要塞拠点防衛用魔導兵器-型式04-035
昼過ぎ、早速依頼を受注した二人はこの街から徒歩で街の外れにある廃墟の内部捜索に向かっていた。
「しかし、定番ならスライムとかゴブリンとかを倒してこいってのが普通なんだが…」
かれこれ歩いて一時間。
依頼用紙片手に、レイジはサテラと大型廃墟に向けてトコトコと歩いていた。
馬を使うのも手だったが、必要以上に使い過ぎると馬が疲れて動けなくなってしまう。
この街を出る時に、馬が疲れて動けなくなって下手に立ち往生を食らうのも嫌なので、移動出来る範囲は徒歩で向かう事にした。
ケチと言われればそれまでだが、咎める人は誰一人としていないので、所詮は己の気持ちの問題でしかない。
「魔物の討伐は、初心者の内はやらないのが一般的。ただでさえ、冒険者の死亡者数は増えてる一方なので、まずはこう言う斥候の依頼をこなしていくのが普通です」
「成る程、まずは大人しくパシられておけって訳か」
「パシられる?」
「造語だ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここか」
青々と苔むした石造りの巨大な廃墟。何十年もの間、人の手が加えられず、忘れられて放置されていた事が一目で分かる。
建物の作りは、先程まで滞在していた街の建物と大差ないが、少しだけ近代的な作りになっている様に見える。
長方形の建物は、何処か現代のビルの様にも見える。
「だ、大丈夫だよね?」
昼過ぎとは言え、廃墟があるのは森の奥。陽の光もそびえ立つ木々に邪魔されて、あまり届かない。
その為か、昼であるにも関わらず、かなり暗い。ハッキリ言って、雰囲気は魔物やお化けが出てきそうな屋敷そのものだ。
「ま、まぁこっちにはコイツがあるから、何とかなるだろ…?」
リュックから弾の込められたショットガンを取り出すレイジ。
右手は引き金、左手はフォアエンドをガッチリと握っていた。
「私だって、魔物と戦ったり野盗を検挙した事だってあります!こ、このくらい余裕です!」
シャキンと音を立てながら、鞘から引き抜かれるロングソード。
その手は僅かに震えているが、大丈夫であると祈りたい限りだ。
「よし、危なくなったら逃げる。いいな?」
「わ、分かってますよ!」
◇◇
「リュックに非常時用のフラッシュライトがあって良かった」
案の定、建物の中は森に覆われた建物の外以上に暗かった。
電気が通っている訳でも、火が焚かれている訳でもないので、室内は殆ど真っ暗。
明かりになる物を持っていなかった、と一瞬こそ焦った二人だったが、レイジが転移の時に一緒に持ってきていたリュックの中には、非常時用に携帯していた新品のフラッシュライトが仕込まれていた。
恐らくこの世界に『電池』の概念は無さそうなので、あまり電池の無駄遣いはしたくなかったが、代わりになる物が何も無いとなると致し方ない。
「けど、何もありませんね。殆どもぬけの殻ですし…」
「結局、魔物の住処とかじゃなくて、ただの街外れにある廃れた廃墟って訳……」
刹那、レイジ達が探索していた広い部屋の奥から突然、ピカッと赤い光が四つ程、眩しく光った。
ゴゴゴゴと、響く駆動音の様な何かと、僅かにではあるが振動する床。
ミシミシと床が軋み、不安と恐怖を煽ってくる。
「な、何だ!?」
「敵!?」
サテラは再び鞘に納めていた剣を抜剣し、光がある方向に向けて斬り掛かる。
レイジも、左手に持ったフラッシュライトを赤い光の方向へと向けつつ、ハンドガンを右手に持ち、引き金に指を掛けた。
「で、出たぁぁぁぁぁぁ!!」
「レイジ、下がって!はぁぁぁぁ!」
暗闇でよく見えないが、ロングソードの間合いから、敵の位置を瞬時に予測したサテラは、剣をそのまま振り下ろした。
だが、振り下ろしたのと同時に、バキンッ!と嫌な音が響く。
「ヴァ!?折れたぁぁ!?」
刹那、レイジの真横を折れた剣の刃がクルクルと回転しながら横切き、そのまま壁にドスリと勢い良く突き刺さった。
「うぉあ!」
もう少し横に立っていたら、と考えると生きた心地がしなかった。
「クソ!サテラ、逃げるぞ!」
「は、はいぃぃ!」
折れた剣の柄を適当な方向に、ポイッと投げ捨てると、レイジとサテラは急いで、背を向けながら全速力で走り出し、この場から逃げようとしたが…。
「オチツイテクダサイ!テキデハアリマセン」
「えっ!?」
「喋った?」
自分達の背後に届いた無機質な声。意外な言葉を聞いた二人は、ピョコピョコと動かしていた足をピタリと止めた。
恐る恐る振り返る二人。
「え、何だこれ。魔物?」
「って、魔導兵器?何でこんな所に!?」
魔物と言うには、あまりにも機械的な見た目をしている。
全身、暗闇に溶け込む様なダークグレー。大きさは二メートルを簡単に上回っている程の大きさ。身長175cmを軽く越えているレイジですら、簡単に見上げる程の全長だ。
神社の鐘の様な形をし、頭部らしき部分と胴体のパーツが結合している機械の体とまるで何かを守る為に設計された様な長い二本の機械仕掛けの腕部とマニュピレーターとでも言うべき三つの爪の様な機械の指、脚部は腕部に比べると短く、まるで地面に張り付くと言わんばかりに大型化している。
頭部には、二つの赤い光が点灯している。真ん丸でズレなく水平に並んだ二つの赤い光は、まるで目の役割を持っているかの様であった。
頭頂には、レーダーの様な探知装置らしき何かが取り付けられている。網状のパーツは願いを叶える龍を呼び出す球を探すアイテムによく似ている。
そして、胴体部には、目の様な二つの光と同様に、四つの赤い光が菱形状に並び、眩く光っていた。
「ろ、ロボット?」
「そう言う呼ばれ方もありますが、正確には『魔力駆動兵器』またの名を『魔導メカ』『魔導兵器』です」
「ワタシハヨウサイキョテンボウエイヨウマドウヘイキ、カタシキ04-035。システムヲサイキドウヲカクニン、アナタタチヲゴエイイタシマス」
すると、サテラは何かを思い出したかの様に、ハッとして、顎に手を当てた。
「型式04って事は、あの防衛用魔導兵器ですか。まだ動く機体が残ってたんですね」
「あの、サテラさん。説明を」
レイジは自他共に認めるオタク。無論、ロボット関連に疎い訳じゃないし、現に今目の前でロボットが動き、喋っているので、強く興奮している。
しかし、サテラがレイジに専門用語を大量にぶつけて来たのもあって、若干理解が追い付かなくなっていた。
一人だけ置いていかれるのを危惧したレイジは、サテラに説明を求めた。
「要約すると、この兵器はちょっと前まで現役だった防衛用の魔導兵器なんです。今は新しい兵器が運用されていて、言っちゃえばもうお役御免の存在。でも、私達の国でもかつては運用されていました」
「変だなぁ、僕この世界に来てから魔導兵器の存在なんて聞かなかったよ?」
「現在、このタイプの魔導兵器は国の存亡に関わる事態にならないと出撃出来ないので、単に伝えられていなかっただけだと思いますよ?実際、魔導兵器は五十年前近くから運用されていますし」
「成る程、いざって時の為に封印されている騎士って訳か…………って、じゃあ何でここにいるんだよ!?」
国の存亡に関わる時にしか出撃出来ないとサテラは軽く言ったが、そう考えればここにこの兵器が放置されているのは明らかにイレギュラーだと言える。
普通に考えれば、国の地下や、秘密の部屋的な場所に鎮座しているのがお約束。
少なくとも、こんな国から何時間も離れた街の更に向こう側にある深い森の廃墟の中にあるなんてあり得ない話だ。
「私が直接見た訳じゃありませんが、今まで大多数が出撃した事なんて何度もありましたよ?恐らくこの機体も、その途中で隊とはぐれてしまったか、内部の『魔力生成石』が壊れなかったにしろ、過度なダメージを受けて緊急停止した部類だと思います。よく分かりませんが…」
「メモリーディスクハソン。コウドウルート、サクセンルート、アクセスフノウ」
「と言ってるが?」
「あちゃー、本当に色々と破損してる部類ですね。これは昔の作戦内容も全部忘れちゃってるなぁ…」
腕を組みながら、要塞拠点防衛用兵器-型式04-035と名乗った魔導兵器の前に立つレイジ。
ジィーっと観察する様に、兵器の全身を見つめていく。
「どうする?」
「国に送り届けると言うのが最善な気もしますが、また数時間掛けて国の戻るのもアレですし…」
「仮に戻しても、現役はコイツじゃないんだろ?だったらどうすりゃ…」
誰かに国まで送り届けてもらう、と言う考えも一瞬浮かんだが、代理で引き受けてくれる人がそう簡単に見つかるとも思えない。
それに、代理の人間を見つけたにしても、その分の報酬の事なども考えると、サテラに色々と迷惑を掛けてしまうかもしれない。
「私達の仲間?になってもらうしかないですね。魔導兵器の個人所有事態は、別に禁止されている訳でもないですし」
「え、そうなの?」
今の話を聞いて、てっきり保有したり、管理したり出来るのは全て国だと思っていたが、サテラは個人所有は禁止されていないと言った。
「大量に保有するのは禁止ですが、一部の国は現役では無い兵器を生活補助の為に、国民へ安値で払い下げているんですよ」
「成る程…戦闘用ではなく、って事か」
「農村の方に行けば、結構持ってる人は多いです」
その言葉を聞いて、レイジは「ふぅむ」と唸りながら、少しだけ考え込んだ。
これから二人だけでは、絶対に勝てない場面が生まれていく。
そうなると、旅に同行する仲間を増やしていくのは必然。
この魔導兵器にも同じ事が言える。攻撃の方は分からないが、サテラの持っていた剣を受けてもへし折った辺り、防御面に関しては非常に素晴らしい性能を持っていると言える。
「よし、何か言われるまで、僕らを守ってもらおうか」
「ヨロコンデ!ミンナ、マモル!」
「魔導兵器を仲間に……これは面白い事になりそうですね……あっ」
嬉しさのあまり折れた剣を握った右手を高々と上に掲げたサテラ。
すると、自分の持っていた剣が思いっ切り折れている事に気が付いてしまった。
緊張感が抜けた事で、完全に忘れてしまっていた。
「か、帰ったら新しい剣を買おうか」
「すいません、二重の意味で…」
「買い替えの時だったんだよ、きっと…」
「ダイジョウブ!キニシテナイヨ」