お供の騎士様
二年ぶりとなる銃をその手に握って、早くも三週間。
ハンドガンを始め、ショットガンやライフル、更にはマシンガン、短機関銃までもを自分の手足の如く使用出来る様になっていた。
「使える様にはなったが、もし旅に出るなら全部は持っていけないな」
自室で準備をしていたレイジが考えている事は、これからの写真撮影放浪記に持っていく銃についてだった。
写真撮影放浪記に行くと決めたは良いが、無論身一つで持っていける物には限りがある。
一応、自分の身と一緒に持ってきたリュックがあるとは言え、入れられるのはハンドガンが限界。
ショットガンは入らない事はないが、いれるとグリップの部分がリュックから顔を出してしまう。
ライフルやマシンガンは担がないと持ち運べないので却下。
恐らく、初期で持っていけるのは弾薬の事や予備のマガジン、その他の持ち物等も考えてハンドガン二丁とショットガン一丁、UZIと似た形をしたサブマシンガン一丁が限界。
弾薬は普通に武器や防具等の装備を売っている店で買う事が出来ると聞いたので特別多く持っていく予定は無い。
しかし、やはり一発一発が消耗品である為に、気持ち少し多めの量が必要だ。
(訓練もいい感じに詰めたし、クレイさんやリュウタロウと体術の訓練も詰めた。そろそろ放浪を始めるには悪くない)
手始めにリュックへとハンドガン二丁、ショットガンと短機関銃を一丁ずつ、最後に護身用に使えるであろう更に小型化されたハンドガンとコンバットナイフ。
これだけあれば暫くは戦う事が出来るだろう。
「よし、皆に伝えて…」
スタッと椅子から立ち上がり、リュックを担いでヒッソリと旅立とうとするレイジだったが…。
「レイジ!」
何者かがコンコンとレイジの自室のドアをノックする。
木材のドア越しに、誰かがレイジの名を呼ぶ。少なくとも、押し入って何か乱暴される可能性はないので、レイジは大人しくドアを開けた。
「はい」
ドアの前に立っていたのは、この数週間転移させられた六人の面倒を見てくれていた護衛騎士隊の隊長であったクレイだった。
「そろそろ行くんだろ?」
「クレイさん…」
レイジの顔を見るなり、クレイはニヤリと微笑むとレイジの肩に手を回し、耳打ちする。
「王様から頼まれてな、お前の放浪旅に従事する奴を探してきてほしいと言われた。良かったらこの国の騎士の中から選ばないか?全員、俺の直々の部下だからな!実力の方は保証するぜ」
「え、良いんですか?」
「おぅ、当然だ!」
その言葉を聞いて、レイジは僅かにではあるが口角を上げた。
確かに悪くは無い考え。読み物や書物でこの異世界の事を学んでいるとは言え、所詮文字で見ただけに過ぎない。
実際にこの国から出た事はないので、言ってしまえば外の世界に対する経験が一切無い。
現状、知識があっても経験がない状態。己の身一つで外へと飛び出すのはかなり無謀。
悪く言えば命知らずも良い所なのだ。
そんな現状に激突していたレイジだが、クレイは偶然にも自身の旅に従事してくれる人を紹介してくれるのだと言う。
「やってる事、貴方の部下の引き抜きですよ?」
「ガッハハ!そんな細かい事気にするな!」
バンバンとレイジの背中を連続で叩きながら豪快に笑うクレイ。
「じゃあ、お言葉に甘えます」
「よぉし決まりだ!着いてこい!」
◆◇◆◇◆◇◆
「アイツはどうだ?盾役にはピッタリだぜ!」
「いや、何かしっくり来ない」
クレイと一時間程、放浪旅に従事してくれるお供探しをしていたレイジ。
しかし、レイジは中々自分と楽しい旅が出来そうな者を見つけられずにいた。
今クレイが指を指しているのは、超大型の盾を振り回す巨漢の若々しい男。
仲間の騎士と模擬試合を行っており、盾をさながら鈍器の様に振り回している。
「何だよ、お前さっきからそればっかりじゃねぇか」
「これからの長い旅を共にするんです。しっかりと選びたいんですよ」
広い訓練場で汗を流しながら剣を打ち合い、鍛錬を行う騎士達を横目に、違う人を探しに行こうとその場から去っていく。
「ったく、こだわりの強い奴だな。って、勝手に行くなぁ!」
腕を組みながらブツブツと言っていたクレイだが、話が終わる前にレイジは先に行ってしまっていた。
ツッコミを入れると同時に、走ってレイジを追うクレイ。さながらコントの様なやり取りだ。
(何か全員、好きになれないなぁ)
高望みしている立場であるのは理解している。騎士一人を好きに選べるなんて贅沢以外の何物でもない。
しかし、これからレイジが出ようとしている旅はとても長く、辛いものになる。
レイジ自身もそうだが、着いてこられる程の強さとメンタル、そして仲良くやっていけるか…。
「はぁ、これじゃ最悪一人……」
訓練場から自室に向けて、一人でトボトボと歩きながら戻ろうとしていたレイジ。
クレイを置いてきてしまったが、道自体はもう覚えているので問題は無い。
「ん?」
もう自室に帰って一旦仕切り直しを図ろうとしたレイジだったが、ふと一人で剣を振る人の姿が目に入り、レイジの足が止まった。
(うぁ、可愛い子だ)
訓練場の外で、他の騎士と同様に鎧と赤いマントを身に付けた一人の女性が苦しい表情を浮かべながらも剣を振っている。
見た目は他の騎士と遜色無いが、他の騎士と異なるのは、かなり身に付けている鎧が軽装であると言う事だ。
男性より非力な女性であるからと言う考えも一瞬浮かんだが、今まで見てきた騎士の中には女性ながら男性の騎士と同様の装備を身に付けている者もいた。
(なんでなんだろ?)
紫色の髪を動きやすい様、ポニーテールの様に結び、ハッ!ハッ!っと辛そうな息を吐きながら、ただ我武者羅に一人で剣を素振りしている。
「……」
その顔立ちは騎士に似合わない様な程の美女。その美しさはミアやヒナタに劣らない程で、美しさとは真逆とも言える『剣』を振っていてもその美しさは全く劣りを見せない。
背丈や雰囲気からも分かる、歳もきっと近いだろう。
(でも、何で訓練場の外で…)
しかし、一つ疑問に思ったのは何故この騎士は訓練場の外で訓練をしていたのかだ。
普通に考えれば訓練場で他の騎士と共に訓練するのが当然。
だが、この騎士は訓練場の外で剣を振っている。本当に何故なのか分からなかった。
「……」
「あ…!」
ずっと見入る様に見てしまっていたのが災いし、剣を振っていた女騎士は、レイジの存在に気が付いてしまった。
睨まれるかと一瞬、身構えたレイジだが、彼の予想とは全く違う行動を彼女は取った。
「お疲れ様です!」
剣を鞘に納刀すると同時に、女性はペコリと頭を下げた。
いきなり睨まれたらどうしようかと考えていたレイジだが、意外にも礼儀正しくお辞儀をされてしまったので、レイジも同じ様に「お疲れ様です!」と言って、慌てながらお辞儀をした。
「あ、君は?」
「初めまして、公国護衛騎士隊所属のサテラ・ディアと申します。貴方は、確か召喚された…」
「不知火レイジです。もうすぐ放浪の旅に出るので、クレイさんと一緒に従事してくれる人を探して…」
「おーい、レイジ!」
サテラと名乗った女性に自身の名を明かし、少し軽く話そうとした直後、後ろから息を切らしながら、騎士隊長のクレイがレイジに追いついた。
「全く、置いてかないでくれよ。って、お前…」
クレイがサテラを見るなり、きょとんとした顔を見せる。
「お前、まさかとは思うが…そいつを従事させるのか?」
悪の銃使いでも出ていたサテラ・ディア。奴隷ではなく騎士になっています。