次の目的地
翌日、まだ眠っている先にサテラとルキアを横目に、レイジと肆式は宿から発つ準備をしていた。
「よし、後は二人の荷物だけだな」
「モウ、シュッパツシマスカ?」
「いや、まだ二人寝てるし」
◇◆◇◆◇◆
二人がぐっすり寝ている間、特にやる事がなかったレイジは、下の階から新聞らしき紙を取ってくると、部屋に戻って肆式と共に、新聞に目を通していた。
「魔物の凶暴化。大群で移動し、街を幾つも破壊。各国は軍団を設立して対応。何か大変そうな事になってるな」
「ソウデスネ。マモノノタイリョウハッセイ、キヲツケナイト…」
「巻き込まれるのは厄介だが、僕も召喚された身だ。近くで魔物の大群が現れたのなら、戦わなくちゃいけないな…」
自分の願いを聞き入れてもらい、本来の使命を捨てて好きに異世界を放浪している身のレイジ。
しかし本来の使命を、均衡を取り戻して、安定した世界を取り戻すと言う忘れた訳では無い。
いざと言う時は、魔物の大群を前に逃げる事しか出来ない者を助ける。
レイジは、それぐらいの覚悟は決めていた。戦う力を持たない訳では無い。
「ふぁぁぁ……おはよう、ございます」
「んんっ……朝ァ?」
新聞を読んで深く考えていると、すぐ後ろでサテラとルキアが目を覚ました。
起きるなり、大きくあくびをして身体を伸ばし、目を数回軽く擦る。
「サテラ、ルキア、おはよう。出発するから、髪整えたりしたら、準備の方を頼む」
「はい、分かりましたー」
◇◆◇◆◇◆
「よし、撮るよ!ハイチーズ!」
その後、全員の出発準備が終わり、宿から発ったレイジ達は、街に入る為の門の前でサテラ、ルキア、肆式を横に並べると、すぐに写真を現像させる事の出来るカメラを取り出し、カシャリとシャッターを切り、連続して、一眼レフのカメラでも同様に写真を撮った。
異世界に来て、放浪旅を共にする者も増えていき、嬉しくなったレイジは、その記念として、彼女らの写真を残す事とした。
最初は、何をしているのか分からず、戸惑うサテラ達だったが、写真を撮って、すぐに写真が現像されると、サテラ達は目を輝かせる。
「うぁ、凄い!私達が紙の中にいる!」
「普通は、絵で残すもんなのに……」
「ウツッテル!スゴイ!」
どうやら全員、カメラは見た事も撮られた事もなかった様で、驚いた表情を見せた。
全員に写真を見せたレイジは、その写真をリュックの中にあるサイドポケットへと突っ込んだ。
レイジからすれば、非常に貴重な品物。絶対に紛失したり、破れたりしない様にしなければならない。
「大切な物なんですか?」
「まぁね。片方は、母さんに買ってもらった物だから…」
まだ幼い頃、誕生日に買ってもらった大切なカメラ。レイジにとっては宝物だった。
「そう、なんですか。とてもいいお母さんなんですね……。あ、それじゃ行きましょうか!」
少々、含みがある様に聞こえたが、レイジは特に気にする事はなかった。
「そうだな」
馬舎に預けていた二頭の馬を回収した後、レイジ達は初めて訪れた街を後にする。
「ほら、ルキア。乗ってけ」
「レイジ様、いいの?」
「勿論!」
微笑んで、後ろに乗る事を許可するレイジ。
そして、ルキアは主であるレイジの手を取り、馬へと乗り込む。ルキアが、ギュッとレイジの胴を掴んだのを確認すると同時に、サテラが馬を走らせて、レイジもそれに便乗して馬を走らせた。
「肆式、着いてこいよ!」
「ハイ、ウシロハマカセテクダサイ!」
これは、ほんの始まりに過ぎない…。