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平穏を望む青年は銃と奴隷とカメラと騎士と兵器と半魔族と一緒に… (RE版.悪の銃使い)  作者: 復活のBastion
一章-銃士達の旅立ち〜氷炎の刃と魔導兵器達〜
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半人前の魔王

 

「どうなっている、数が減らないとは…」



 戦闘が開始し、アルディラの軍勢と魔物の大群が正面から激突して早くも数十分。


 アルディラは、己の得物である長刀を何十回と振り回し、敵を斬り続けていたが、彼は違和感を覚えていた。


 それは、魔物の数が一向に減らない。あれだけの数を斬り捨てた。

 刀の刃によって引き裂いた。だが、数は減らない。



「シエル、敵の数は?」



 低く、焦りを見せない声音で部下の一人、シエルに聞くアルディラ。

 蝙蝠の様な生物然とした翼を生やし、空から偵察を行っていたシエルは、地面へと着地すると血相を変えてアルディラへと報告する。



「アルディラ様、魔物の総数は減る気配を見せませんし、どうやら、魔物は全て何者かによってマインドコントロールされている模様です。こちらも、かなりの数が負傷し、陣形が乱れています。相手に魔導兵器使用者がいる事も視野にお入れください…」



「何だと…」



「崩れた陣形の穴から、魔物が城へと攻め入ろうとしています。ここは撤退戦を」



 魔物を斬りつつ、この僅かな時間の中で思考を逡巡させるアルディラ。

 部下もかなりの数が負傷し、近くには魔物に混じって、何人か部下の亡骸が大地に転がっている。


 舌打ちしつつ、この先の展開を予測するアルディラ。



「あの人間は?」



「騎士と獣人、量産型魔導兵器を連れて戦闘を継続しています」



 その言葉を聞くなり、アルディラは長刀を片手に、周辺の魔物を片付けると突然、レイジ達の元へと全速力で走り出した。



「アルディラ、様!?」



 ◇◇



「これ以上貴様らを付き合わせる訳にはいかん。撤退しろ」



 レイジの背後を取った魔物を斬り捨てるアルディラ。それと同時に、彼は真剣な眼差しでレイジ達に撤退を促す。


 射撃戦を展開していたレイジは、一度射撃を止めると同時に、アルディラの方に向き直った。



「え、急に何で!?」



 レイジは血相を変えて、驚きのあまり目を見開いた。



「敵の数が減らん。それに、この戦いは俺達のモノ。貴様らが介入する義理はない」



 汚れと煤が付着した特攻服をはためかせながら、アルディラはレイジと目を合わせるのではなく、魔物の軍勢へと刀の切っ先と視線を向けて、レイジに告げた。



「お前のやるべき事は、この事を伝えて援軍を呼ぶ。この場で戦う事ではない。早く行け…」



 アルディラの表情に、僅かにではあるが優しさが帯びた。

 レイジはアルディラと会ってから、彼は非道で残忍な性格であると感じていた。


 冷酷な視線、強者の圧力、連れている部下の面々。

 その全てにおいて、アルディラと言う男は優しさの欠片も無い人物だと感じていた。


 しかし、今アルディラがレイジに見せた表情。冷酷だと思っていた表面とはまた違うもの。



「け、けど…」



「ここで全員死ぬとでも?」



 ある程度の不敬を承知で、冷や汗を垂らしながらコクリと頷くレイジ。



「あり得ぬ。我々はこの世の者達に拒まれた存在。こんな場所を、墓には選ばん」



「………」



 死にはしない、と高らかに宣言するアルディラ。だがレイジは俯いたまま、静止。足は石像の様に動かない。


 すると、いつまでも下を向いて視線を泳がせて動けないレイジに発破を掛ける様にして、アルディラはレイジの胸ぐらを掴み、叫ぶ。



「何をしている!!ここで貴様まで死ねば、この事を伝えるのは誰だ!?」



「ぐっ、は!」



 アルディラはレイジに顔を近付け、赤い瞳を不気味に輝かせ、続けた。



「それとも貴様は、俺の事をナメているのか?ここで情けなく散り、魔物の餌になると?」



「…………違う!」



 レイジは、自身の胸ぐらを掴む手を払い除けると、息を荒げながら言い放った。



「僕達だけ逃げるなんてあんまりじゃないですか!最後まで、戦う……」



 刹那、レイジの腹部に激痛が走り、口から多量のよだれが溢れた。

 手にしていたハンドガンは地面に音を立てて落下し、両膝を着くと同時に、地面に倒れ込んだ。



「……な、何故…」



 腹部を右手で押さえながら、微力ながらも立ち上がろうとするレイジ。

 目の前に立つアルディラ。彼の右手の拳は強く握り締められていた。



「お前は命を散らすには早すぎる。もう行け…」



「必ず……必ず援軍を呼んできます!」



 いつの間にか、倒れ込んだレイジの近くに来ていたサテラとルキア、肆式。

 サテラはアルディラの言葉を素直に受け入れると、彼に向けて一礼する。


 そして、意識が遠のいていくレイジは、朦朧とする中で肆式に背負われた。



「あ、ある……ディ、ラ…さん」



 最後まで彼を心配し、僅かに残った意識だけを頼りに、彼へと手を伸ばすレイジ。

 小さな傷が幾つも付けられた特攻服を纏うアルディラ。レイジの微々たる動きに気が付いたのか、アルディラは、瞳を半開きにしたレイジと目を合わせた。



「……お前は随分と…魔族を思いやれる人間なのだな…」



 身の丈程の長刀を片手で持ち、切っ先に手を添えるアルディラ。

 絶えず襲い来る魔物の軍勢。サテラ達は、遂に意識を闇に落としたレイジを連れて撤退を開始。


 アルディラは振り向く事なく、独白する様にして告げた。



「……お前の様な人間が、もっといれば良かった……」


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