人付き合いが嫌いな領主
「じゃあ、僕が行きましょう」
青年が、誰を人付き合いが嫌いな者の元へ使者として送ろうかと言う話し合いをする中、レイジは迷わず手を挙げた。
「何だと!?行ってくれるのか?」
「見た感じ、誰も手を挙げなさそうでしたし、まだ相手がどんな人なのかを知らない僕の方が、上手くいきそうじゃないですか?」
「……」
顎に指を当てて、僅かに考え込む青年。
しかし、迷っていられる余地が無いと即座に判断したのか、青年はすぐにゴーサインを出した。
「分かった、それじゃあ頼む。ただ、本当に気を付けろよ」
釘を刺す様に、再三伝える青年。
「変な事口走ったら、首が飛ぶかもしれないからな」
「わ、分かってますよ。最低限の敬語ぐらい使えます」
◆◇◆◇◆◇◆
馬舎から二頭の馬を出したレイジは、早速仲間達を連れて、人付き合いを嫌う者が統治している独立国の元へと向かう事にした。
青年から受け取った小さな地図を片手に、日が沈みかけ、夕日でギラギラと輝く道を進む。
「距離的には、あんまり離れていなさそうだな。急ごう」
「そうですね。しかし、人付き合いが嫌いな領主様と言うのも、変な話…」
馬に乗って併走していたサテラが、レイジに声を掛けてきた。
サテラの言葉に、レイジは小さく頷く。確かにその通りだと、納得した。
「普通、領主は皆に慕われなくちゃダメ。周りの人から距離を置かれてるなんて…」
レイジの胴にギュッと掴まっていたルキアも、サテラと同様の事を口にした。
(まぁ領主って普通は、住民の人に好かれてないとダメ……だよな?確かに悪徳な奴も結構見た事あるけど…)
首を捻るレイジ。人付き合いが悪くて、街の皆から距離を置かれている領主なんて、あまり聞いた事がない。
「ま、とにかく急ごう。この瞬間にも、魔物の軍勢は迫ってるんだからな」
馬の走らせる速度を上げ、レイジは地図に記された道を突き進んだ。
◇◆◇◆◇◆
「ええっと、ルキア……さん?僕、もしかして地図を反対向きに読んでたの、かな?」
馬から降りて、再度地図を確認するレイジ。その表情には焦りが見られ、冷や汗が何滴も滴っている。
「レイジ…様。少なくとも、ワタシは間違ってない様に見えるぞ……?」
「レイジさん、道を聞く時に聞かない方が良い所があるんですよ。朽ち果てた教会、水浸しの地下室、変な契約を持ち掛けてきそうな武器がある部屋、そして何よりも目の前のこれ」
震えた右手を突き刺して、サテラは目の前の建物を指差した。
「入ったら、生きて帰ってこれなさそうな城の門」
日が完全に沈み、時刻は夜。しかも、今日は雲が多いせいで星の様な光は何一つ確認出来ない。
不気味で暗闇に包まれた世界、それに便乗するかの様にして、目の前に現れたのは巨大な城の門。
しかし、レイジが召喚された国や、先程訪れた街とは異なり、かなり異質で狂的な雰囲気を醸し出していた。
特に『悪』『邪悪』と言った物を強調する様な作り、と言う訳では無いのだが、門の内側から漂う雰囲気と戦いに慣れていない素人のレイジですら理解出来る、ただならぬ気配。
思わずレイジは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「一応入れそうだけど、入ったら呪われそうだ…」
ルキアが後退りし、レイジの後ろへこそこそと隠れる。
しかし、レイジは首を横にぶんぶんと振り、ホルスターからハンドガンを抜くと、右手でしっかりとホールドし、先へと進もうとした。
「い、行くんですか!?」
サテラが止めようとするも、レイジは足を止めて、振り返る事なく答えた。
「行かなきゃならんだろうが。言われた事は、きちんとやらないと…」
それに続けて、レイジは振り返ると優しい表情でサテラとルキアに言った。
「もし、怖いなら無理に着いてこなくていい」
「ワタシハ、オトモシマス」
恐れるのなら、無理に同行する必要はないと諭す様に言うレイジ。
そして、魔導兵器である肆式は、恐怖の感情等知らず、ただ今従っている人間のレイジの後ろを歩く。
それを眺めていた二人。やるせない気分になったのか、サテラは鞘から剣を引き抜くと、ドスドスと音を立てて歩き出した。
「私も行きます!私は、貴方の『護衛』を任されているので!」
「なら、ワタシも行く!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
門をくぐって僅か数分。早速、城の中に繋がりそうな、大きい両開き式の扉を見つけたレイジ。
素人のレイジにも分かる。この先に誰かがいると言う事に。
扉の奥からは、並々ならぬ気配が漂い、まるで侵入者を待ち構える様に、絶えず強烈な気配を発し続けていた。
「肆式、左の方を頼む。僕は右を開ける」
「ワカリマシタ」
両開き式の扉の右手をレイジ、左手を肆式が開ける事となった。
サテラとルキアは後方の警戒を担当。
「それじゃ、せーので開けるぞ」
駆動音を響かせる肆式。
「せーの!」
ガチャンと大きい音を立てて開く両開き式の扉。
開いた扉の奥。薄暗いが、蝋燭の様なくすんだオレンジ色の光が、幾つも灯っている。
「誰かいませんか!?」
火があるのなら、誰かがここにいる証拠。レイジはすぐに、誰かいないかと声を上げた。
しかし、建物の中はシィーンと静まり返っていて、レイジの声がただ虚しく響くのみ。
広い室内と、恐怖心を煽り立てる様に反響するレイジの声。
「が、外出中だったとか……?」
ここまで来ると、たまたま外出中だったと願いたくなったレイジ。
しかし、レイジの願いは無情にも打ち砕かれた。
「何用だ……?」
刹那、部屋の一番奥。そこに紅の光が二つ。ピカンと光ると同時に、低い声が響いた。
それと同時に感じたのは、門をくぐる前から感じていた並々ならぬ気配。
「……っ!?」
レイジは一歩後退りし、肆式がすぐさまレイジ達の前へと立ち塞がり、三人を庇う姿勢を見せた。
「ほぅ…人間に獣人、ましてや魔導兵器とは……。一体、何処の差し金だ?」
戦慄が走ると同時に、レイジ達が開けた両開き式の扉が、バタンと音を立てて勢い良く閉じられ、建物の中の明かりが一斉に灯り、内部が煌々と照らされた。
「なっ……」
「どこに立っている…?……どけ…」
逆立てられた黒髪と人間とは思えない様な青白い肌、黒く染まった白目と赤い瞳、凶悪なイメージを持たせる特攻服と、威厳ある軍服を混ぜたかの様なデザインの服装。
左手に握られるのは、身の丈に並ぶ程の長さを持った長刀。
一目でレイジは理解する。目の前に現れたこの男は、自身とは強さの格とステージが違う事に。




