!」
親狼がこちらに向けて頭を下げてくる。
⋯親としてこの子の未来を案じているのだろう。
この子を放置すれば、またあの群れに襲われる。それにこの世界は子供1匹ではどうしようもない。
ここで見放すのは⋯少し違うな。
俺は守りたいもののために強くなる。
⋯もし、この子が魔物になった時は俺がこの子を殺そう。それが飼い主になることの責任だ…
「⋯わかったよ、この子は俺が預かる…だから安心して天国に行ってくれ」
俺は経験してないけど多分いい所だから。
そうして視線を交えた親狼は静かに頷き、黒狼を俺の方へ押し出した。
「クゥーン」
「グルル…」
そうして親狼は目を閉じた。
黒狼が親狼を舐めるが、もう…何も反応しない。
「ワォーーーーン!」
黒狼が遠吠えする。遠くへ行った親狼へと届くように大きな声で…
▽▽▽
黒狼がひとしきり鳴いた後、俺たちは親狼を大きな木のそばに埋葬した。
「⋯結局、連れていくんですね」
「ああ、託されたからな」
俺はまだまだ幼い黒狼を抱えながら帰路についていた。
「いいじゃない、ネロ。可愛いし」
「お前はそこしか見てないだろ。将来、こいつが魔物になったときをだな少しは…」
「その時は俺が殺すよ」
「「っ!」」
「クゥ?」
俺がそう言うと2人は息を呑んで驚いた顔をする。
「出すぎた発言、申し訳ありません」
「ううん、大丈夫」
「(ははっ♪いい風格だね〜、将来が楽しみ♪)」
まだセルビンとレオヴェルスどちらがグリュナーク家を継ぐのか明確にはされていなかったが、家柄的にもセルビンが継ぐと思う人間も少なくないのだが、その時のレオヴェルスの顔を見た2人は将来自身が仕える主はこの方だと確信した。
▽▽▽
「ダメだ」
時間が経ち夕食後、俺は父上に黒狼のことを話し、飼いたいとお願いした。
「父上」
「今回に関しては容認できない。野生生物は魔物になる可能性があるんだから、飼うなんて以ての外だよ」
「ですが、俺は託されました。あの子の親に」
「将来どのような被害が出るか考えなさい」
「覚悟の上です。もし、あの子が魔物になったら俺が殺します」
「⋯」
俺の目を父上が覗き込む、その覚悟が本当なのか。
「⋯そこまでの覚悟があるなら…いいでしょう、しかし、飼うということは家族となるということ、そしてあの子が魔物となったらレオは家族を殺せるんだね」
「自分の守りたいもののためなら」
俺は全てを守りたいなど贅沢なことは考えない。彼女らを守ることが俺の一番大切だ、だからといってあの子を見捨てるような冷淡なことはしたくない。
「⋯そうか⋯わかった、飼うことを許可しよう。ただし、飼うのは騎士寮の所でだ」
「分かりました、ありがとうございます」
そうして、数日⋯
「おお〜よしよしルナヴァルドはいい子だねえ」
「ワフッ」
騎士寮で黒狼━━ルナヴァルド━━が飼われるようになり最初は騎士達も嫌そうにしてたが数日もすれば、ルナヴァルドは騎士寮のアイドルとなった。
訓練や仕事で疲れた騎士にとってルナヴァルドは癒しだったらしく、それは騎士寮に留まらず使用人もわざわざ騎士寮に訪れて撫でたり餌やりしている。
そうして噂になってセルビンもやってきて気に入ったわけだが、何故かルナヴァルトはセルビンを嫌い、会う度に威嚇していたら「獣風情が!」と殴ろうとし避けられて反動で転び皆の前で赤っ恥をかいてからは来ていない。
「しっかし、なんでルナヴァルドって名前にしたんですか〜?」
ネムと一緒にルナのお世話係(なりたい役割ランキング1位)になったジェシカがルナを撫でながら尋ねてくる。
「うーん、なんとなくかな」
本当はルナの金色の目が毛並みと相まって夜の月を連想したのとヴァルドは力強いという意味があるとアニメのキャラ名の意味を調べてる時に知った。他にも森という意味もある、森で出会った俺たちにはピッタリだ。
「一緒に強くなろうなルナ」
「ガウッ!」
こうして俺は心強い相棒を手に入れた。