依頼
「さて、今日はまだ時間があるし、実験がてら何か簡単な依頼を受けるとするか」
朝に出発したお陰もあってか、時間はまだ昼前。今から依頼の一つや二つを受けるのには、丁度良い。
レイジはすぐにサテラへ、何か依頼を受けないかと誘いを掛けた。
「いいですね!それじゃあ、早速依頼板に……」
行きましょう!と言おうとしたサテラだったが、昼前と言う事が災いしたのだろうか。
思いっ切り、彼女のお腹がぐぅぅぅっと鳴った。
そう言えば、朝ご飯を食べるのを忘れたと馬に乗って併走している時に話していたのを思い出した。
アチャーと言いたげな感じで、レイジは上を向きながら、右手で顔の上半分を覆った。
そして、嘆息しながらレイジは失笑しながらサテラに言った。
「あはは、まずは飯にしようか」
「うぅ、申し訳ありません…」
「いやいや、僕も腹減ってたし」
◇◆◇◆◇◆◇
「これ、中々美味いな」
「はい、狼肉なのに感触がもっちりしてますね」
冒険者ギルドの隣に建てられている大きな建物は、冒険者向けの酒場と宿が営業している。
その建物の一階の酒場で、レイジとサテラはエネルギー補給として食事を取っていた。
メニューは少しだけ焦げ目が付いた丸いブレッドと狼肉をこんがり焼いた物、野菜を適当に皿へ盛った物と赤色のスープ。
値段の方も、頂いた援助金にほぼ影響が無いもので、レイジとしては人の金で飯を食っている気にしかならなかった。
「取り敢えず、食ったら依頼を探そう」
「ですね。あ、折角ですし色々と話しましょうよ。勿論、敬語は無しで!」
食事の場は貴重な会話の場でもある。
会ってまだ互いに日が浅いので、出来る内に仲良くなっておきたい。
会話の幅を広げて、どんどん友情を深めたいレイジとサテラは、早速敬語無しの友達の様な談笑を始める。
「転移させられた、って事は…やっぱり別の世界から来たと言う事なんですよね?何処か遠い土地からじゃなくて、モグモグ…」
「そうだね。パラレルワールド?別世界?的な感じなのかな…僕が居た世界はこの世界みたいに非科学的な世界じゃなかったけど、モグモグ……」
「魔法とか、こうやって冒険者をやってる人も、なかったし居なかったんですか?」
「あぁ、魔法なんておとぎ話以下だし、そんな人達はただの空想上の存在だった。こっちの世界じゃ、そう言うのが普通なんだろ?」
「私の知る限りでも、沢山話を聞いてます!よく歴史書とか本に書いてあるの」
「聞かせてくれよ」
そう言って彼女が話し始めたのは、前の世界に居た時の自分なら確実に信じないであろう話ばかりであった。
それこそ、まるでライトノベルの中で起こりそうな伝承や人物ばかりだった。
(骸骨だの魔導兵器だの世界を滅ぼそうとする巨人だの、本当に異世界なんだなここは…)
「ふぅ、ごちそうさまでした。どうです、少しは楽しめましたか?」
「ごちそうさま、楽しませてもらったよ。またこうやって話せると嬉しいな」
備え付けの紙で口を拭きながら、異世界の話を聞かせてもらった事に感謝するレイジ。
それに対しサテラは、ケラケラと笑いながら答えた。
「何ですまたこうやってって、まるで最後の会話みたいじゃないですか!これから、何度もこうやって話せますからね!」
プププと、口を押さえながらレイジを見て笑うサテラ。
それに対し、レイジは自分が何を言ったのかを瞬時に理解し、頬が赤く染まった。
「こ、言葉選びをミスっただけだ…」
「本当かなぁ?」
「う、うるさーい!さっさと依頼を見つけに行くぞ!」
◆◇◆◇◆◇◆
食事を終えた二人は、早速冒険者ギルドの依頼板に貼られた無数の依頼用紙の中から、初めての自分達でも出来る依頼を探していた。
「サテラって剣技の方はどうなんだ?」
「騎士隊の中ではかなり劣ってましたが、これでも最低限の基礎は心得ています。ちょっとした魔物なら、問題無く倒せます!」
「と、この人は言ってるが何が起こるか分からんな」
「ちょ、ちょっと!もう少しオブラートに言ってくださいよ!」
チョップする勢いでツッコミを入れるサテラだが、レイジは嘆息しながら言い放った。
「仮に初手で死んだらどうする?僕はまだ死にたくないんだよ」
と言い放って、可愛く怒っているサテラを横目に依頼用紙へまた一枚、また一枚と目を通していくレイジ。
最初の依頼でしくじって、そのままあの世送りにされるなんて物凄く嫌な話だ。
ここは絶対に選択を間違えていけない。
「これ良いんじゃないのか?大型廃墟施設の探索。魔物が居るか居ないかの確認だけで良いらしい。居なかったら居なかったと報告すればいいし、居たら逃げ帰って報告して、もっと強い冒険者に討伐しに行ってもらえばいい。どうかな?」
「悪くないね。やりましょう!」
すぐさま、レイジとサテラは廃墟施設の探索の依頼を受注した。