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黒狼

狩りを始めて1ヶ月過ぎた頃、第一夫人セリカ御一行がルビデリカ侯爵家から帰ってきた。


「おお!レオ、おめえ狩りを始めたらしいな」


廊下でたまたま会ったセルビンが意気揚々に絡んできた。


「ええ、セルビン兄上。それがなにか?」


セルビンはプライドが高いため数ヶ月早く産まれただけなのに兄上と呼べ、と強要してくる。


ちなみに父上がセリカと子をつくるのにそこそこ時間かかったのに対して母上とは一瞬でできたため俺とセルビンは数ヶ月違いとなっている。


セリカが嫌いな母上はよくそのことを自慢している。父上はその事に対して俺に「お前はしっかり愛した女性のみと結婚しろ」と真顔で言ってきた。


貴族って仕事やらマナーやら政略結婚とか思った以上に大変だな〜とその頃の俺は思った。


まぁそのおかげで今、俺に婚約者がいない状態なんだけども(セルビンも)。


「いやあ、平民がやるようなことをしなければいけない哀れな弟を心配してるだ」

「ご心配ありがとうございます。ですが、将来のためにやっていることなので」

「貴族というのは下の者に指示をしていればいいんだよ。それなのにお前はわざわざ命を危険に晒すとか、馬鹿だよな」

「貴族とは時に部下や領民を助けなければいけません」

「はっ!下の奴らを助けてもし死んだらそれは歴史的な大バカ野郎だな。精々そうならないよう頑張るんだな」

「はい。ご心配ありがとうございます」


俺がそう言うとセルビンは面白くなさそうに自室へと向かっていった。


▽▽▽


それから更に数ヶ月後、いつものように狩りをしていた時にそれに出会った。


「ねぇ、2人共」

「ええ、見えていますよレオヴェルス様」

「なんでしょね〜、あれ」


俺たちの目の前には大きな木が生えており、その周辺は木が生えていないちょっとしたスペースが存在していた。


そしてそこには20匹以上の狼が何かを囲んでいた。


「あれだけの数の狼は少々危険ですね」

「そうだね〜、ここは離れよっか」

「⋯待って、2人共」

「「?」」


俺は狼の群れの隙間からそれを見つけた。


「⋯黒い狼?」


そこに居たのは他の狼と違い黒い毛並みをした狼の子供とボロボロになった普通の狼だった。


「⋯黒い狼ですか…」

「ネム、何か知ってるの?」

「ええ、生き物にはごく稀に普通とは異なる色の個体が産まれ、そういう個体は群れから追い出されたり、殺されたりするそうです」


前世で言うところのアルビノとかそういう個体だろか。

気になることは多いがそれよりも…


「⋯助けちゃダメかな」

「まぁ、この数の群れとなると狩人個人では少々手間が掛かりますし、全部とは言わずとも半分くらいは狩っておく方がよろしいかと」

「そのついでに助けるならOKですね〜」

「ありがとう2人共」


何故か俺はあの黒狼を見逃せなかった。

だから2人にお願いして助けようとした。


「我々で間引きますので、レオヴェルス様はあの親子の元へ」

「わかった」


今の俺では狼相手に勝てるか、微妙なので安全を考慮してこのような形となった。


「行くぞジェシカ」

「は〜い♪」


そうして2人が一緒に走り出す。


「グルゥ!」

「遅い」


群れの1匹が気づいたがネムに首を斬られて絶命。

そのままのペースで2人が狼を倒してる隙に俺は親子の所へ向かう。


「グルルルゥ!」

「大丈夫、俺は敵じゃない」


俺は両手を挙げながら敵意は無いと一定の距離を保ちながら親の狼に視線を向ける。


「⋯」


親狼が俺をじっと睨みつけ、俺は臆せず視線を返す。


「グルルゥ!!」


そうしている内に狼の群れがこの場から離れていく。


「まあ、ここまででしょう」

「お疲れ〜ネム」


2人が剣を収めながらこちらに来る。


「グルルル!」


親狼がまだこちらを警戒している。


「⋯この狼はもう無理でしょうね」

「⋯そうだね、この傷じゃ…」


2人の言う通り、親狼は身体の至る所を噛みつかれ、引っ掻かれた後がある。

正直、今立ってるのが不思議なくらいだ。


「グルル、ル…ル」

「キャン!」


もう…限界だったのだろう。

親狼が横たわり黒狼が心配そうにしている。


「⋯ここまでですね」


ネムが俺たちにはもうやることが無いとこの場から去ろうとする。


「⋯ううん、ネム、ちょっと待って」

「え?」


俺はネムにそう言って親子に近づく。

正直できるか分からない。知識も条件も揃っているけど、まだ一度もしたことが無い。ましてや相手は人間ではなく狼だ、成功する可能性は低いだろう。


この世界、魔法属性が分かるのは12歳とされている。その理由は魔力を認識してもその魔力はそこら辺にある魔力と変わらない無属性だからだ。

魔法を使うには基本的に無属性からその魔法に合った属性魔力に変えて発動する必要があるのだが、その行程が子供には非常に難しい。

年齢が上がるにつれてそれは簡単になる。そして12歳までなると、魔力属性を判別する魔道具に自身の魔力を流し込むと魔道具が代わりに魔力を持ち主に合った属性へと変換することが可能になるのだ。


そのためこの世界では魔力属性を手探りで探すより、魔力の認識と無属性魔法の習得を優先する。




だが、俺は転生特典?として自身の魔力属性を把握している。


俺は自身の魔力をある属性に変換する


俺の魔力属性は光だ。

光属性は基本的に回復魔法を扱う属性である。


俺は親狼の元へ歩み寄る。


「!キャン!キャンキャン!」

「大丈夫、俺は敵じゃない」

「レオヴェルス様何を…」

「レオ様?」

「『ヒール』」

「「?!」」


2人が驚いた顔をする。

回復魔法の中でも初歩中の初歩、ヒール。

簡単な外傷を塞ぐ程度のただそれだけの魔法、失った血は戻らず、噛みつかれた傷もあまり治りが良くない。

当然だ、ぶっつけ本番で魔力を練り、魔法陣を組み上げたヒールではこの程度だろう。

だが…


「⋯グ、グルル」

「キャン?!」


親狼が目を覚ました。それでも弱っていることに変わりない。

もう魔力は残っていないからヒールは使えない。

ほんの数分、それが親狼に残された時間だろう…

それでも、別れの時間はできただろう。


「「〜」」


親子が何やら会話をしている。

親狼が黒狼を嗅いだり舐めたりしている。


「⋯レオヴェルス様」

「⋯」


それを眺めているとネムが俺に話しかけてくる。


「今の魔法は…いつの間に魔力の認識を」

「ほんの少し前だよ、魔法についてはたまたまさ」


俺は偶然を装って発言する。

今の段階で魔力を認識し、魔法を使ったとなれば転生者と疑われてしまってもしょうがないね。


「⋯」


ネムは未だに俺に疑いの視線を向けてくる。


「まぁまぁ、いいじゃない、ネム」

「⋯ジェシカ」

「レオ様は努力家で、しかも、領主様とエル様の子供なんだから〜」

「しかし…」

「魔法については本当に偶然なんでしょ、もしくは神様があの親子に与えた慈悲よ」

「⋯はぁ、まぁそういうことにしておくか」


ネムがジェシカ言われてようやく折れた。


「レオヴェルス様、疑ってしまい申し訳ないありませんでした。なんなりと罰は受けます」

「あはは、まぁ今回関しては仕方ないよ気にしないで」

「ですが…」

「じゃあ…俺の魔法について誰にも伝えないでもらえるかな?」

「⋯分かりました。それだけで良ければ」


流石にこれ以上俺の魔法について広まると収拾がつかんことになるからね。


「それにしても凄いですね〜レオ様領主様達よりも早く魔力を認識して魔法まで使って」

「魔法についてはまぐれだけどね」


とりあえず、何とかなって良かった〜。

正直、バレるのも覚悟してたくらいだし。


「グルル!」

「ん?どうしたんだ」


狼狼が鳴いたのでそちらを見ると…


「⋯え?」


黒狼が仲間になりたそうにこちらを見ていた。






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